●平成20(ネ)10068 特許権侵害差止控訴事件 特許権「切削方法」

 本日は、『平成20(ネ)10068 特許権侵害差止控訴事件 特許権 民事訴訟「切削方法」平成21年08月25日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20090826091130.pdf)について取り上げます。


 本件は、特許権侵害差止控訴事件で、本件控訴が棄却された事案です。


 本件では、均等侵害の判断と、特許法104条の3の抗弁に対する再抗弁とが参考になるかと思います。


 つまり、知材高裁(第4部 裁判長裁判官 滝澤孝臣、裁判官 高部眞規子、裁判官 杜下弘記)は、


(1) 文言侵害

 控訴人は,そもそも,被控訴人製品において用いられている切削方法,すなわち,被控訴人方法が別紙被控訴人方法目録(1)のとおりであることの立証をしていないが,文言侵害の成否についてみると,被控訴人方法が,本件発明に係る切削方法の対象物である「半導体ウェーハ」を切削する方法ではなく,「半導体パッケージ」を切削する方法であることを自認している。


 「半導体ウェーハ」は,シリコンウェーハ上にフォトエッチング等を施した状態のものであるのに対し,「半導体パッケージ」は,これを個別に切り分けて個々のチップとなったものを,さらにチップマウントして配線を施し,樹脂封止する等の機械的加工がされて形成された回路基盤である(乙4,5,弁論の全趣旨)。


 よって,文言上,被控訴人方法が本件発明の技術的範囲に属さないことは明らかである。


(2) 均等侵害

ア 控訴人は,被控訴人方法は,その切削対象物が「半導体パッケージ」であり,「半導体ウェーハ」ではない点で,本件発明と相違するものの,いわゆる均等論により,本件発明の技術的範囲に属すると主張する。


 本件発明に係る特許請求の範囲に記載された構成中に被控訴人方法と異なる部分が存する場合であっても,(i)上記部分が本件発明の本質的部分ではなく,(ii)上記部分を被控訴人方法におけるものと置き換えても,本件発明の目的を達することができ,同一の作用効果を奏するものであって,(iii)上記のように置き換えることに,本件発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が,被控訴人方法の使用の時点において容易に想到することができたものであり,(iv)被控訴人方法が,本件発明の特許出願時における公知技術と同一又は当業者がこれから上記出願時に容易に推考できたものではなく,かつ,(v)被控訴人方法が本件発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情もないときは,被控訴人方法は,特許請求の範囲に記載された構成と均等なものとして,本件発明の技術的範囲に属するものと解するのが相当である最高裁平成6年(オ)第1083号平成10年2月24日第三小法廷判決・民集52巻1号113頁参照)。


イ 均等侵害の要件(v)について

(ア) 本件明細書の発明の詳細な説明には,以下の記載がある。

 ・・・省略・・・

(ウ) 上記(ア)認定の本件明細書の記載に照らせば,控訴人は,被加工物すなわち切削対象物として半導体ウェーハの外,フェライト等が存在することを想起し,半導体ウェーハ以外の切削対象物を包含した上位概念により特許請求の範囲を記載することが容易にできたにもかかわらず,本件発明の特許請求の範囲には,あえてこれを「半導体ウェーハ」に限定する記載をしたものということができる。


 また,上記(イ)認定の出願経緯に照らしても,控訴人は,圧電基板等の切削方法が開示されている引用発明1(乙9)との関係で,本件発明の切削対象物が「正方形または長方形の半導体ウェーハ」であることを相違点として強調し,しかも,切削対象物を半導体ウェーハに限定しない当初の請求項1を削除するなどして,本件発明においては意識的に「半導体ウェーハ」に限定したと評価することができる。


 このように,当業者であれば,当初から「半導体ウェーハ」以外の切削対象物を包含した上位概念により特許請求の範囲を記載することが容易にできたにもかかわらず,控訴人は,切削対象物を「半導体ウェーハ」に限定しこれのみを対象として特許出願し,切削対象物を半導体ウェーハに限定しない当初の請求項1を削除するなどしたものであるから,外形的には「半導体ウェーハ」以外の切削対象物を意識的に除外したものと解されてもやむを得ないものといわざるを得ない。


(エ) そうすると,被控訴人方法は,均等侵害の要件のうち,少なくとも,前記(v)の要件を欠くことが明らかである。


ウ 均等侵害の要件(iv)について

 また,仮に,被控訴人方法が「半導体ウェーハ」以外の本件発明の構成要件を充足するとすると,後記2(1)で判示するのと同様に,被控訴人方法も,引用発明1から容易に推考することができるというべきであるから,均等侵害の要件のうち,前記(iv)の要件も欠くことに帰する。


(3) 小括

 よって,被控訴人方法は,いずれにしても,本件発明の技術的範囲に属さないから,特許法101条5号による間接侵害は成立しない。


2 抗弁(特許法104条の3の抗弁の成否)について

 当裁判所は,以上のとおり,控訴人の本件請求は,被控訴人製品の製造販売による本件特許権の侵害が認められないので,理由がないと判断するが,原判決は,特許権侵害の成否について判断することなく,本件特許が無効であるとして,控訴人の請求を棄却していることから,このような本件事案に鑑み,以下,被控訴人の主張する特許法104条の3の抗弁についても,控訴人の主張する再抗弁を含め,その成否を判断することとする。


(1) 本件発明の進歩性

 ・・・省略・・・

 よって,引用発明1に引用発明2を適用することに阻害要因が存在するということはできないから,控訴人の主張は,理由がない。


ク小括

 したがって,相違点1及び2に係る構成は,周知技術に基づいて当業者が容易に想到し得たものであり,本件発明は,引用発明1,2及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明することができたものといわざるを得ない。


(2) 訂正による無効理由の解消の有無

ア 控訴人は,訂正により本件発明の無効理由が解消した旨主張する。

 しかしながら,特許法104条の3の抗弁に対する再抗弁としては,(i)特許権者が,適法な訂正請求又は訂正審判請求を行い,(ii)その訂正により無効理由が解消され,かつ,(iii)被控訴人方法が訂正後の特許請求の範囲にも属するものであることが必要である。


 本件において,被控訴人方法は,前記のとおり,文言上も,均等論によっても,本件発明の技術的範囲に属するものではないから,本件発明の特許請求の範囲を更に減縮した,第1次訂正発明及び第2次訂正発明との関係でも,文言上も,均等論によっても,第1次訂正発明及び第2次訂正発明の技術的範囲に属するものでなく,上記(iii)の要件を欠くものといわなければならない。

 ・・・省略・・・

ウしたがって,仮に,第1次訂正及び第2次訂正がされたとしても,本件特許が無効にされるべきことに変わりはないといわなければならない。


(3) 小括

 以上の次第で,本件特許は特許無効審判により無効にされるべきものと認められるから,控訴人は,特許法104条の3により,被控訴人に対し,本件特許権を行使することができない。


3 結論

 以上の次第であるから,控訴人の本訴請求に理由がないとした原判決は結論において正当であって,本件控訴は棄却されるべきものである。』


 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照してください。