●平成24(ネ)10011 損害賠償請求控訴事件 特許権「開蓋防止機能付

 本日は、『平成24(ネ)10011 損害賠償請求控訴事件 特許権 民事訴訟「開蓋防止機能付き密閉容器」平成24年6月27日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20120702153512.pdf)について取り上げます。


 本件は、損害賠償請求控訴事件で、本件控訴が棄却された事案です。


 本件では、文言侵害の有無および不完全利用による侵害の有無についての判断が参考になるかと思います。


 つまり、知財高裁(第2部 裁判長裁判官 塩月秀平、裁判官 池下朗、裁判官 古谷健二郎)は、


『1当裁判所も,被告製品は,少なくとも本件発明の構成要件C,D,Fを充足せず,かつ,本件意匠とも類似しないものと判断する。その理由は,不完全利用にも該当しないとの点を含めて,次のとおり付加するほかは,原判決51頁20行目以下の「第3当裁判所の判断」のとおりである。


2控訴人の当審主張について

(1)文言侵害の有無について

ア構成要件Cの充足の有無

 控訴人は,構成要件Cの「軟質または半硬質のプラスチック」について,本件発明の技術的思想を斟酌し,?壊れたりひび割れしたりするおそれがなく安全であり,?こじ開けられることのないように密閉が確実である,という2つの機能を発揮できない製品を除外するものと解すべきである旨主張する。


 しかしながら,文言侵害の有無を判断する前提となる特許発明の技術的範囲は,基本的に,特許請求の範囲の記載に基づいて定められるのであるから(特許法70条1項),本件明細書に記載された本件発明の技術的思想を斟酌するとしても,「軟質または半硬質のプラスチック」という文言から離れて,機能面からのみ技術的範囲を定めることはできないし,上記の文言に含まれない事項が特許請求の範囲に記載されているものと解することもできない。そして,「軟質または半硬質のプラスチック」という文言からして,少なくとも硬質のプラスチックが除外されるのは明らかであること,本件明細書の記載や周知技術を斟酌するとポリスチロール(PS)は硬質のプラスチックに含まれること,被告製品の蓋が硬質のプラスチックであるポリスチロール(PS)により形成されていることは,原判決が51頁26行目から52頁26行目までにおいて判示するとおりであるから,被告製品は構成要件Cを充足しないというべきであり,この点に関する原判決の判断に誤りはない。


 控訴人はまた,控訴人の製品の開発過程を斟酌して構成要件Cの「軟質または半硬質のプラスチック」を解釈すべきであると主張する。しかしながら,そのような第三者が知り得ない事情を斟酌することは,特許請求の範囲を公示することによって禁止権の範囲を明らかにする特許法の趣旨に反するものであって,控訴人の上記主張は採用し得ない。


 控訴人は,本件明細書段落【0004】の記載は,身が硬質のプラスチックである容器についてしか言及していないので,蓋にポリスチロール(PS)を用いた被告製品は構成要件Cを充足すると主張する。しかしながら,構成要件Cの「軟質または半硬質のプラスチック」は,「蓋」(構成要件B)にも係っているのであるから,控訴人の上記主張は,本件発明の構成に基づかないものであり,採用することができない。


イ構成要件Dの充足の有無

 控訴人は,構成要件Dの縁落し溝について,身の起立口縁部の下端部の上に存在するのであって,これが環状突片の上に存在するとした上で,被告製品が構成要件Dを充足しないと判断した原判決は誤りである旨主張する。


 しかしながら,原判決が53頁21行目以下の「(2)構成要件Dの充足性」において判示するとおり,構成要件Dの「環状突片を突設することにより,その上に…縁落し溝を形成し,」との文言や,本件明細書の「…環状突片11の形状によりその上に蓋3の捲りを防止する縁落し溝12が形成されている。」(段落【0013】)との記載等に照らし,本件発明の縁落し溝は,環状突片の上に形成されることを要するものと認められる一方で,被告製品の環状突片に相当する部分は,その上に縁落し溝が形成されていないことが明らかであるから,被告製品が構成要件Dを充足しないとした原判決に誤りはない。

 なお,控訴人は,環状突片が縁落し溝の一部を構成すれば足りるとも主張しているが,この主張は,縁落し溝が環状突片の上に形成されていなくてもよいという控訴人の上記主張を前提とするものであり,前提となる主張を採用し得ない以上,この主張についても採用することはできない。

ウ構成要件Fの充足の有無

 控訴人は,構成要件Fの「垂設」について,鉛直方向に限らず,2つの物が90度の角度になるよう配置されている場合も含まれる旨主張する。


 しかしながら,「垂設」の語を鉛直方向以外の方向に用いる場合には,「基板に対して垂設」(甲46),「定盤に対して垂設」(甲47)のように,垂設の基準となる物が特定されている。これに対し,本件発明については,特許請求の範囲においてそのような基準となる物は特定されていない。また,そもそも本件明細書において,「…摘み15が下向きの舌片状に形成される…」(段落【0014】)と記載されていることなどに照らすと,原判決が,構成要件Fの「摘みを垂設」について,摘みを下向きに形成することを意味すると解したことに誤りはなく,控訴人の主張は採用することができない。


(2)不完全利用による侵害の有無について

 控訴人は,被告製品の蓋がポリスチロール(PS)により形成されている点について,不完全利用として本件発明の技術的範囲に属すると主張する。


 しかしながら,控訴人の当該主張は,蓋をポリスチロール(PS)により形成する点,すなわち構成要件Cのみに関するものであるから,被告製品が本件発明の構成要件D,Fを充足することを前提とするものであると解されるところ,これまで説示してきたとおり,被告製品は,本件発明の構成要件Cのみならず,構成要件D,Fについても充足していないから,構成要件Cの不完全利用について判断するまでもなく,被告製品は,本件発明の技術的範囲に属しない。


 なお,被控訴人らは,控訴人の当該主張について,時機に後れた攻撃防御方法として却下すべきであると主張するが,当裁判所は上記のとおり判断するものである。』

 と判示されました。