●平成23(ネ)10004 特許権侵害差止等請求控訴事件「車載ナビゲーシ

 本日は、『平成23(ネ)10004 特許権侵害差止等請求控訴事件 特許権 民事訴訟「車載ナビゲーション装置」平成23年11月30日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20111201115335.pdf)について取り上げます。


 本件は、特許権侵害差止等請求控訴事件で、本件控訴が棄却された事案です。


 本件では、被告装置に対する「車載ナビゲーション装置」の該当性の有無の判断が参考になるかと思います。


 つまり、知財高裁(第3部 裁判長裁判官 飯村敏明、裁判官 池下朗、裁判官 武宮英子)は、


『1争点(1)ア及び争点(2)アについて−−「車載ナビゲーション装置」該当性の有無(構成要件1−A及び1−Fの充足性,構成要件2−A及び2−Hの充足性の有無)について


 当裁判所は,被告装置は,構成要件1−A,1−F,2−A及び2−H所定の「車載ナビゲーション装置」に該当しないと判断する。その理由は,以下のとおりである。


(1)「車載ナビゲーション装置」の意義−−特許請求の範囲の記載

 本件各特許発明の構成要件は,以下のとおりである。

「[本件特許発明1]
1−A目的地を設定しその設定した目的地を示す目的地座標デ―タ及び車両の現在地を示す現在地座標デ―タに基づいて現在地から目的地に至る航行情報を表示する車載ナビゲ―ション装置であって,
1−B目的地座標デ―タを記憶するための記憶位置を複数有するメモリと,
1−C目的地が設定される毎にその目的地を示す目的地座標デ―タを前記メモリの少なくとも前回の目的地座標デ―タの記憶位置とは異なる記憶位置に書き込む手段と,
1−D目的地の設定の際に前記メモリに記憶された目的地座標デ―タを読み出す読出し手段と,
1−E読み出された目的地座標デ―タのうちから1の目的地座標デ―タを操作に応じて選択し前記1の目的地座標デ―タの選択によって目的地を設定する手段とを含むことを特徴とする
1−F車載ナビゲ―ション装置。

[本件特許発明2]
2−A地図を表示器に表示する車載ナビゲーション装置であって,
2−B複数のサービス施設を示す表示データ及び各サービス施設の存在地点を示す地点座標データを予め記憶した第1記憶手段と,
2−C前記第1記憶手段から前記表示データを読み出してその前記表示データに応じて前記複数のサービス施設を前記表示器に表示させる手段と,
2−D前記表示器に表示された複数のサービス施設のうちの1のサービス施設を操作に応じて指定する手段と,
2−E指定された1のサービス施設に対応する地点座標データを前記第1記憶手段から読み出す手段と,
2−F読み出された地点座標データを記憶する第2記憶手段と,
2−G前記表示器に地図が表示されているとき前記第2記憶手段から地点座標データを読み出してその地点座標データが示す地図上の地点を所定のパターンにより地図に重畳して前記表示器に表示させる手段とを含むことを特徴とする
2−H車載ナビゲーション装置。」


 本件特許発明1に係る特許請求の範囲の記載によれば,構成要件「1−F」に係る「車載ナビゲーション装置」は,「1−B」ないし「1−E」記載の各手段を含んだ,車に積み込まれているナビゲーション装置であることを必須の要件として規定する。また,本件特許発明2に係る特許請求の範囲の記載によれば,構成要件「2−H」に係る「車載ナビゲーション装置」は,「2−B」ないし「2−G」記載の各手段を含んだ,車に積み込まれているナビゲーション装置であることを要件として規定する。


 ところで,「車載」の語義は,「車に荷物などを積みのせること。」,「荷物などを車に積むこと。」,「車に積みのせること。」(甲22ないし甲25)であることに照らすならば,「車載ナビゲーション装置」は,車両に積みのせられて,常時その状態に置かれている「ナビゲーション装置」を意味するものと解される。その理由は,以下のとおりである。


