●平成21(行ウ)358 裁決取消等請求事件 特許権 行政訴訟

 本日は、『平成21(行ウ)358 裁決取消等請求事件 特許権 行政訴訟 平成22年01月26日 東京地方裁判所 』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20100129112849.pdf)について取り上げます。


 本件は、外国語特許出願(特許法184条の4第1項)をもとの特許出願として日本語で記載された明細書を添付して新たな特許出願(分割出願)をし、その分割出願の明細書についての誤訳訂正書を提出したところ,当該誤訳訂正書に係る手続の却下処分を受け,更に,その処分について申し立てた行政不服審査法による異議申立てについて棄却する旨の決定を受けたことから,その却下処分及び決定の各取消しを求めた事案で、その請求が棄却された事案です。


 本件では、外国語特許出願(特許法184条の4第1項)をもとの特許出願として日本語で記載された新たな分割出願についての誤訳訂正書による補正が認められないとした判断が参考になるとかと思います。


 つまり、東京地裁(民事第46部 裁判長裁判官 大鷹一郎、裁判官 大西勝滋、裁判官 関根澄子)は、


『1 争点1(本件処分における判断の誤りの有無)について

(1) 原告は,本件分割出願において,本件誤訳訂正書によって明細書の補正を行うことは,特許法184条の12第2項,17条の2第2項の適用又は類推適用によって許されると解すべきであるのに,これを許されないとした本件処分の判断には誤りがある旨主張する。


 しかし,原告の主張は,以下のとおり理由がない。


ア 特許法36条の2第1項は,特許を受けようとする者は,前条2項の明細書,特許請求の範囲,必要な図面及び要約書に代えて,明細書又は特許請求の範囲に記載すべきものとされる事項を経済産業省令で定める外国語で記載した書面及び必要な図面でこれに含まれる説明をその外国語で記載したもの(以下「外国語書面」という。)並びに要約書に記載すべきものとされる事項をその外国語で記載した書面(以下「外国語要約書面」という。)を願書に添付することができる旨規定し,特許法施行規則25条の4は,特許法36条の2第1項の経済産業省令で定める外国語は,英語とすると規定する。


 特許法36条の2第2項本文は,前項の規定により外国語書面及び外国語要約書面を願書に添付した特許出願(以下「外国語書面出願」という。)の出願人は,その特許出願の日から1年2月以内に外国語書面及び外国語要約書面の日本語による翻訳文を,特許庁長官に提出しなければならない旨規定し,同条4項は,外国語書面の翻訳文は前条2項の規定により願書に添付して提出した明細書,特許請求の範囲及び図面と,外国語要約書面の翻訳文は前条2項の規定により願書に添付して提出した要約書とみなす旨規定する。


 また,特許法184条の4第1項本文は,外国語でされた国際特許出願(以下「外国語特許出願」という。)の出願人は,PCT2条(xi)の優先日(以下「優先日」という。)から2年6月(以下「国内書面提出期間」という。)以内に,前条1項に規定する国際出願日(以下「国際出願日」という。)におけるPCT3条(2)に規定する明細書,請求の範囲,図面(図面の中の説明に限る。)及び要約の日本語による翻訳文を,特許庁長官に提出しなければならない旨規定し,同法184条の6第2項は,外国語特許出願に係る国際出願日における明細書の翻訳文,外国語特許出願に係る国際出願日における請求の範囲の翻訳文,外国語特許出願に係る国際出願日における図面(図面の中の説明を除く。)及び図面の中の説明の翻訳文,外国語特許出願に係る要約の翻訳文は,それぞれ,同法36条2項の規定により願書に添付して提出した明細書,特許請求の範囲,図面,要約書とみなす旨規定する。


