●平成19(ワ)4692 商標権侵害差止等請求事件「ダックス」(1)

 本日は、『平成19(ワ)4692 商標権侵害差止等請求事件 商標権 民事訴訟「ダックス」平成20年03月11日 大阪地方裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20080312160244.pdf)について取り上げます。


 本件は、商標権者と、その商標権についてそれぞれ専用使用権および独占的通常使用権を有する者が原告として、本件商標に類似する標章を付したベルトを韓国より輸入し,販売している被告に対し本件商標権及び専用使用権等を侵害するとして,商標法36条1項,2項,37条1号に基づき,これらの標章をベルト等に付し,又はこれらの標章を付したベルト等の輸入及び販売の差止め並びにこれらの標章を付したベルトの廃棄を求めるとともに、同法39条により準用される特許法106条に基づき,信用回復措置請求として請求の趣旨第3項記載の謝罪広告と、本件商標権及びその専用使用権等を侵害した不法行為に基づく損害賠償等を求めた事案で、その一部が認められた事案です。


 本件では、まず、争点(1)の本件商標に関する本件独占的通常使用権者の損害が認められた点と、債権譲渡通知についての判断とが参考になるかと思います。


 つまり、大阪地裁(第21民事部 裁判長裁判官 田中俊次、裁判官 高松宏之、裁判官 西理香)は、


1 争点(1)(商標権等侵害による財産上の損害の額)について


(1) プレリーシミズの受けた損害について

 アプレリーシミズは,本件商標に関する本件独占的通常使用権を有し,我が国ではプレリーシミズのみが本件商標を使用したベルトを製造販売しているものである。したがって,被告の上記行為によりプレリーシミズの有する本件独占的通常使用権が侵害されたことになる


 そして,少なくとも被告による本件商品の販売数が95個であり,その売上高が92万6371円,被告の得た利益の額(販売価格から仕入価格を控除した粗利益の額)が47万9871円であることは当事者間に争いがない。その上で原告らは,被告による本件商品の販売数は相当数に及び,同販売によりプレリーシミズは多額の財産上の損害を被ったものであって,その損害額は5000万円を下らない旨主張する。原告らの上記主張は,本件商品の販売により被告の得た利益が5000万円を下らず,同利益の額がプレリーシミズの受けた損害の額と推定されるとの主張を含むものと解される。


 しかし,被告が95個を超えて本件商品を販売し(売上高92万6371円),これにより47万9871円を超える利益(粗利益)を得たと認めるに足りる証拠はない。


 被告は,上記利益を上げるために要したカタログ掲載費等の販売促進費に約15万円を要した旨主張する。被告の主張するように,本件商品を販売するために被告が追加的費用の支出を余儀なくされた場合には,これを上記利益の額から控除する必要がある。


 そして,確かに,証拠(甲10,11,乙4,5)及び弁論の全趣旨によれば,被告は,被告カタログ及び被告ウェブサイトその他に本件商品を掲載して,本件商品に関する宣伝広告活動をしたことが認められ,被告が上記利益を上げるためにいくばくかの追加的費用を支出していることはうかがえる。


 しかし,被告は,上記追加的費用の額を具体的に算定し得る的確な証拠を提出しておらず,その金額を的確に算定することはできない。そこで,上記証拠及び弁論の全趣旨に照らし,被告が本件商品の販売のため追加的に支出した費用の額を7万円として,これに本件商標の使用について原告らに支払うべき使用料を合わせた額を上記粗利益の額から控除した後の金額をもって,原告の受けた損害額と推定すべき被告の得た利益の額と認めるのが相当である(商標法38条2項類推適用)。


 そして本件商標の使用について原告らに支払うべき使用料について検討するに,後記2で判示するとおり,本件商標を含むダックスブランドは強い顧客吸引力を有するものと認められること等を考慮すると,その使用料率は売上高の10%とするのが相当である。


 被告による本件商品の売上高は92万6371円であるから,プレリーシミズが原告らに支払うべき使用料は9万2637円(小数点以下四捨五入)となる。よって,原告の受けた損害額と推定すべき被告の得た利益の額は,上記粗利益47万9871円から,7万円と9万2637円の合計16万2637円を控除した後の金額である31万7234円となる。


