●平成19(ワ)4692 商標権侵害差止等請求事件「ダックス」(2)

 本日も、『平成19(ワ)4692 商標権侵害差止等請求事件 商標権 民事訴訟「ダックス」平成20年03月11日 大阪地方裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20080312160244.pdf)について取り上げます。


 本日は、争点(2)(信用毀損による無形損害の額)について取り上げます。


 つまり、大阪地裁(第21民事部 裁判長裁判官 田中俊次、裁判官 高松宏之、裁判官 西理香)は、


2 争点(2)(信用毀損による無形損害の額)について

 ・・・省略・・・

(5) そこで,上記(1)ないし(4)で認定した事実に基づき,被告による本件商品の輸入・販売行為により,原告が信用毀損等の無形損害を被ったか否かについて検討する。


ア 前記(1)の事実のとおり,ダックスブランドは,1894年に創業したテーラーを前身として創業して以来110年を超える歴史と伝統を有し(ただし,「DAKS」の商標が使用されるようになったのは1934年から),英国王室御用達の詔勅(ロイヤル・ウォラント)を授与され,現在では3つの紋章を掲げることを許された世界的に著名な高級有名ブランドであって,日本国内においては,原告三共生興が原告ダックスからマスターライセンスを受け,国内の多数有名企業にサブライセンスし,それらの国内売上高はバーバリー,ラルフローレンに次いで国内第3位の売上げ(小売ベースで約520億円)を誇っている。そして,原告三共生興は,上記サブライセンス契約において,サブライセンシーに対し,ダックスブランドを付する商品のデザイン,品質を下げ札やパッケージに至るまで,原告三共生興による承認を義務づけ,それ以外のダックスブランドの商品が市場に出回らないようにして,ダックスブランドの商品のデザイン,品質の管理を徹底し,さらに,多額の宣伝広告費をかけた上記各種宣伝広告活動を通じて,世界最高水準のダックスブランドの信頼性の維持・向上に努め,現に世界的に高度の信頼を勝ち得ているものである。


イ しかるに,被告は,本件商品をダックスブランドの正規品と称して,被告カタログや被告ウェブサイトに掲載するなどして本件商品を宣伝広告し,販売したものであるところ,被告が輸入し,販売した本件商品は,ダックスブランドの正規品などではなく,原告らから何らのライセンスを受けることなく,韓国において製造販売され,被告がオードリーを通じてこれを輸入し,日本国内で販売したものである。


 そして,本件商品は,当然ながら,原告三共生興によるデザイン,品質に関する承認を得ないまま販売されたものであり,現に,本件商品は,ダックスブランドの正規品と対比して,上記(2)で認定したような多くの品質上の差異が認められるものである。そして,それらはすべて正規品と比べて劣り,全体として粗悪品であるとの評価を免れないものである。


 また,本件商品に同梱されている取扱説明書(甲22)には,本件商品を,正しくは「DAKS」であるダックスブランドが「DAK’S」と誤って表示され,本件商品の価格も,ダックスブランドの正規品である本時計付ベルトが5万2500円ないし5万5650円であるのに対し,9975円と5分の1を下回る低額に設定されていたものである。また,被告は,被告カタログ及び被告ウェブサイトのほか「人こと発見」及び, 「道具の学校」と称するカタログ並びに「道具の學校」と称するダイレクトメールを利用して,本件商品を販売していたところ,被告のカタログ通信販売の会員数は120万人に及んでいるのであって,本件商品の購入の勧誘は,上記会員のほぼすべてにされたものと推認されるほか,被告ウェブサイトを通じて不特定多数の一般人に対して宣伝広告され,ダックスブランドの正規品(本時計付ベルト)が上記のような著しい低価格で販売されていることがこれらの者の目に触れる状態に置かれたものであって,ダックスブランドの信頼性に対するマイナスの影響力は決して小さなものとはいえないものというべきである。


 以上の事情を考慮すると,かかる低品質の本件商品がダックスブランドの正規品として著しい低価格で販売等されたことにより,ダックスブランドのブランド価値は相当に毀損されたものというべきである。


ウ もっとも,前記認定のとおり,本件商品の一般消費者への販売個数は,結局,わずか95個にとどまったものであるところ,本時計付ベルトとの上記品質上の差異は,被告カタログや被告ウェブサイトでの広告写真のみでは看取することができず,実際に手にとって見ないとわからないものである。また,本件商品に同梱されている取扱説明書の「DAK’S」の誤記載も,本件商品を現に購入した者の目にしか触れないものである。したがって,一般消費者のうち上記品質上の差異等を認識し得たのは,本件商品を購入した最大95名に限られる。このような観点からすれば,ダックスブランドの正規品と比較して品質が相当に劣る本件商品を販売されたことによる信用毀損の度合いは相当に限定されたものになるともいえ,これを過大に評価することはできない。


