●平成12(ワ)8456 特許権 民事訴訟「重量物吊上げ用フック装置事件」

 本日は、『平成12(ワ)8456 特許権 民事訴訟「重量物吊上げ用フック装置事件」平成14年04月16日 東京地方裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/92194CCD27AC6AAD49256BF8002017CB.pdf)について取上げます。


 本件も均等侵害が認められた事案であり、損害額の計算で6/10(http://d.hatena.ne.jp/Nbenrishi/20070610)に取上げましたが、その際、均等侵害については紹介しなかったので、本日は、均等侵害について紹介します。


 つまり、東京地裁(民事第46部 三村 量一 裁判長)は、

『(2) 構成要件(障モ)’と均等侵害の成否について
  原告らは,前記の相違点(本件相違部分)が存在することを前提にしながら,ロ号製品は本件特許発明ii)と均等の範囲に属する旨主張するので検討する。

  一般に,特許請求の範囲に記載された構成中に対象製品等と異なる部分が存在する場合であっても,i) 上記部分が特許発明の本質的部分ではなく,ii) この部分を対象製品等におけるものと置き換えても,特許発明の目的を達することができ,同一の作用効果を奏するものであって,iii) このように置き換えることに,当業者が,対象製品等の製造等の時点において容易に想到することができたものであり,iv) 対象製品等が,特許発明の特許出願時における公知技術と同一又は当業者がこれから上記出願時に容易に推考できたものではなく,かつ,v) 対象製品等が特許発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情もないときは,上記対象製品等は,特許請求の範囲に記載された構成と均等なものとして,特許発明の技術的範囲に属するものと解するのが相当である最高裁平成10年2月24日第三小法廷判決・民集52巻1号113頁参照)。


 そこで,上記最高裁判決が示す要件(以下「要件i)」などという。)に基づき,ロ号製品が本件特許発明ii)と均等であるかどうかについて,判断する。


ア 要件i)に関して,本件明細書ii)の記載とそこにおいて先行技術とされた本件特許発明i)(ただし,出願時未公開)との技術の相違からすると,本件特許発明ii)の本質的部分は,フック装置抜去のために,フック支持体が反転して開口部を開放した状態でフックとの位置をロックする抜去用ロック機構を設けたことであり,ロックの具体的構成や配置は本質的部分には当たらないと考えられる。

  この点,本件特許発明ii)に係る出願の平成8年1月11日付け拒絶理由通知書(乙1)において引用されている実願昭61−163379号(実開昭63−67585号)のマイクロフィルムには,荷重を地面に降ろすとフック部が反転して自動的にワイヤーロープを外す装置である自動はずしフックの考案が収録されている。そして,上記マイクロフィルム中の図面(特に第1図,第4図)には,開口部を開放した状態でフックとフック支持体の位置関係をロックするロック体(位置保持手段15)をフック支持体側に設け,係止部(係止段部14)をフックの側に配設した具体的なロック機構という点において,本件特許発明ii)の抜去用ロック機構と同様の構成が開示されている。しかし,これは,ワイヤーロープが外れた後に,フックが揺動することを防ぐためであり,フック装置を抜去するためのものではなく,また,フックが自動的に反転して荷重を開放し,しかもその時はフックが下向きになっているため,フックの抜去という問題は生じない。したがって,上記の考案は本件特許発明ii)と解決するべき課題を異にするものであって,上記ロック機構が存在することは,本件相違部分が本質的部分か否かについての前記判断を左右するものではない。


イ 要件ii)に関して,本件特許発明ii)の抜去用ロックの構成をロ号製品におけるそれに置き換えた場合でも同一の作用効果を奏することは,当事者間に争いがない。


ウ 要件iii)に関して,ロ号製品のロック機構は,フック背部の先端から背方に屈曲した二股構造の空間内に配設されたロックが,抜去用ロック本体を兼ね,その配設位置もフックの側にあること,また,係止部がフック支持体の中央部に設けられていることを特徴とするが,本件特許発明ii)より前に公知であった特公昭49−23488号の特許公報(甲9)には,二股空間内に設けられた1個のロック(ラッチ)により,フック支持体(舌片)の閉鎖状態で,フック支持体中央部の係止部に係止してロックし,フック支持体の開放状態で,フック支持体中央部の他の係止部に係止してフック支持体を開放状態に維持する技術が開示されている。上記技術において,フック支持体の開放状態の維持は,ロック状態を生じさせることによるのではなく,スプリング(バネ)の作用によるものであるが(甲9の2頁左欄15行目〜18行目参照),スプリングの力で位置を維持するか,ロック状態とするかは,係止部とロック片との形状及びスプリングの力の方向を適宜設計変更すれば足りる程度の事項である。

  したがって,当業者としては,本件特許発明ii)が開示されていれば,これに公知である上記の技術を適用して,ロ号製品の抜去用ロック機構に置換することは容易であるものと認められる。


エ 要件iv)に関して,本件全証拠によっても,本件特許発明ii)の出願時にロ号製品と同一内容の公知技術又はロ号製品の構成を容易に推考できるような公知技術が存在したことを認めることはできない。被告は設計図面(乙4,5)や特許明細書の抜粋(乙6)の存在により本件特許発明ii)の構成は公知となっていた旨主張するが,証拠(甲18)及び弁論の全趣旨によれば,これらの文書は原告Aが株式会社秋山又は被告に対して一定の目的に基づき守秘義務を課した上でファクシミリにより送信したものであると認められる上,これらの文書の記載から,ロ号製品の具体的な構成を容易に推考できるものでもない。


オ 要件v)に関して,被告はロ号製品には仮想略平行線が存在しないことを前提に,ロ号製品は特許請求の範囲から意識的に除外された旨を主張するが,ロ号製品に仮想略平行線が存在することは前記1(2) で認定したとおりであるから,被告の主張は前提を欠く。


  以上によれば,ロ号製品は,本件特許発明ii)の構成と均等なものとして,その技術的範囲に属するというべきである。 』

 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照して下さい。