(2)「車載ナビゲーション装置」の意義−−各明細書の記載の参照

「車載ナビゲーション装置」の意義を詳細に検討するため,各明細書の記載を参照する。
ア本件明細書1の発明の詳細な説明には,「車載ナビゲーション装置」に関して,次のとおり記載されている(甲2の1)。

【0002】【背景技術】地図の道路上の各点を数値化して得られる道路データを含む地図データをCD−ROM等の記憶媒体に記憶しておき,車両の現在地を認識しつつその現在地を含む一定範囲の地域の地図データ群を記憶媒体から読み出して車両の現在地周辺の地図としてディスプレイ上に映し出すとともに,その地図上に車両の現在地を示す自車位置を自動表示させる車載ナビゲーション装置は例えば,特開昭63−12096号公報に開示され既に公知である。
【0003】かかる車載ナビゲーション装置においては,現在地から目的地に至る航行情報としての方位及び距離を方位センサ及び距離センサ等のセンサの出力に応じて算出してディスプレイ上に表示することも行なわれている。目的地は運転者等のユーザのキー操作によりデータ入力されてメモリに目的地座標データとして記憶される。メモリに目的地座標データが記憶されている限り,その目的地座標データに基づいて現在地から目的地に至る方位及び距離が算出されてディスプレイ上に表示されるが,車両の走行時に現在地から目的地までの距離が所定値以下になったとき車両が目的地に到着したとして目的地座標データがメモリから自動的に消去されて方位及び距離が表示されなくなる。従って,従来の装置においては,前回と同一の目的地を新たな目的地として設定する場合であっても複雑なキー操作により設定する必要があった。
【0004】【発明の目的】本発明の目的は,過去に設定した目的地と同一の目的地を設定する場合には簡単な操作で目的地を設定することができる車載ナビゲーション装置を提供することである。
【0005】【発明の構成】本発明の車載ナビゲーション装置は,目的地を設定しその設定した目的地を示す目的地座標データ及び車両の現在地を示す現在地座標データに基づいて現在地から目的地に至る航行情報を表示する車載ナビゲーション装置であって,目的地座標データを記憶するための記憶位置を複数有するメモリと,目的地が設定される毎にその目的地を示す目的地座標データを前記メモリの少なくとも前回の目的地座標データの記憶位置とは異なる記憶位置に書き込む手段と,目的地の設定の際にメモリに記憶された目的地座標データを読み出す手段と,読み出された目的地座標データのうちから1の目的地座標データを操作に応じて選択し1の目的地座標データの選択によって目的地を設定する手段とを含むことを特徴としている。
【0007】【実施例】図1は本発明による車載ナビゲーション装置の一実施例を示すブロック図である。本ナビゲーション装置において,方位センサ1は車両の走行方位を検出し,角速度センサ2は車両の角速度を検出し,距離センサ3は車両の走行距離を検出するためのものであり,GPS(GlobalPositioningSystem)装置4は経度及び緯度情報等から車両の絶対的な位置を検出するためのものであり,これら各センサ(装置)の検出出力はシステムコントローラ5に供給される。方位センサ1としては,例えば地磁気(地球磁界)によって車両の走行方位を検出する地磁気センサが用いられる。また,距離センサ3は車両のドライブシャフト(図示せず)の所定角度の回転毎にパルスを発生するパルス発生器からなる。…
【0008】システムコントローラ5は各センサ(装置)1〜4の検出出力を入力としA/D(アナログ/ディジタル)変換等の処理を行なうインターフェース6と,種々の画像データ処理を行なうとともにインターフェース6から順次送られてくる各センサ(装置)1〜4の出力データに基づいて車両の走行距離,走行方位及び現在地座標(経度,緯度)等の演算を行なうCPU(中央処理回路)7と,このCPU7の各種の処理プログラムやその他必要な情報が予め書き込まれたROM(リード・オンリ・メモリ)8と,プログラムを実行する上で必要な情報の書込み及び読出しが行なわれるRAM(ランダム・アクセス・メモリ)9とから構成されている。RAM9は本ナビゲーション装置の電源断時にもバッテリー(図示せず)の出力電圧を安定化した電圧が供給されて後述する目的地座標データ,目的地記憶フラグ等のデータが消滅しないようにバックアップされる。…
【0009】外部記憶媒体として,読出し専用の不揮発性の記憶媒体としての例えばCD−ROMが用いられる。なお,外部記憶媒体としては,CD−ROMに限らず,DATやICカード等の不揮発性記憶媒体を用いることも可能である。CDROMには,地図の道路上の各点をディジタル化(数値化)して得られる地図データが予め記憶されている。このCD−ROMはCD−ROMドライバー10によって記憶情報の読取りがなされる。CD−ROMドライバー10の読取出力はCDROMデコーダ11でデコードされてバスラインLに送出される。
【0010】車両のいわゆるアクセサリスイッチ12を経たバッテリーからの車両電源電圧がレギュレータ13で安定化されて装置各部の電源として供給されるようになっている。なお,上記したRAM9への供給電源はアクセサリスイッチ12を介さずにレギュレータ13とは別の図示しないレギュレータで安定化される。CPU7は,車両の走行時には,タイマー割込みにより所定周期で方位センサ1の出力データに基づいて車両の走行方位を計算し,かつ距離センサ3の出力データに基づく一定距離走行毎の割込みにより走行距離及び走行方位から車両の現在地の座標データである経度及び緯度データを求め,その現在地点座標を含む一定範囲の地域の地図データをCD−ROMから収集し,この収集したデータをRAM9に一時的に蓄えるとともに表示装置16に供給する。
【0011】表示装置16は,CRT等のディスプレイ17と,V(Video)−RAM等からなるグラフィックメモリ18と,システムコントローラ5から送られてくる地図データをグラフィックメモリ18に画像データとして描画しかつこの画像データを出力するグラフィックコントローラ19と,このグラフィックコントローラ19から出力される画像データに基づいてディスプレイ17上に地図を表示すべく制御する表示コントローラ20とから構成されている。入力装置21はキーボード等からなり,使用者によるキー操作により各種の指令等をシステムコントローラ5に対して発する。そのキーとして目的地を設定するための設定キー,ディスプレイ17上に示された事項の選択用の数字キー及び過去に設定した目的地を呼び出すための目的地復帰キー(共に図示せず)等のキーが設けられている。

