●平成22(ワ)2723 損害賠償請求事件「包丁研ぎ器」(1)

 本日は、『平成22(ワ)2723 損害賠償請求事件「包丁研ぎ器」平成23年8月25日 大阪地方裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20110831103921.pdf)について取り上げます。


 本件は、不正競争防止法事件で、その請求が認容された事案です。


 本件では、まず、不正競争防止法2条1項3号における争点1(被告商品は,原告商品の形態を模倣したものか)についての判断が参考になります。

 つまり、大阪地裁(第26民事部 裁判長裁判官 山田陽三、裁判官 達野ゆき、裁判官 西田昌吾)は、

『1 争点1(被告商品は,原告商品の形態を模倣したものか)について

(1) 原告商品の開発経緯

ア 証拠(甲4,甲36の1・2,甲44,45,証人P1,以下個別に掲記した証拠)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。

(ア) 原告は,平成18年4月初めころ,株式会社小林工具製作所のダイヤモンド研ぎ器が売れているとの情報を入手し,原告においてもダイヤモンド研ぎ器を販売することを企画した。


 株式会社小林工具製作所のダイヤモンド研ぎ器は,柄部はまっすぐな棒状であり,刃部は,三角形で,表裏が直面又は曲面で形成され,柄部との接合部近くで折曲されている形態のものであったが,原告商品については,柄部は女性でも握りやすい波形で,刃部は折曲していない形態とすることになった。

(イ) 原告は,原告商品について,サイズ別(大・小)の原案図を作成した上,同年4月13日にダークホース社に送付して見積を依頼し(甲1の1・2),刃部の材質(ダイヤモンド粒子でのメッキ加工)を示すためのサンプルも交付した。


 ダークホース社は,同月24日,原告商品の金型費及びサイズ毎の商品価格に係る見積書を提出した(甲25の1)。

(ウ) また,原告は,特許事務所に対し,原告商品の構造上の特徴や形態について,他社の特許・実用新案権及び意匠権と抵触しないかの調査を依頼した。上記特許事務所は,同年5月9日付けで,原告商品について,構造上の特徴は既に公知で,かつ,権利期間が満了しているものであり,意匠も同様であり,実施可能であるとの調査報告書を提出した(甲43)。

(エ) ダークホース社は,同年5月31日,原告に対し,原告商品の図面を送付した(甲2)。

 そして,原告から金型が発注された後,同年6月12日ころまで,原告とダークホース社との間で,試作品をもとに,完成品の形状や品質についてやりとりが行われ(甲3,39〜42),原告商品の形態が確定した。

(オ) 原告は,同年6月20日以降,原告商品について,サンプル品として輸入するようになり(甲48〜53の各1・2),同年7月20日から大量生産を始め,同月21日から日本国内での販売を開始した。

イ 以上の事実からすれば,原告商品は,原告がその形態を考案して開発し,製造販売したものと認められる。

 被告は,原告が費用(金型代)を負担していないと主張するが,法2条1項3号の立法趣旨の1つが,開発者に対し,投下資本回収の機会を与えることであるとしても,金型代の出損自体は,同号の保護を受けるための必須要件ではない。しかも,本件においては,前記アのとおり,金型代の見積が取られ,その後,現実に原告商品が大量生産されているのであるから,金型代は支払われたものと認められる。


(2) 他の開発者の存在について


 ・・・省略・・・


(3) 被告商品の製造経緯

 証拠(甲45,乙13の1・2)及び弁論の全趣旨によると,原告は,ダークホース社以外の商社を通じ,A社に対し,原告商品のサンプルの製造を依頼したが,その時点では,発注するに至らなかった。その後,ダークホース社から値上要請を受けたことから,別の商社を通じて,A社に対し,原告商品の製造を委託したが,不良品が多く,一旦,A社に対する委託を中止した。


 上記委託製造の開始時期は,原告作成の商品別仕入履歴表(甲45)によると,平成19年1月ころであったことが窺える。

 被告は,その後の平成20年4月ころ,A社から,原告商品と実質的同一である被告商品を購入(輸入)し,日本国内で販売するようになった(前提事実(3))。

 通常,生産を委託された場合に,同じ金型から製造した商品を委託した者以外の者に譲渡することが許されるとは考えにくいところである。仮に,A社が原告商品を他に供給してはならない旨の義務を課せられていなかったとしても,A社としては,原告商品を単に製造しているだけで,同商品の形態について,法2条1項3号の権利を有しない以上,A社が,日本国内で原告商品を販売することは,法2条1項3号に該当する行為というべきである。A社から原告商品と同じ商品を購入し,日本国内において販売する行為は,他人の商品の形態を模倣した商品であることを知らず,かつ,知らないことにつき重大な過失がない場合を除き,同じく,法2条1項3号に該当するというべきである。


 なお,被告従業員が被告代理人に送信したメール(乙10)によると,A社が原告との取引を始めたのは,平成21年6月15日とある。仮に,これが真実であるとすると,むしろ,平成21年6月15日までの間,A社としては,原告に無断で,原告商品に依拠して,その形態を模倣し,これを被告に販売していたことにほかならない。

(4) 結論

 以上のとおり,原告商品は,原告が開発したものと認められる一方,これと実質的に同一性のある先行商品が存在していた事実は認められない。

 そして,原告商品と被告商品とは,同一形態のものであり(争いがない。),

 原告商品の試作品を製造しただけの製造元であるA社が,被告商品を製造しているのであるから,被告商品は,原告商品に依拠して作成された模倣品であると認められる。』

 と判示されました。