●平成28(ワ)675 損害賠償請求事件 意匠権「靴底」民事訴訟

 本日は、『平成28(ワ)675 損害賠償請求事件 意匠権「靴底」民事訴訟 平成29年2月14日 大阪地裁』(http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/618/086618_hanrei.pdf)について取り上げます。


 本件は、部分意匠の意匠権に基づく損害賠償請求事件で、その請求が棄却された事案です。


 本件では、意匠の類否の判断が参考になるかと思います。


 つまり、大阪地裁(第21民事部 裁判長裁判官 森崎英二、裁判官 田原美奈子、裁判官 大川潤子)は、

『1 争点1(被告意匠は本件意匠と類似するか)について

(1) 本件意匠の構成

 ・・・

(2) 本件意匠の要部
意匠の類否を判断するに当たっては,意匠を全体として観察することを要するが,その際には,意匠に係る物品の性質,用途,使用態様,さらに公知意匠にはない新規な創作部分の存否その他の事情を参酌して,取引者・需要者の最も注意を惹きやすい部分を意匠の要部として把握し,登録意匠と相手方意匠が,意匠の要部において構成態様を共通にしているか否かを観察することが必要である。


イ そこで,まず,本件意匠の要部がどこにあるのかについて検討すべきところ,本件意匠に係る物品は靴底であって靴の一部を構成するものであるが,後掲の各証拠によれば,つま先部に比して踵部に厚みのある靴底において,?靴底の周に溝等を刻むことにより複数の層を重ね合わせたように見せた靴底(乙8から乙13),?複数の層を重ね合わせ,うち一枚の層の厚みを変化させることにより踵部に厚みを持たせた形状とした靴底(乙13),?正面視において,ミッドソールが3層に分かれ,踵部から土踏まず部までをA層からC層の3層構造,土踏まず部からつま先部までをA層及びC層の2層構造とする構成の靴底(乙13),?正面視において,ミッドソールが3層に分かれ,踵部から土踏まず部までをA層からC層の3層構造,土踏まず部からつま先部までをB層及びC層の2層構造とする構成の靴底(乙14)が公知であることが認められ,これらからすると,踵部に厚みのある靴底において,複数の層を重ね合わせ,あるいは重ね合わせたように見せた靴底はありふれたものであり,土踏まず部付近を境として,ソールの層数を変化させる構成自体も,そのような靴底のなかで,厚みを変化させる一つの手法ということができ,

 したがって,本件意匠のうち基本的構成態様そのものは,新規な創作部分ではないということができる。


 そして,そもそも靴底及びこれと一体となった靴は,その用途目的に応じて基本的な形態が定まっているものであることからすると,需要者は,まず,その購入目的に沿った基本的な形態の靴の類型を選択し,さらに,その中で具体的形態の差異に注目するものと考えられるから,このような観点のもと,上記公知意匠を踏まえて本件意匠についてみると,本件意匠については,?靴底を構成する3層のソールの側面がいずれも膨らむような形状を有していて,?正面図において,A層右上端部とB層右下端部,B層の右上端部とC層の右下端部がそれぞれ連続し,背面図においては,踵部のA層左上端部とB層左下端部,B層左上端部とC層左下端部がそれぞれ連続し,その境目を凹部分とした略「く」の字型を形成しており,?右側面図において,A層左右上端部とB層左右下端部,B層左右上端部とC層左右下端部はそれぞれ連続し,その境目は凹部分とした略「く」の字型を形成しており,?左側面図において,B層左右上端部とC層の左右下端部が連続し,その境目は,直線に近い略「く」の字型を形成しているものであることに特徴がみられ,この具体的な形状に需要者の注意が惹かれるものと認められる。そして,本件意匠は,これら四つの要素が相俟って,需要者に対し,3層のソールの1層ごとが,革素材の部材を実際に重ね合わせたように見せるとともに,全体としての一体感を保ち,全体に丸みを帯びた柔らかな美感を起こさせているということができる。


