● 2010年の気になった知財事件(当事者系)その1

 12/21(http://d.hatena.ne.jp/Nbenrishi/20101221)の「●今年(2010年)出された特許侵害事件とその概略の更新」を参照して、2010年の気になった知財事件(当事者系)を挙げると、結構記憶に残っている事件があって、昨年後半に出された、
●『平成21(ワ)35184 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟「車載ナビゲーション装置」平成22年12月06日 東京地方裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20101220120521.pdf)や、
● 『平成21(ワ)7718 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟「餅」平成22年11月30日 東京地方裁判所 (http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20101203173939.pdf)
の他に、
● 『平成21(ワ)31831 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟「座椅子」平成22年10月01日 東京地方裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20101006164518.pdf)
● 『平成21(ネ)10052 特許権侵害差止等請求控訴事件 特許権 民事訴訟「ドリップバッグ」平成22年01月25日 知的財産高等裁判所』 (http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20100127083523.pdf)
があります。


 まず、2/2(http://d.hatena.ne.jp/Nbenrishi/20100202)の日記で取り上げた、●『平成21(ネ)10052 特許権侵害差止等請求控訴事件 特許権 民事訴訟「ドリップバッグ」平成22年01月25日 知的財産高等裁判所』 (http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20100127083523.pdf)からコメントすれば、


 本件において知財高裁は、均等侵害の第1要件の本質的事項について、

『これにつき検討すると,構成の異なる部分が発明の本質的部分であるとは,発明の課題解決のための特徴的な部分をいうと解されるところ,本件特許発明は,上記のとおり,既に知られたカップオン方式,カップイン方式のそれぞれの長所である,コーヒーの美味,セットや注湯のしやすさと簡略な構成・抽出後の廃棄が容易で安全なことの双方を達成しようとするものである。』と判示した上で、


『そのため本件特許発明のドリップバッグは,上端部に開口部を有する袋本体と薄板状材料からなる対向する外表面に設けられる掛止部材とからなり(簡略で廃棄が容易である),その掛止部材は,周縁側に形成される周縁部,周縁部の内側にあり袋本体から引き起こし可能に形成されるアーム部,アーム部の内側に形成される舌片部からなる。


 そして,周縁部とアーム部,アーム部と舌片部は,それぞれ端部で連続し,周縁部又は舌片部のいずれかが袋本体に貼着され,周縁部が袋本体に貼着された場合には舌片部がカップ側壁にかけられ,アーム部によって反対方向に引っ張られて袋本体の上端が開口しカップの中央上部に吊されることになる(コーヒーが美味でセット・注湯がしやすく安全である)ものである。


 そうすると,本件特許発明において,周縁部を袋本体に貼着した場合には舌片部をアーム部と共に引き起こすことも可能であること,舌片部がアーム部の内側に形成されていることは,いずれも本件特許発明の本質的部分であるということができる。


 そうすると,被告製品1においてA部分6’と補強片9’とが一体構造となっていて本件特許発明の舌片部を備えるものではなく,この一体構造がアーム部に相当する把手部?5’の内側のみにあるといえないとの相違点は,いずれも本件特許発明の本質的部分において相違するものである。』


 と判示して、均等侵害不成立を維持しました。


 しかし、個人的には、2/4(http://d.hatena.ne.jp/Nbenrishi/20100204)のコメント欄にも書いたように、本件発明の目的が「カップオン方式の有する長所であるコーヒーの美味・セットや注湯のしやすさ・セット後の形状の安定と,カップイン方式の長所である簡略な構成・抽出後の廃棄が容易で安全である新たなドリップバッグを提供すること」が目的という点からすると、本件特許発明の本質的事項は、ドリップバッグの下端からアーム部が伸び、アーム部先端で連続する周縁部あるいは舌片部が、コーヒーカップの縁に引っ掛けることが、本件特許発明の本質的部分であって、カップの縁に引っ掛かる部分が周縁部であろうと、舌片部であろうと、それは本質的部分ではない、ように思います。


 一方、6/10(http://d.hatena.ne.jp/Nbenrishi/20100610)の日記でも取り上げた、●『平成21(ネ)10006 補償金等請求控訴事件 特許権 民事訴訟「中空ゴルフクラブヘッド」平成21年06月29日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20090630100213.pdf)では、

 均等侵害の第1要件について、

(3)非本質的な部分か否かについて

 本件発明の目的,作用効果は,前記(1)ア(ア)の本件明細書の記載によれば,金属製の外殻部材と繊維強化プラスチック製の外殻部材との接合強度を高めることにある。特許請求の範囲及び本件明細書の発明の詳細な説明の記載に照らすと,本件発明は,金属製の外殻部材の接合部に貫通穴を設け,貫通穴に繊維強化プラスチック製の部材を通すことによって上記目的を達成しようとするものであり,本件発明の課題解決のための重要な部分は,「該貫通穴を介して」「前記金属製外殻部材の前記繊維強化プラスチック製外殻部材との接着界面側とその反対面側とに通して前記繊維強化プラスチック製の外殻部材と前記金属製の外殻部材とを結合した」との構成にあると認められる。

 本件発明の特許請求の範囲には,接合させる部材について,「縫合材」と表現されている。

 しかし,既に詳細に述べたとおり,?本件発明の課題解決のための重要な部分は,構成要件(d)中の「該貫通穴を介して」「前記金属製外殻部材の前記繊維強化プラスチック製外殻部材との接着界面側とその反対面側とに通して前記繊維強化プラスチック製の外殻部材と前記金属製の外殻部材とを結合した」との構成部分にあること,?本件発明の「縫合材」の語は,繊維強化プラスチック製の部材を金属製外殻部材に通す形状ないし態様から用いられたものであって,通常の意味とは明らかに異なる用いられ方をしているから,「縫合」の語義を重視するのは,妥当とはいえないこと,?前記のとおり,「縫合材」の意味は,技術的な観点を入れると,「金属製外殻部材の複数の(二つ以上の)貫通穴を通し,かつ,少なくとも2か所で繊維強化プラスチック製外殻部材と接合(接着)する部材」と解すべきであるが,当該要件中の「一つの貫通穴ではなく複数の(二つ以上の)貫通穴に」との要件部分,「少なくとも2か所で(接合(接着)する)」との要件部分は,本件発明を特徴付けるほどの重要な部分であるとはいえないこと等の事情を総合すれば,「縫合材であること」は,本件発明の課題解決のための手段を基礎づける技術的思想の中核的,特徴的な部分であると解することはできない。


 したがって,本件発明において貫通穴に通す部材が縫合材であることは,本件発明の本質的部分であるとは認められない。』


 と判示して、地裁の均等侵害不成立をひっくり返し、均等侵害成立としています。


  なお、この地裁事件は、●『平成19(ワ)28614 補償金等請求事件 特許権 民事訴訟「中空ゴルフクラブヘッド」平成20年12月09日 東京地方裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20081212131656.pdf)で、6/11の日記(http://d.hatena.ne.jp/Nbenrishi/20100611)で取り上げています。