 ところで,特許法17条の2第1項は,特許出願人は,特許をすべき旨の査定の謄本の送達前においては,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面について補正をすることができる旨規定し,同条2項は,同法36条の2第2項の外国語書面出願の出願人が,誤訳の訂正を目的として,前項の規定により明細書,特許請求の範囲又は図面について補正をするときは,その理由を記載した誤訳訂正書を提出しなければならないと規定し,同法17条の2第3項は,同条1項の規定により明細書,特許請求の範囲又は図面について補正をするときは,誤訳訂正書を提出してする場合を除き,願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面(同法36条の2第2項の外国語書面出願にあつては,同条4項の規定により明細書,特許請求の範囲及び図面とみなされた同条2項に規定する外国語書面の翻訳文(誤訳訂正書を提出して明細書,特許請求の範囲又は図面について補正をした場合にあつては,翻訳文又は当該補正後の明細書,特許請求の範囲若しくは図面))に記載した事項の範囲内においてしなければならない旨規定する。


 また,特許法184条の12第2項は,外国語特許出願に係る明細書,特許請求の範囲又は図面について補正ができる範囲については,17条の2第2項中「第36条の2第2項の外国語書面出願」とあるのは「第184条の4第1項の外国語特許出願」と,17条の2第3項中「願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面(第36条の2第2項の外国語書面出願にあつては,同条第4項の規定により明細書,特許請求の範囲及び図面とみなされた同条第2項に規定する外国語書面の翻訳文(誤訳訂正書を提出して明細書,特許請求の範囲又は図面について補正をした場合にあつては,翻訳文又は当該補正後の明細書,特許請求の範囲若しくは図面))」とあるのは「第184条の4第1項の国際出願日(以下この項において「国際出願日」という。)における第184条の3第2項の国際特許出願(以下この項において「国際特許出願」という。)の明細書若しくは図面(図面の中の説明に限る。)の第184条の4第1項の翻訳文,国際出願日における国際特許出願の請求の範囲の同項の翻訳文(同条第2項又は第4項の規定により千九百七十年六月十九日にワシントンで作成された特許協力条約第19条(1)の規定に基づく補正後の請求の範囲の翻訳文が提出された場合にあつては,当該翻訳文)又は国際出願日における国際特許出願の図面(図面の中の説明を除く。)(以下この項において「翻訳文等」という。)(誤訳訂正書を提出して明細書,特許請求の範囲又は図面について補正をした場合にあつては,翻訳文等又は当該補正後の明細書,特許請求の範囲若しくは図面)」とする旨規定する。


 これらの規定によれば,外国語書面出願の出願人及び外国語特許出願の出願人が,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面(以下「明細書等」という。)の補正を行うには,原則として願書に最初に添付した明細書等(外国語書面出願にあっては外国語書面)の翻訳文に記載した事項の範囲内においてしなければならないが,誤訳の訂正を目的として明細書等の誤訳訂正書を提出をする場合には,願書に最初に添付した明細書等の翻訳文に記載した事項の範囲を超えて補正を行うことができるものと解される。


 このように特許法17条の2第2項,184条の12第2項が誤訳訂正書の提出手続を設けた趣旨は,外国語書面出願及び外国語特許出願においては,通常は,外国語書面出願の外国語書面又は外国語特許出願の明細書等とこれらの翻訳文との記載内容は一致していることから,翻訳文の記載を基準として補正の可否を判断すれば足りるが,この基準を貫くと,当該翻訳文に誤訳があった場合に当該誤訳を訂正する補正を行おうとすると,そのような補正は,通常,翻訳文に記載された事項の範囲を超えるものとして許されないこととなり,不合理であることによるものと解される。


 そして,上記のように特許法17条の2第2項,184条の12第2項は,外国語書面出願及び外国語特許出願の場合における補正の範囲についての特別な取扱いに対応した手続として誤訳訂正書の提出の手続を定めたものと解されること,特許法は,外国語書面出願及び外国語特許出願以外の特許出願については,そのような手続の定めを置いていないことにかんがみれば,特許法において,誤訳の訂正を目的とした補正の手続として誤訳訂正書の提出が認められる特許出願は,外国語書面出願及び外国語特許出願に限るものと解するのが相当である。


