●平成16(ネ)2563等 特許権侵害差止等請求控訴事件「置棚」

  本日は、『平成16(ネ)2563等 特許権侵害差止等請求控訴事件,同附帯控訴事件 特許権 民事訴訟「置棚」平成19年11月27日 大阪高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20071128094245.pdf)について取り上げます。


  本件は、特許権侵害差止等請求の控訴事件で、その請求が棄却された事案です。


  本件では、イ号物件について文言侵害だけでなく、均等侵害が認められており、均等侵害を認めた判断が参考になるかと、思います。


 つまり、大阪高裁(第8民事部 裁判長裁判官 若林諒)は、

2 争点(2)(均等論)(イ号構成d中の「下半分が円形で上半分が角丸略四角形であり中央部から下方に向かって突出片を有する孔からなる支持部」が構成要件Dの「円形孔からなる支持部」に該当しない場合の仮定的判断)


(1) 特許権侵害訴訟において,特許発明に係る願書に添付した明細書の特許請求の範囲に記載された構成中に相手方が製造等する製品(対象製品)と異なる部分が存する場合であっても,(i)右部分が特許発明の本質的部分ではなく,(ii)右部分を対象製品等におけるものと置き換えても,特許発明の目的を達することができ,同一の作用効果を奏するものであって,(iii)右のように置き換えることに,当業者(当該発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者)が,対象製品の製造等の時点において容易に想到することができたものであり,(iv)対象製品が,特許発明の特許出願時における公知技術と同一又は当業者がこれから右出願時に容易に推考できたものではなく,かつ,(v)対象製品が特許発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情もないときは,右対象製品は,特許請求の範囲に記載された構成と均等なものとして,特許発明の技術的範囲に属するものと解するのが相当である(最高裁平成10年2月24日第三小法廷判決・民集52巻1号113頁参照)。



 そして,上記要件のうち,(i)ないし(iii)は,特許請求の範囲に記載された発明と実質的に同一であるというための要件であるのに対し,(iv)及び(v)はこれを否定するための要件というべきであるから,これらの要件を基礎づける事実の証明責任という意味において,(i)ないし(iii)は均等を主張する者が,(iv)及び(v)はこれを否定する者が証明責任を負担すると解するのが相当である。



 そこで,イ号物件が上記各要件を充足するかを,以下検討する。


(2) 本質的部分について

ア 特許発明の本質的部分とは,特許請求の範囲に記載された特許発明の構成のうちで,当該特許発明特有の課題解決手段を基礎づける特徴的な部分,言い換えれば,右部分が他の構成に置き換えられるならば,全体として当該特許発明の技術的思想とは別個のものと評価されるような部分をいうものと解するのが相当である。すなわち,特許法が保護しようとする発明の実質的価値は,従来技術では達成し得なかった技術的課題の解決を実現するための,従来技術に見られない特有の技術的思想に基づく解決手段を,具体的な構成をもって社会に開示した点にあるから,明細書の特許請求の範囲に記載された構成のうち,当該特許発明特有の解決手段を基礎づける技術的思想の中核をなす特徴的部分が特許発明における本質的部分であると理解すべきであり,対象製品がそのような本質的部分において特許発明の構成と異なれば,もはや特許発明の実質的価値は及ばず,特許発明の構成と均等ということはできないと解するのが相当である。


 そして,発明が各構成要件の有機的な結合により特定の作用効果を奏するものであることに照らせば,対象製品との相違が特許発明における本質的部分に係るものであるかどうかを判断するにあたっては,単に特許請求の範囲に記載された構成の一部を形式的に取り出すのではなく,特許発明を先行技術と対比して課題の解決手段における特徴的原理を確定した上で,対象製品の備える解決手段が特許発明における解決手段の原理と実質的に同一の原理に属するものか,それともこれとは異なる原理に属するものかという点から判断すべきである。


イ これを本件についてみるに,前記のとおり,訂正明細書の記載,本件発明の特許登録・本件訂正の経緯,及び関連する審決・判決の認定,公知技術等を総合すれば,本件発明は,収納空間の幅はそれぞれの建物等によって異なるところ,収納空間の寸法に応じて置棚のサイズを調整でき,かつ,ガタツキがなく,外管の径に見合って十分な積載荷重を確保することができるようにするために,着脱自在の取替棚を掛止する棚受用横桟を,外管に内管を伸縮可能に挿通する構成にした上,固定棚先端の支持部の孔に摺動自在に挿通して当該固定棚を水平に支持するとともに,取替棚を外管上のみに掛止めする構成とした点に特徴的部分があるというべきであり,かかる構成が本件発明の枢要な部分であり,本質的部分であるということができ,構成要件Dのうちの支持部が円形孔からなっている点は本質的部分といえない。


 したがって,「下半分が円形で上半分が角丸略四角形であり中央部から下方に向かって突出片を有する」部分と異なる本件発明中の「円形孔からなる支持部」は本件発明の本質的部分ではない。


 この点,控訴人は,本件発明の固定棚の先端の支持部が円形孔(断面が真円状の孔)であることは本件発明の本質的部分であると主張するが,上記のとおり採用できない。


 控訴人主張の「円形孔なる支持部」との訂正に伴い,固定棚が「着脱自在ではない」という作用効果を有することとなり,本件発明は有効なものとして存続したといえるが,そのことにより,支持部の形状が円形孔であるとの部分が本件発明の本質的部分となったとはいえない。


