●平成22(ワ)18041 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟「

 本日は、『平成22(ワ)18041 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟「ソレノイド駆動ポンプの制御回路」平成25年7月11日 大阪地方裁判所(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20130723140323.pdf)について取り上げます。


 本件は、特許権侵害差止等請求事件で、均等侵害は認容されたものの特許無効の抗弁によってその請求が棄却された事案です。


 本件では、均等侵害についての判断が参考になるかと思います。


 つまり、大阪地裁(第26民事部 裁判長裁判官 山田陽三、裁判官 松川充康、裁判官 西田昌吾)は、


『当裁判所は,旧イ号製品,新イ号製品,ロ号製品は,いずれも本件特許発明1の技術的範囲に属するが(新イ号製品とロ号製品は,均等なものとして),本件特許発明1には進歩性欠如の無効理由があり,本件特許発明2についても同様の無効理由があるので,原告の請求はいずれも棄却されるべきであると判断する。

その理由は次のとおりである。


3争点1−4(新イ号製品は本件特許発明1と均等なものとしてその技術的範囲に属するか)について


 特許請求の範囲に記載された構成中に対象製品等と異なる部分が存在する場合であっても,?その部分が特許発明の本質的部分ではなく,?その部分を対象製品等におけるものと置き換えても,特許発明の目的を達することができ,同一の作用効果を奏するものであって,?そのように置き換えることに,当業者が,対象製品等の製造等の時点において容易に想到することができたものであり,?対象製品等が,特許発明の特許出願時における公知技術と同一又は当業者がこれからその出願時に容易に推考できたものではなく,かつ,?対象製品等が特許発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情もないときは,当該対象製品は,特許請求の範囲に記載された構成と均等なものとして,特許発明の技術的範囲に属すると解される。


 前記2記載のとおり,新イ号製品は,本件特許発明1の構成要件B1を文言上充足するとは認められないが,以下のとおり,上記?から?までの要件を満たしており,本件特許発明1と均等なものとしてその技術的範囲に属するといえる。


(1)第2要件

 本件特許発明1が「交流電圧の電源1から整流されて駆動回路7に提供される直流電圧を分圧して検出する検出手段5」(構成要件B1)を備えているのに対し,新イ号製品は,交流電源1から提供された交流電圧を,本件特許発明1の「駆動回路7」に当たる「FET4b」へ直流電圧を提供する整流器とは別の「整流器17」に分岐し,整流した後,「分圧回路18」及び「CPU8」で直流電圧を分圧して検出するものであり,この点で両者は相違する。


 しかし,本件特許発明1と新イ号製品のいずれも,「所望の直流電圧」と比較すべき電源電圧の値を測定する手段を備える点では同じであり(弁論の全趣旨),ただ,その検出手段の接続部位を異にするにとどまる。そのため,本件特許発明1の構成要件B1を新イ号製品における構成に置き換えたとしても,交流電源の電圧値が90〜264Vのいずれかにかかわらず,「駆動回路7」に提供された直流電圧を「所望の直流電圧」に変換するという本件特許発明1の目的は達することができ,同一の作用効果を奏するものといえる。



(2)第3要件

 上記(1)記載のとおり,本件特許発明1と新イ号製品とは,「所望の直流電圧」と比較すべき電源電圧の値を測定する手段を備える点では共通していながら,その検出手段の接続部位を異にしている。


 しかし,電源電圧値の測定については,「交流電圧の電源1から整流されて駆動回路7に提供される直流電圧」を分圧して検出するという方法に限定されるものでなく,新イ号製品のように,別の分岐先で整流された直流電圧を分圧して検出することでも同様に可能なことは,技術常識上明らかである。


 そのため,本件特許発明1の構成要件B1を新イ号製品における構成に置き換えることは,当業者が,新イ号製品の製造時点において容易に想到することができたものといえる。


(3)第1要件


 本件特許発明1は,ソレノイド駆動ポンプの制御回路に係る物の発明であり,交流電源の電圧値が90〜264Vのいずれかにかかわらず,「駆動回路7」に提供された直流電圧を「所望の直流電圧」に変換する点に特徴がある。そのため,「所望の直流電圧」と比較されるべき電源電圧値を測定する構成を備えることは必須といえるが,電圧の具体的な検出手段に,従来技術にはない本件特許発明1の課題解決手段を基礎づける特徴があるわけではなく,その点を本質的部分とする発明ではない。


 したがって,電圧の検出手段の接続部位は,本件特許発明1の本質的部分ではないといえる。


(4)第4要件

 本要件について,被告からの主張立証はない。


(5)第5要件

 原告は,本件特許1の出願当初,構成要件B1に相当する部分を「駆動回路7に電圧を提供する電源1の電圧を検出する検出手段5」としていたが,平成19年5月2日付け拒絶理由通知を受けた後,「交流電圧の電源1から整流されて駆動回路7に提供される直流電圧を検出する検出手段5」と補正した(乙1〜3)。しかし,平成19年5月2日付け拒絶理由通知は,特許法36条4項(実施可能要件)及び同条6項2号(明確性要件)の要件を満たしていないとするもので,新規性及び進歩性に係る拒絶理由通知ではなかったし,電圧の検出手段に係る記載の不備を指摘するものでもなかった(乙2)。原告が手続補正書とあわせて提出した意見書においても,電圧の検出手段に関して特段の説明をしているわけではない。


 このような経過からすれば,原告の上記補正について,新規性や進歩性の欠如を回避するなどのため,電圧の検出手段に関して特定の構成を意識的に除外したものとは言い難い。


 また,他に均等の成立を否定すべき特段の事情も認められない。

(6)小括

 以上より,新イ号製品は,本件特許発明1と均等なものとしてその技術的範囲に属するといえる。』


 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照して下さい。