 以上の解釈を前提に本件について検討するに,本件分割出願は,外国語特許出願である本件原出願をもとの特許出願とする分割出願であるが,本件分割出願の願書には日本語による明細書等が添付されたものであるから(前記第2の1(1)ア,(2)ア),日本語による特許出願であって,外国語書面出願又は外国語特許出願のいずれにも当たらないことは明らかである。


 したがって,原告がした本件分割出願の明細書についての本件誤訳訂正書の提出に係る手続は,特許法上根拠のない不適法な手続であって,その補正をすることができないものであるから,これを却下した本件処分の判断に誤りはないものと認められる。


イ これに対し原告は,?特許法17条の2第2項は,誤訳の訂正をする場合には理由付きの誤訳訂正書を提出しなければならないとの行為規範を定めているにすぎず,文言上,誤訳訂正ができる場合を限定するものではない,?本件分割出願は,外国語特許出願である本件原出願に基づきされた分割出願であるから,本件原出願と同様,外国語特許出願であると解すべきである,?英語以外の言語による外国語特許出願の場合,それを原出願とする分割出願をするに当たっては,外国語書面出願による使用言語が英語に限られていることから,本件分割出願のように,英語以外の言語(ドイツ語)による外国語特許出願を原出願とする分割出願においては,それが日本語による特許出願であっても,原出願の明細書等の誤訳の訂正を目的とする補正が認められなければ,出願人に著しい不利益を課すことになるとして,本件分割出願において,本件誤訳訂正書によって明細書の補正を行うことは,特許法184条の12第2項,17条の2第2項の適用又は類推適用によって許されると解すべきである旨主張する。


 しかし,原告が根拠として挙げる上記?ないし?の諸点は,以下のとおり,いずれも採用することができない。


(ア) 上記?の点について

 原告は,特許法17条の2第2項は,誤訳の訂正をする場合には理由付きの誤訳訂正書を提出しなければならないとの行為規範を定めているにすぎず,文言上,誤訳訂正ができる場合を限定するものではない旨主張する。


 しかし,特許法17条の2第2項の文言上,同条項が「第36条の2第2項の外国語書面出願の出願人」がする誤訳訂正書の提出について定めたものであることは明らかであること,特許法17条の2第2項,184条の12第2項が誤訳訂正書の提出手続を設けた趣旨は,前記アのとおりであることに照らせば,原告の上記主張は,独自の見解であって採用することができない。


(イ) 上記?の点について

 原告は,本件分割出願は,外国語特許出願である本件原出願に基づきされた分割出願であるから,本件原出願と同様,外国語特許出願であると解すべきである旨主張する。


 しかし,特許法旧44条1項は,特許出願人は,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面について補正をすることができる期間内に限り,2以上の発明を包含する特許出願の一部を1又は2以上の新たな特許出願とすることができると規定するものであり,同条項によれば,分割出願は,2以上の発明を包含する特許出願である原出願とは別個の「新たな特許出願」であることは明らかである。


 また,同条2項本文は,前項の場合は,新たな特許出願は,もとの特許出願の時にしたものとみなすと規定し,特許法44条4項は,「新たな特許出願」をする場合には,もとの特許出願について提出された書面又は書類であって,新たな特許出願について30条4項,41条4項又は43条1項及び2項(前条3項において準用する場合を含む。)の規定により提出しなければならないものは,当該新たな特許出願と同時に特許庁長官に提出されたものとみなすと規定するが,これらの規定は,分割出願が原出願とは別個の「新たな特許出願」であり,原出願についてされた手続が当然には分割出願に及ぶものではないことを前提に,明文で特別の効果を定めたものである。


 したがって,原出願が外国語特許出願であるからといって,原出願とは別個の「新たな特許出願」が当然に外国語特許出願になるものではなく,原告の上記主張は採用することができない。


 ・・・省略・・・


 したがって,原告の上記主張は,採用することができない。


(2) 以上のとおり,本件処分の判断に誤りがあるとの原告の主張は,理由がない。』


 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照してください。