●平成22(ワ)3846 不当利得金返還請求事件「送受信線切替器」

 本日は、『平成22(ワ)3846 不当利得金返還請求事件「送受信線切替器」平成23年10月27日 大阪地方裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20111102093507.pdf)について取り上げます。


 本件は、不当利得金返還請求事件で、その請求が棄却された事案です。


 本件では、まず、争点1−2(被告製品は本件特許発明と均等なものとしてその技術的範囲に属するか)についての判断が参考になります。


 つまり、大阪地裁(第26民事部 裁判長裁判官 山田陽三、裁判官 達野ゆき、裁判官 西田昌吾)は、


『2 争点1−2(被告製品は本件特許発明と均等なものとしてその技術的範囲に属するか)について


(1) 特許請求の範囲に記載された構成中に対象製品等と異なる部分が存する場合であっても,? 上記部分が特許発明の本質的部分ではなく,? 上記部分を対象製品等におけるものと置き換えても,特許発明の目的を達することができ,同一の作用効果を奏するものであって,? 上記のように置き換えることに,当業者が,対象製品等の製造等の時点において容易に想到することができたものであり,? 対象製品等が,特許発明の特許出願時における公知技術と同一又は当業者がこれから上記出願時に容易に推考できたものではなく,かつ,? 対象製品等が特許発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情もないときは,上記対象製品等は,特許請求の範囲に記載された構成と均等なものとして,特許発明の技術的範囲に属する。


(2) 以下の理由から,前記1で認定した本件特許発明と被告製品の相違点(原告の主張する置換部分)は,本件特許発明の本質的部分(前記(1)?)であると認めることができる。


特許発明の本質的部分とは,特許請求の範囲に記載された特許発明の構成のうちで,当該特許発明特有の課題解決手段を基礎づける特徴的な部分,言い換えれば,上記部分が他の構成に置き換えられるならば,全体として当該特許発明の技術的思想とは別個のものと評価されるような部分をいうものと解される。


 そして,本質的部分に当たるかどうかを判断するに当たっては,特許発明を特許出願時における先行技術と対比して課題の解決手段における特徴的原理を確定した上で,対象製品の備える解決手段が特許発明における解決手段の原理と実質的に同一の原理に属するものか,それともこれとは異なる原理に属するものかという点から判断すべきものである。


イ 本件特許発明の構成要件A及びB,すなわち「10BASE-T に準拠するツイストペア線においてリンクテストパルスが伝送されること」が周知技術であることは,当事者間で争いがない。


 そうすると,本件特許請求の範囲に記載された特許発明の構成のうちで本件特許発明特有の課題解決手段を基礎づける特徴的な部分は,本件特許発明の構成要件Cであると解するよりほかない。そして,前記1のとおり,本件特許発明の課題の解決手段における特徴的原理は,「リンクテストパルス検出手段の検出結果から送信線か受信線かを判断」した後に「信号線を切り替える」というものである。


 これに対し,被告製品の備える解決手段は,「ストレート結線とクロス結線とをランダムな時間間隔で繰り返し遷移させた上,リンクテストパルスが検出された時点で,この遷移を停止させる構成」を採用したことにある。


 確かに,本件特許発明と被告製品とは,リンクテストパルスの検出結果を用いるという点では共通する。


 しかし,前記1(2)ウ(ウ)のとおり,本件特許発明では,ツイストペア線(リンクテストパルスが伝送されるもので,出願時周知であった。)を使用することが前提となっているのであるから,リンクテストパルスを使用すること自体は課題の前提条件にすぎず,課題解決手段における特徴的原理を共通するとはいえない。


 そして,これに基づく課題解決手段の原理は,本件特許発明が検査結果に基づいて信号線を自動的に切り替えるというものであるのに対し,被告製品は検査結果に基づいて信号線の切替えをやめるというものであって,原理として表裏の関係にある又は論理的に相反するものであり,異なる原理に属するものというほかない。


(3) よって,被告製品と本件特許発明とは本件特許発明の本質的部分である構成要件Cの点で相違するから,その余の点について判断するまでもなく,被告製品は本件特許発明と均等なものということはできない。』

と判示されました。