●平成21(ネ)10052特許権侵害差止等請求控訴事件「ドリップバッグ」

 本日は、『平成21(ネ)10052 特許権侵害差止等請求控訴事件 特許権 民事訴訟「ドリップバッグ」平成22年01月25日 知的財産高等裁判所』 (http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20100127083523.pdf)について取り上げます。


 本件は、特許権侵害差止等請求控訴事件で、控訴が棄却された事案です。


 本件では、まず、均等侵害の成否についての判断が参考になるかと思います。


 つまり、知財高裁(第2部 裁判長裁判官 中野哲弘、裁判官 今井弘晃、裁判官 真辺朋子)は、

『(2) 均等侵害の成否(控訴人の主張(2))

 控訴人は,仮に被告製品が本件特許発明の舌片部を備えないとしても,A部分6’と補強片9’との一体構造を有する被告製品1は本件特許発明と均等物であると主張するので,以下検討する。


ア 時機に遅れた攻撃方法該当性の有無

 被控訴人は,当審における均等侵害の主張の追加は時機に遅れており,却下されるべきであると主張する。


 本件記録によれば,控訴人による均等侵害の主張は,平成21年8月31日付けの控訴理由書においてなされたものであることが認められるが,その後特段の証拠調べをすることなく,平成21年12月17日に口頭弁論が終結されたことが認められる。このような本件訴訟の審理経緯に鑑みると,「これにより訴訟の完結を遅延させることとなる」(民訴法157条1項)とまでいうことはできないというべきであり,被控訴人の上記主張は採用することができない。


イ 均等侵害についての検討

(ア) 明細書の特許請求の範囲に記載された構成中に他人が製造する対象製品と異なる部分が存する場合であっても,?該部分が特許発明の本質的部分ではなく,?該部分を対象製品等におけるものと置き換えても特許発明の目的を達することができ同一の作用効果を奏するものであって,?このように置き換えることに当該発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(当業者)が,対象製品等の製造等の時点において容易に想到することができたものであり,?対象製品が特許発明の特許出願時における公知技術と同一又は当業者がこれから出願時に容易に推考できたものではなく,かつ,?対象製品が特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情もないときは,該製品は,特許請求の範囲に記載された構成と均等なものとして,特許発明の技術的範囲に属するものと解される最高裁第三小法廷平成10年2月24日判決・民集52巻1号113頁参照)。


 そこで,以上の観点に立って本件事案につき検討する。


(イ) 本質的部分(上記?の観点)について

 控訴人は,被告製品1と本件特許発明とでは,被告製品1の掛止部材において,本件特許発明のアーム部に該当する把手部?5’の下端において連続する部材が,補強片と連続しない舌状のかけら部材ではなく,舌状の部材(A部分6’)とその舌状の部材の上端において連続した逆U字形の最外周の縁(補強片9’)との一体構造体であって,かかる一体構造体が把手部?5’の内側のみに形成されているとはいえない点が構成の異なる部分であると主張する。


 なるほど控訴人の主張は,被告製品1においては,A部分6’と補強片9’とが一体構造となっており,本件特許発明の「舌片部」を備えるものでないこと,及び,この一体構造がアーム部に相当する把手部?5’の内側のみにあるとはいえないこと,すなわち舌片部がアーム部の内側にあるとはいえないこと,との2つの相違点があることを前提として,これら構成が均等である旨主張するものと解される。


 これにつき検討すると,構成の異なる部分が発明の本質的部分であるとは,発明の課題解決のための特徴的な部分をいうと解されるところ,本件特許発明は,上記のとおり,既に知られたカップオン方式,カップイン方式のそれぞれの長所である,コーヒーの美味,セットや注湯のしやすさと簡略な構成・抽出後の廃棄が容易で安全なことの双方を達成しようとするものである。


 そのため本件特許発明のドリップバッグは,上端部に開口部を有する袋本体と薄板状材料からなる対向する外表面に設けられる掛止部材とからなり(簡略で廃棄が容易である),その掛止部材は,周縁側に形成される周縁部,周縁部の内側にあり袋本体から引き起こし可能に形成されるアーム部,アーム部の内側に形成される舌片部からなる。


 そして,周縁部とアーム部,アーム部と舌片部は,それぞれ端部で連続し,周縁部又は舌片部のいずれかが袋本体に貼着され,周縁部が袋本体に貼着された場合には舌片部がカップ側壁にかけられ,アーム部によって反対方向に引っ張られて袋本体の上端が開口しカップの中央上部に吊されることになる(コーヒーが美味でセット・注湯がしやすく安全である)ものである。


 そうすると,本件特許発明において,周縁部を袋本体に貼着した場合には舌片部をアーム部と共に引き起こすことも可能であること,舌片部がアーム部の内側に形成されていることは,いずれも本件特許発明の本質的部分であるということができる。


 そうすると,被告製品1においてA部分6’と補強片9’とが一体構造となっていて本件特許発明の舌片部を備えるものではなく,この一体構造がアーム部に相当する把手部?5’の内側のみにあるといえないとの相違点は,いずれも本件特許発明の本質的部分において相違するものである。


 そうすると,その余の点について判断するまでもなく,均等侵害についての控訴人の主張は理由がないことになる。


(ウ) 控訴人の主張に対する補足的判断

 控訴人は,甲14(弁理士A作成の「調査報告書」)を提出し,本件特許発明における袋本体の対向する2面を外向き反対方向に引っ張りつつカップに掛止させるタイプの発明としてはパイオニアであり,被告製品1はかかるパイオニア発明である本件特許発明を利用するものにすぎず,特許権侵害と評価すべきであると主張する。


 甲14は,本件特許出願前の出願に係る関連特許,実用新案581件を調査したところ,本件特許発明における袋本体の対向する2面を外向き反対方向に引っ張りつつカップに掛止させるタイプの物は皆無である等とするものである。


 本件特許発明が,その特許請求の範囲記載のとおりの構成を有するものとして新規性・進歩性が認められて特許査定がされ,優れた発明であることは控訴人主張のとおりであるが,被告製品1との関係で均等侵害が成立しないことについては上記(ア)(イ)で検討したとおりであり,控訴人の上記主張は採用することができない。』


 と判示されました。


 個人的には、均等侵害を認めても良いのでは、と思いました。


 詳細は、本判決文を参照してください。