●平成29(行ケ)10155 審決取消請求事件 商標権「杭」行政訴訟 知

 本日も、『平成29(行ケ)10155 審決取消請求事件 商標権「杭」行政訴訟 知財高裁』(http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/380/087380_hanrei.pdf)について取り上げます。


 本件では、取消事由2(商標法3条2項に該当しないとの判断の誤り)についての判断もが参考になるかと思います。


 つまり、知財高裁(第4部 裁判長裁判官 高部眞規子、裁判官 古河謙一、裁判官 関根澄子)は、


『2 取消事由2(商標法3条2項に該当しないとの判断の誤り)について

(1) 商標法3条2項の趣旨

 前記1のとおり,商標法3条2項は,商品等の形状を普通に用いられる方法で表示する標章のみから成る商標として同条1項3号に該当する商標であっても,使用により自他商品識別力を獲得するに至った場合には,商標登録を受けることができることを規定している。


 そして,立体的形状から成る商標が使用により自他商品識別力を獲得したかどうかは,?当該商標の形状及び当該形状に類似した他の商品等の存否,?当該商標が使用された期間,商品の販売数量,広告宣伝がされた期間及び規模等の使用の事情を総合考慮して判断すべきである。

 なお,使用に係る商標ないし商品等の形状は,原則として,出願に係る商標と実質的に同一であり,指定商品に属する商品であることを要するが,機能を維持するため又は新商品の販売のため,商品等の形状を変更することもあり得ることに照らすと,使用に係る商品等の立体的形状が,出願に係る商標の形状と僅かな相違が存在しても,なお,立体的形状が需要者の目につきやすく,強い印象を与えるものであったか等を総合勘案した上で,立体的形状が独立して自他商品識別力を獲得するに至っているか否かを判断すべきである。

(2) 本願商標に係る商品の形状及び当該形状に類似した他の商品の存在

 本願商標は,指定商品である杭の立体的形状に係るものであり,その形状は,(ア)円柱状の中央部分から頭部と先端部に向けて,円錐状の絞り加工部分があり,(イ)頭部側,先端部側ともに,絞り加工部分の途中に1本の外周線があり,(ウ)頭部側については,外周線を越えた後も絞りは続くが,絞り切る前に,絞り加工部分より大径のリング部分及びリング部分より小径の台形部分があり,これが頭部の末端となり,(エ)先端部についても,外周線を越えた後も絞りが続くが,絞り切る前に,絞り加工部分より大径のリング部分及び絞りの線よりも鋭角の線による円錐部分があり,これが先端部の末端となるというものであるところ,前記1のとおり,円柱状の中央部分(上記(ア)),頭部の末端の台形部分(上記(ウ)),先端部の末端の円錐部分(上記(エ))から成る杭は,他にも市販されている。また,上記(ア),(ウ),(エ)の頭部と先端部に向けた絞り加工や,上記(エ)の絞り加工より大径のリング部分,上記(イ)の外周線も,機能又は美観に資することを目的とする形状と予測し得る範囲のものであって,本願商標は,杭の形状として通常採用されている範囲を大きく超えるものとまではいえない。


 さらに,本願商標と実質的に同一の形状から成る複数の杭が,第三者の取扱いに係る商品として販売されていること,原告は,これに対して何らの権利行使も行っていないことも認められる(乙20〜22,弁論の全趣旨)。


 したがって,原告商品の立体的形状自体が他の商品にない特徴的なものであるとはいえない。


(3) 使用の実情
ア 本願商標の使用実績・販売数量について
 ・・・
イ 広告宣伝について
 ・・・
ウ 使用による自他商品識別力について

 前記アのとおり,原告商品は,平成6年から23年間にわたり,その形状を変えることなく,継続的に販売され,平成6年から平成27年の間で,販売本数約630万本,販売金額約60億円と一定程度の販売実績を上げていることが認められるものの,そのシェアは不明である上,上記のとおり,平成8年9月から平成23年9月までは原告実用新案権又は原告意匠権が存在していたものである。


 また,前記イのとおり,原告商品のカタログや漫画冊子が頒布されたり,新聞や雑誌等にも掲載されるなどの宣伝広告活動が行われ,多数の展示会において展示され,他の業者のカタログやインターネット販売サイトにも掲載されたことが認められる。