イ また,本件明細書2の発明の詳細な説明には,「車載ナビゲーション装置」に関して,次のとおりの記載がある(甲2の2)。


 ・・・省略・・・


ウ上記(1)の特許請求の範囲の記載を基礎に,ア及びイの本件明細書1及び本件明細書2(以下,これらを総称して「本件各明細書」ということがある。)の記載を参照して,「車載ナビゲーション装置」の意義について判断する。


 本件明細書1の段落【0003】ないし【0005】,及び,本件明細書2の段落【0002】,【0005】,【0006】の各記載によれば,本件特許発明1及び本件特許発明2の目的は,従来の車載ナビゲーション装置である「地図の道路上の各点を数値化して得られる道路データを含む地図データをCD−ROM等の記憶媒体に記憶しておき,車両の現在地を認識しつつその現在地を含む一定範囲の地域の地図データ群を記憶媒体から読み出して車両の現在地周辺の地図としてディスプレイ上に映し出すとともに,その地図上に車両の現在地を示す自車位置を自動表示させる車載ナビゲーション装置」に対して,一層の利便性・操作性を向上させることを目的とするものである。すなわち,本件特許発明1では,「過去に設定した目的地と同一の目的地を設定する場合には簡単な操作で目的地を設定することができる」ための技術上の工夫を付加し,また,本件特許発明2では,「面倒な操作をすることなくユーザ地点登録をすることができる」ための技術上の工夫を付加した点に,本件各特許発明の特徴がある。


 ところで,本件明細書1の段落【0005】,【0007】ないし【0011】,及び,本件明細書2の段落【0006】,【0008】ないし【0012】,並びに各添付図面をみても,「ナビゲーション装置」の機能を発揮させるためには,安定的な電力供給があることが必要であり,その電力は,「装置」と一体化している車両から供給することを前提とした実施例が記載されているが,他方「装置」が車両と一体化していない場合に,当然必要になると考えられる充電等の機能については,何らの記載,開示はない。