 したがって,本件意匠の要部は,前記?を基本として,?ないし?の特徴が出るようA層ないしC層を重ね合わせた点にあるというべきである。


ウ なお原告は,本件意匠において,A層が上部から底部にかけてなだらかな丸みを帯びた面からなるやや末広がりの形状とした構成も要部であると主張するが,その形状は右側面図から十分は看取し得ず,またその形状だけでは靴底の形状として際立った特徴というには足りないから,これが,需要者の注意が惹かれる特徴的な構成とまでは認められず,前記のように,そのような形状のA層とそうでないB層との関係性において,その接合する形状が略「く」の字型を形成する構成とすることによって,革素材の部材を実際に重ね合わせたように見せる特徴として評価されるべきであるから,この点だけを取り出して要部ということはできない。


(3) 被告意匠の構成

 証拠(乙1,乙2,乙4)及び弁論の全趣旨によれば,被告意匠の構成態様は,次のとおりと認められる(被告は,「靴底」を物品とする本件意匠と対比すべき対象となる被告製品の部分としては,被告が特定した被告意匠にさらにD層を含んだ被告特定意匠を用いるべき旨主張しているが,証拠(甲14)によれば,D層なるものは,被告製品のアッパー部分と靴底部分の接着時に,その接着部分を装飾するための部品にすぎず,見た目にも機能的にも靴底とはいえない部材であるから,靴底を物品とする本件意匠と対比すべきは,被告製品の靴底のうちD層を除いた部分であって,被告意匠によるのが相当である。)。


 ・・・


(4) 本件意匠と被告意匠との対比
ア 共通点

 本件意匠と被告意匠とは,基本的構成態様において共通している。


イ 差異点

 本件意匠と被告意匠との具体的構成態様における差異点は,次の点である。

 ・・・


(5) 本件意匠と被告意匠との類似性について


 以上を前提に,本件意匠と被告意匠との類否について検討すると,前記認定の差異点のうち,差異点(4)イ(エ)ないし(カ)(A層ないしC層の厚みの比率の差異)は,数値により確かめられる差異であるが,部位による比率の変化の度合いが似ているので,異なる美感をもたらすほどの大きな差異とはいえず,むしろ微差というべきである。


 他方,被告意匠は,正面図,背面図,右側面図及び左側面図のいずれにおいても,3層のソールのうちB層とC層の関係が,本件意匠のそれと被告意匠のそれとでは異なり,被告意匠では,C層が下側の連続した2層からはみ出していて,その境目に略逆L字型の直角部分を形成するなど明らかに下の2層の周面とは視覚的連続性を欠いており,加えてC層の側面形状における膨らみが他の層よりも小さいことも,その視覚的印象を強めているが,これらの差異は本件意匠の要部にかかわる部位におけるものである。


 そして,その結果,被告意匠は,3層からなるソールのうちC層部分が他の層とは異なる存在感を持ち,それが特徴となって全体に頑丈な印象を与えるものとなっていて,3層のソール全体が一体感を保ち,丸みを帯び柔らかな美感を起こさせる本件意匠とは異なる美感を起こさせているといえる。


 なお,原告は,本件意匠と被告意匠の上記差異が,被告製品がアッパーと靴底を糸で縫い付ける構造であることからもたらされたもので,設計上の微差であるように主張するが,視覚を通じて異なる美感を起こさせるものである以上,それが製造工程に由来するものであるからといって無視してよいわけではなく,設計上の微差をいう上記原告主張は失当である。


 また本件意匠と被告意匠は基本的構成態様において共通しているが,基本的構成態様は公知意匠にも見られ,少なくとも本件意匠の要部に係るものではないから,需要者の注意を惹くものとはいえない。


 したがって,被告意匠は,本件意匠とその要部において異なり,その結果,本件意匠と被告意匠との差異点の印象は,両者の共通点の印象を凌駕し,全体として異なる美感を起こさせるものというべきであるから,被告意匠は,本件意匠に類似するものと認めることはできない。


2 以上によれば,その余の争点につき検討するまでもなく,原告の請求には理由がないからいずれも棄却することとし,訴訟費用の負担につき民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。』

 と判示されました。

 詳細は、本判決文を参照して下さい。