 しかしながら,上記のとおり,原告広告宣伝等には,原告商品の立体的形状の表示がないものも多数存在する一方で,そのほとんどに「くい丸」の文字商標が付され,展示会の会場にもくい丸の文字商標が掲げられていたことが認められる。文字商標の使用態様を見ると,原告のカタログには,表紙に,文字のみからなる「くい丸」商標,又は,「くい丸」との文字商標が太い横長の楕円に囲まれた中に記載されたもの(以下「楕円で囲まれた『くい丸』商標」という。)が付されている上,カタログの内部や裏表紙にも,文字のみからなる「くい丸」商標や,楕円で囲まれた「くい丸」商標が表示され,新聞広告には,楕円で囲まれた「くい丸」商標のみを掲載したものもあり(甲24の4〜7),展示会の会場にも,楕円で囲まれた「くい丸」商標が,大きく目立つように掲示されており,「くい丸」の文字商標が,強く印象に残る態様で表示されていることが認められる。


 また,原告広告宣伝等において,本件全体形状や本件頭部形状のイラストや写真が表示される場合には,頭部側の大径のリング部分の下に,楕円で囲まれた「くい丸」商標が表示されている。


 そうすると,原告広告宣伝等に接したり,展示会に赴いたりした取引者,需要者は,「くい丸」の文字商標により,記載ないし展示された杭が原告の商品であることを認識し,商品の出所を確認するものと認められ,原告商品の立体的形状によって,商品の出所を認識したとはいえない。


(4) 小括

 以上のとおり,?原告商品の立体的形状は,他の同種商品にはない特徴的なものとはいえないこと,?一定の販売実績を挙げてきたものの,そのシェアは不明であり,実用新案権意匠権が存在していたこと,原告商品の広告宣伝展示が継続して行われたとしても,取引者,需要者は,併せ使用された「くい丸」の文字商標に注目して自他商品の識別を行ってきたと認められること,これらの事情を総合すると,原告商品の立体的形状が,文字商標から独立して,その形状のみにより自他商品識別力を獲得するには至っていないというべきである。


 したがって,本願商標は,使用をされた結果自他商品識別力を獲得し,商標法3条2項により商標登録が認められるべきものということはできない。


(5) 原告の主張について

 ・・・・

エ 原告は,原告実用新案権,原告意匠権の存続期間満了後に,本願商標と実質的に同一の形状から成る杭が,第三者の取扱いに係る商品として複数販売されていることは,原告商品の立体的形状が自他商品識別機能や品質保証機能を備えているが故にこれに便乗するものであると主張する。


 確かに,本願商標と実質的に同一の形状から成る他社商品に関するインターネット上のウェブサイトには,「【くい丸】と同型・同品質!さらに!まとめればまとめるほど,あの【くい丸】よりもお買い得!!!」「<杭 ジェネリックアルマックス社製>…まとめ買いでくい丸よりお得!」(甲129,乙20の2),「くい丸と同じ形状です。」(甲130,乙21)との記載があり,これら販売業者においても,その販売商品が原告商品の後発品であることを認識していることが推認される。


 しかしながら,原告は,平成23年9月2日に原告意匠権の存続期間が満了するまでは,原告実用新案権又は原告意匠権に基づき原告商品を独占的に実施していたことを推認できるところ,実用新案権意匠権の権利者が,考案や意匠を一定期間独占できることは当然であり,実用新案権意匠権に基づく一定期間の独占の結果として,その権利範囲に含まれる商品の形状又はこれに類似する商品の形状について,権利者の業務に係るものとして知られたことをもって,直ちに商標登録に必要な自他識別力を備えたことにはならない。商標権は,存続期間の更新を繰り返すことにより半永久的に保有することができることを踏まえると,実用新案権意匠権の対象となっていた立体的形状について商標権によって保護を与えることは,実用新案法や意匠法による権利の存続期間を超えて半永久的に特定の者に独占権を認める結果を生じかねず,事業者間の公正な競争を不当に制限することになる。

 したがって,実用新案権意匠権の対象となっていた立体的形状について権利による独占とは無関係に自他識別力を取得した等の特段の事情の認められない限り,使用による自他識別力を取得したと認めることはできない。そして,上記の検討結果に照らすなら,本願商標について,かかる特段の事情があることを認めるに足りる事情が存在することを認めることはできない。


 そうすると,原告実用新案権,原告意匠権の存続期間満了後に,原告商品の類似商品が販売されている事実をもって,原告商品の立体的形状が自他商品識別機能を有することを推認することはできない。


(6) まとめ

 以上によれば,取消事由2は理由がない。


3 結論

 よって,原告の請求は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。』

 と判示されました。

 詳細は、本判決文を参照して下さい。