 上記のとおりの本件各明細書の記載によれば,?本件各特許発明は,「車載ナビゲーション装置は,出願前に公知であった従来型の「車載ナビゲーション装置」と比較して,本件各特許発明の特徴たる新たな技術上の工夫を付加したものであるが,そのような技術上の工夫がされたことにより,常時設置するとの態様について,必然的に変更を伴うと理解すべき理由がないこと,?常時設置するとの態様に変更を加えたと解されるに足りる記述は,明示的にも黙示的にも存在しないこと,?ユーザが,車両を利用しないときに,ナビゲーション装置を車外に搬出することの利便性等を示唆するような記述も見あたらないこと,?ユーザが,車両を利用しないときに,ナビゲーション装置を車外に持ち出すことを含む趣旨であれば,特許請求の範囲に,「車両用ナビゲーション装置」ないし「ナビゲーション装置」等の語が選択されるのが自然であること等の事実を総合すれば,本件各特許発明の特許請求の範囲に記載された「車載ナビゲーション装置」における「車載」とは,車両が利用されているか否かを問わず,車両に積載されて,常時その状態に置かれていることを意味するものと解するのが合理的である(なお,原告が提出する甲26(発明の名称を「車載用映像再生装置」とする公開特許公報)は,ポータブル装置も含むことが特許請求の範囲に明示的に記載され,ポータブルとして使用する場合の電源供給についても発明の詳細な説明に開示されていることに照らすと,仮に,甲26における「車載」の語について,本件各特許発明と上記の解釈と,異なる意義を有するものとして理解されることがあり得たとしても,そのことが,本件各特許発明の解釈を左右するものとはいえない。)。


(3)被告装置について

 被告装置は,以下のとおりである(当事者間に争いがない。)。

ア被告装置は,被告が管理・運営し,車両には搭載されていない被告サーバーと,ユーザにおいて保持する本件携帯端末等から構成される。


イ被告サーバーは,CPU,記憶手段,データ送受信部を含んで構成されている。そして,当該記憶手段には,経路探索を行う探索エンジン,道路網データ及び地図描画データが記憶されており,被告サーバーは,ルート探索結果に基づき,地図描画データを作成することができる。また,本件携帯端末ごとの固有の情報を記憶する記憶手段が設けられている。


ウ本件携帯端末は,CPU,記憶手段,データ送受信部,GPS受信部,ディスプレイ,入力のためのキーを含んで構成されている。そして,当該記憶手段は,被告サーバーで作成された地図描画データを表示するための地図レンダリングエンジンを含むアプリケーションが搭載されている。


エ被告サーバーと本件携帯端末は,それぞれ次の機能を有する(弁論の全趣旨)。

(ア)本件携帯端末のGPS受信部によってGPS信号を受信することにより本件携帯端末の所在地である現在地情報を取得し,また,本件携帯端末におけるキー操作に基づき目的地が指定される。
(イ)これらの現在地情報及び目的地に関する情報は,被告サーバーに転送され,被告サーバーにおいては,これらの情報に基づき,現在地から目的地に至るルートを探索し,探索結果に基づき,地図描画データが作成される。
(ウ)当該地図描画データは,本件携帯端末に転送され,本件携帯端末のディスプレイの画面上にルートの探索結果が表示される。
(エ)移動中は,地図上に車両の現在地を表示し,車両の移動とともに地図がスクロールするマップモード(別紙被告装置説明書の画面1−?,1−?)等によりルート案内が行われる。


(4)小括

 以上のとおりであるから,被告装置は,「被告サーバー」はいうまでもなく,「本件携帯端末」のいずれも,車両に積載されて,常時その状態に置かれることはなく,被告装置は,「車載ナビゲーション装置」には該当しないというべきである。


 被告装置は,本件特許発明1の構成要件「1−A」及び「1−F」,並びに,本件特許発明2の構成要件「2−A」及び「2−H」を充足しない。』


 と判示されました。