●平成28(ワ)5739 意匠権・民事訴訟「美容用顔面カバー」平成29年2

 本日は、『平成28(ワ)5739 意匠権民事訴訟「美容用顔面カバー」平成29年2月7日 大阪地裁』(http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/502/086502_hanrei.pdf)について取り上げます。


 本件は、意匠権侵害差止等請求事件で、その請求が棄却された事案です。


 本件では、裁判所の争点(1)(本件意匠と被告意匠の類否)についての判断が参考になるかと思います。


 つまり、大阪地裁(第21民事部 裁判長裁判官 森崎英二、裁判官 田原美奈子、裁判官 大川潤子)は、

『1 争点(1)(本件意匠と被告意匠の類否)について
(1) 登録意匠とそれ以外の意匠との類否の判断は,需要者の視覚を通じて起こさせる美感に基づいて行うものとされており(意匠法24条2項),この類否の判断は,両意匠を全体的に観察することを要するが,意匠に係る物品の用途,使用態様,更には公知意匠にない新規な創作部分の存否等を参酌して,当該意匠に係る物品の看者となる需要者が視覚を通じて注意を惹きやすい部分を把握し,この部分を中心に対比した上で,両意匠が全体的な美感を共通にするか否かによって類否を決するのが相当であると解される。

(2) 被告意匠の構成態様について
 ・・・
ア 基本的構成態様
 ・・・
イ 具体的構成態様
 ・・・

(3) 本件意匠の要部について

ア 美容用顔面カバーの用途,使用態様
 ・・・
イ 公知意匠について

 証拠(乙1,乙5,乙6,乙8,乙9)によれば,顔の輪郭に合わせて外側に凸となる曲線の形状をしたシリコン樹脂製シートのパック用マスクであって,目,鼻,口部に孔が開けられ,耳部には,紐状の耳掛け部があるもの(乙1)や,人の顔と同型の,顔の輪郭に合わせて外側に凸となる曲線の形状をしたラテックス製の美顔用面であって,目,及び鼻孔部に孔が開けられ,耳部には耳を覆うように面の輪郭が一体形成され,顔面に当接させる耳掛け部として,長楕円形の開口部が設けられているもの(乙5)が,公知意匠として存在していたこと,また,シート状の不織布等を素材とするフェイスマスクにおいては,鼻部が孔でなく,鼻尖部でコの字状に切り込みを設け,鼻の形状に合わせて隆起する形状のものが公知意匠として存在していたことが認められる。


ウ 本件意匠の要部の認定

 美容用顔面カバーの用途,使用態様のほか,上記認定に係る公知意匠からすれば,本件意匠の基本的構成態様は,本件意匠に係る物品である美容用顔面カバーにおいて,通常考えられる形態であって新規な形態とは認められず,本件意匠において新規で創作性の認められる部分は,その具体的構成態様における以下の点,すなわち輪郭の形状において,こめかみから顎上部にかけて外形に沿った凸状の筋が設けられている点,鼻部において,鼻の形状に合わせて両目付近から鼻尖部まで連続的に隆起しており,隆起部分の脇に谷折りとなる略直線を構成する点,耳部において,耳を開口部の外形に沿って凸状の筋が構成されている点という具体的構成にあるといえる。


 そして,上記(1)の美容用顔面カバーの需要者が選択時に物品が顔にフィットする形状であるかとともに,使用状態に影響する目,鼻及び口の部分の形状,さらには装着のための耳掛け部の形状に注目することを考慮すれば,顔面にフィットするよう立体的に形成された美容用顔面カバーにおける鼻部の具体的な形状,耳掛け部周辺の具体的形状が需要者の注意を最も惹く部分であり,これらが本件意匠の要部であるといえる。


(4) 本件意匠と被告意匠との対比
ア 共通点
 ・・・

イ 差異点
 ・・・

ウ 以上により検討するに,被告意匠と本件意匠の上記イ認定の差異点は,上記(3)で認定した本件意匠の要部にもかかわるものであると認められる。そして,その中でもとりわけ,被告意匠は,鼻部において,両目部の孔の内側付近から鼻尖部まで連続的に隆起し,正中線に沿ったその頂点の折り込み線が,明確な鼻梁を構成している上,両目部の両端,あるいはハート形である口部に尖った形状の部分が現れることも合わさって,全体に鼻筋の通った引き締まった顔立ちの印象となっているといえるのに対し,本件意匠は,鼻尖部が丸型であり,また鼻梁を明確に認識できないだけでなく,両目部及び口部がいずれも単純な楕円形であることから,全体にのっぺりとした印象を与えるものであるといえ,これらから,両意匠を全体的に観察した場合,看者である需要者に与える印象は異なっているということができる。


 したがって,両意匠は類似するということはできないというべきである。


2 結論

 以上のとおり,被告意匠は本件意匠に類似せず,被告に意匠権侵害が認められないから,その余の点を判断するまでもなく,原告の被告に対する請求はいずれも理由がない。


 よって,原告の被告に対する請求をいずれも棄却することとし,訴訟費用の負担につき民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。』

 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照して下さい。