(3) 置換可能性について

 本件構成要件D中の「円形孔からなる支持部」を,イ号構成d中の「下半分が円形で上半分が角丸略四角形であり中央部から下方に向かって突出片を有する孔からなる支持部3b」に置換しても,固定棚の先端の支持部に外管を摺動自在に挿通して固定棚を水平に支持することができ,支脚間に棚受用横桟を架橋した状態では当該横桟から固定棚を分離することができず着脱自在でなく,そして,収納空間の寸法に応じて置棚のサイズを調整でき,かつ,ガタツキがなく,外管の径に見合って十分な積載荷重を確保することができるようにするとの本件発明の目的を達成することができ,同一の作用効果を奏するものということができるから,置換可能性があると認められる。


 控訴人は,本件発明の固定棚の先端の円形孔からなる支持部の作用効果は外管を摺動可能に挿通して水平に支持するものであるところ,イ号物件にはかかる構成は存在せず,固定棚の先端に断面形状がU字形でラッパ状に広がった開口部があるのみであり,太管を水平に支持するのは,リブ,ネジ穴用形成部材の下側接触点及び太管固定用ネジであるなどとも主張して,かかる相違は本質的部分の構成の相違であるとするが,前記イ号物件の構成要件の充足性についてのイ号構成dについて説示したとおり,採用できない。


(4) 置換容易性について

本件発明中の「円形孔からなる支持部」との構成の,イ号構成d中の「下半分が円形で上半分が角丸略四角形であり中央部から下方に向かって突出片を有する孔からなる支持部」への置換は当業者がイ号物件の製造時点において容易に想到することができたものというべきである。


 すなわち,「円形」形状を「下半分が円形で上半分が角丸略四角形」形状に置換することは,考えられ得る複数の形状の一つとして容易に想到し得るところといえ,「中央部から下方に向かって突出片を有する」構成も太管を挿通させて固定棚を支持する機能の補完として当業者であれば選択肢の中に容易に想到するであろう付加的手段といえる。このことは,控訴人主張のイ号構成のテーパ面1a,1bや太管固定ネジ5,ネジ穴用孔形成部材4を考慮しても同様にあてはまる。


(5) 公知技術からの容易推考性について

 イ号物件は,従前存在しなかった本件発明の特徴的枢要な部分である構成を有し,前記本件発明の目的・作用効果を達成するものであって,イ号物件が本件発明の特許出願時点における公知技術と同一又は当業者がこれから同出願時に容易に推考できたものと認めることはできず,これを認めるに足りる証拠はない(後記無効の主張の認められないことも参照)。


(6) 意識的除外等の事情について

 前記のとおり,本件訂正は,訂正前の構成が「当該固定棚の先端の支持部」であったものを第1次判決における訂正前の「固定棚の先端の支持部」についての前記説示を受けて,引用発明1の湾曲掛止部23の構成(円形の一部が開放された断面形状)を回避するため,前記「当該固定棚の先端の円形孔からなる支持部」と訂正し,「円形孔からなる」との技術的事項に限定したものということができるところ,かかる限定した構成により,引用発明1が固定棚を支脚間に棚受用横桟を架橋した状態で着脱できるのに対して着脱自在でない作用効果のものに限定したにすぎないというべきである。


 そうすると,本件訂正により,上記下方の開放された形状のものを除外する趣旨であったことが認められるものの,それ以外の形状のものを意識的に除外したとまでは断定できない。


 したがって,被控訴人により外形的にイ号構成における支持部の形態のものが本件発明の特許請求の範囲から意識的に除外されたなどの特段の事情があると認めることはできず,他にこれを認めるに足りる証拠はない。 』


 と判示されました。

 詳細は、本判決文を参照してください。


 追伸1;<新に出された知財判決>

●『平成18(行ケ)10423 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「紐形結束部材」平成19年11月28日 知的財産高等裁判所』(棄却判決)http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20071128155927.pdf
●『平成18(行ケ)10276 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「熱処理装置および熱処理方法」平成19年11月28日 知的財産高等裁判所』(棄却判決)http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20071128155414.pdf
●『平成18(ワ)22533等 契約金返還等本訴請求事件,契約金返還等反訴請求事件 特許権 民事訴訟 平成19年11月21日 東京地方裁判所http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20071128143248.pdf
●『平成16(ネ)2563等 特許権侵害差止等請求控訴事件,同附帯控訴事件 特許権・ 事訴訟「置棚」平成19年11月27日 大阪高等裁判所』(棄却判決)http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20071128094245.pdf
●『平成19(行ケ)10112 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「スライド・スイング式ドア装置」平成19年11月28日 知的財産高等裁判所』(棄却判決)http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20071128160547.pdf


 追伸2;<気になった記事>

●『ノキアvsクアルコムの特許紛争に出口はあるか』http://it.nikkei.co.jp/internet/news/index.aspx?n=MMITbo000027112007
●『通信技術の特許侵害認めず 東京地裁富士通が敗訴』http://www.chunichi.co.jp/s/article/2007112801000527.html
●『広東省、全国初で特許申請件数50万件を突破』http://www.newschina.jp/news/category_1/child_4/item_7776.html
●『burst.com と Apple が特許侵害訴訟で和解 』http://japan.internet.com/finanews/20071128/12.html
●『第11回 特許(中)当たり前になった「ビジネスモデル特許」(2)』http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/COLUMN/20071101/286147/