 しかし他方,被告カタログや被告ウェブサイトには,本件商品の価格が表示されており,正規品である本時計付ベルトの5分の1を下回る著しい低価格で販売されていることは,被告のカタログ通信販売の会員120万人のほか,被告ウェブサイトを閲覧した不特定多数の目に触れ又は触れ得たことが明らかであるから,ダックスブランドの正規品がかかる著しい低価格で販売されていると一般消費者に認識させたことにより原告らの信用をかなりの程度低下させたことは否定できない。


 したがって,この点は,信用毀損による無形損害の額を算定する上で考慮すべき事情であるといえる。


エ さらに,前示のとおり,被告がオードリーとの間で商品販売基本契約を締結した際に交付された商品掲載申込書(乙7)には,本件商品の「原産国」欄に「韓国」と,「メーカー名」欄に「ジャスペル社」と,「国内総輸入元」欄に「?ミストラル」との記載があり,被告としては,これらの会社が原告らからライセンスを得ているか否かを調査・確認することは容易であったと認められるところ,被告がそのような調査・確認の措置を何ら執ることなく,オードリーからの説明として被告が主張する事項,すなわち,本件商品が韓国内において製造・販売する権利を有するスリーセブン社製の物であること,商品販売に際しては,オードリーの担当者が直接韓国に赴き,商品のライセンス証を確認し,製造を行っている工場へも行き,輸入業者を経由しての並行輸入品であるとの説明を受けていた,との説明を軽信して,本件商品を輸入し,販売したものである。


 以上の事情によれば,被告の商標権等侵害行為が故意によるとまでは認められないとしても,その過失の程度は決して軽微とはいえないというべきである。そして,被告は,前示のとおり,原告三共生興との訴訟前の交渉過程で,本件商品の輸入・販売について真正商品の並行輸入の主張はしないと原告に明言し,したがって,少なくともその時点では本件商品がダックスブランドの正規品ではないことを認識していたことは明らかである。


 しかるに,被告は,本件訴訟の提起を受けて平成19年5月7日付けで発表したJASDAQの投資関係者宛のリリースの中で「当社といたしましては,当該商品を当社が販売することについて,原告の主張とは見解の相違があり,当社の販売行為は原告の主張する商標権の侵害には当たらないものと考えております。また,損害賠償請求につきましても,同様の理由から根拠のないものとして裁判では当社の正当性を主張し争っていく方針です。」としているのであって,一般投資家に向けて,自らが原告らの権利を侵害し,かつ,一般消費者に偽のブランド商品を販売したことを反省し,謝罪するどころか,本件商品がダックスブランドの正規品であることをなおも強弁するかのように受け取られてもやむを得ない言動に出たものである。


 被告のかかる言動は,原告らの信用回復を妨げるものと評価できる(被告は,上記リリースを発表した翌日に追加のリリースを発表し,その中で「原告の請求に対する当社の見解といたしましては,当該商品は当社製造の商品ではなく,あくまでも通信販売業者として,多数の商品仕入業者の一社より提案を受け通信販売媒体に載せ販売を行った雑貨のうちの一つであることから,当社が原告の有する社会的信頼を害したという原告主張の事実への寄与度は低いものであると認識しております。また,販売期間も短期であり実際の当該商品販売数量は100個前後で売上金額としては1,000,000円程度であり,販売金額から考慮しても原告へ与えた影響・侵害の程度は軽微なものであると考えております。」と,商標権侵害を前提とするかのようなコメントをしているが,これも商標権侵害を明示的に認めたものとはいい難く,原告らの信用を回復させるものにはほど遠いものといえる。)。したがって,この点は,信用毀損による無形損害の額を算定する上で軽視できない事情であると考える。


オ 以上の諸事情を総合考慮すると,原告らの被った信用毀損による無形損害の額は,200万円とするのが相当である。


カ 原告らは,被告の行為により本件訴訟の提起・追行を余儀なくされ,弁護士に訴訟委任を余儀なくされた。これにより原告らが被った弁護士費用相当損害額は,本件に顕れた諸般の事情を考慮すると,50万円が相当である。 』

 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照してください。