 他に,後記2の信用毀損による無形損害は別として,プレリーシミズが被告の本件独占的通常使用権侵害行為により上記金額を超える損害を受けたと認めるに足りる証拠はない。


イ なお,証拠(乙1ないし3,5,6の1〜5)によれば,被告は,平成18年6月20日から原告からの通知書(甲14)を受領した同年10月24日までの間に,オードリーから合計105個の本件商品を単価4700円で入荷し,5個の商品をオードリーに返品したこと,その後,被告は,同年11月4日に本件商品5個入荷しているが平成19年2月にオードリーに10個返品し,結局,本件商品の入荷数量は95個(仕入金額44万6500円)であったこと,被告は,本件商品を顧客に95個販売(売上高92万6371円)したが,これを超える数量の本件商品を販売しなかったことが認められ,この事実を左右する証拠はない。被告が本件訴訟前の交渉において,本件商品の販売数量等の開示を拒否したなど原告ら主張の事情は,これをもって被告が上記金額を超える売上げを得たと推認するに足りるものとすることはできず,上記アの判断を左右するものではない。


ウ 債権譲渡について

(ア) 以上のとおり,プレリーシミズは,被告の得た利益の額である31万7234円と同額の損害を被ったことが推定される。したがって,プレリーシミズは,被告に対し,同額の損害賠償請求権(本件譲渡対象債権)を有することになる。


(イ) 前記前提事実のとおり,プレリーシミズは,平成19年11月21日,原告三共生興との間で,本件譲渡対象債権を原告三共生興に譲渡することを約した債権譲渡契約を締結し,同日,本件譲渡対象債権を原告三共生興に譲渡し(甲50 ),平成19年11月22日,その旨を被告に内容証明郵便で通知したものである。


 被告は,上記債権譲渡通知には債権額が全く特定されていないので債権譲渡の通知としては意味がない旨主張するが,指名債権譲渡の通知は,指名債権の譲渡が譲渡人と譲受人との間の無方式の諾成契約によってなされるため,これに関与しない債務者又は第三者が債権譲渡の事実を知らないために損害を被るおそれがあることから,債務者又は第三者に対する対抗要件として要求されているものであって(民法467条),債務者又は第三者にその債権の同一性が識別することを可能ならしめるものであれば足りるというべきである。


 これを本件についてみるに,上記債権譲渡通知に係る通知書(甲51の1)には,本件譲渡対象債権の債権者,債務者の表示のほか,「発生原因等」として「プレリーシミズ株式会社が独占的通常使用権を有する下記商標権(以下「本商標権」といいます。)をSTEILAR C.K.M株式会社が侵害したことにより発生すべき本商標権侵害に基づく損害賠償請求権」と明示されており,債権額が記載されていない理由として,本件商品の販売数量が不明であることが記載されていることが認められる。


 上記通知書の以上の記載は,債務者である被告をして本件譲渡対象債権の同一性を識別することを可能ならしめるものというべきであるから,債権額の記載がないからといって,上記債権譲渡通知が,債務者である被告に対する対抗要件として欠けることはないというべきである。


 そうすると,本件譲渡対象債権は,被告との関係で,プレリーシミズから原告三共生興に有効に譲渡されたものといえるから,原告三共生興は,被告に対し,上記損害賠償請求権を有効に取得したことになる。


(2) 原告らの受けた損害について

 原告ダックスは,本件商標権(ii)の商標権者として,原告三共生興は,本件商標権(i)の専用使用権者として,商標法38条3項又はその類推適用により本件商標の使用により受けるべき金銭の額に相当する損害賠償を請求することができる。上記(1)のとおり,被告による本件商品の販売数は95個であり,その売上高は92万6371円である。そして,本件商標の使用により原告らの受けるべき金銭の額について検討するに,後記2で判示するとおり,本件商標を含むダックスブランドは,強い顧客吸引力を有するものと認められること等を考慮すると,その使用料率は,各原告につきそれぞれ売上高の5%とするのが相当である。そうすると,上記損害額は各原告につきそれぞれ4万6319円(小数点以下四捨五入)となる。


(3) 小括

 以上のとおりであるから,原告らの商標権等侵害による財産上の損害賠償請求は,原告ダックスが被告に対し,民法709条の不法行為に基づき4万6319円の支払を求め,原告三共生興が被告に対し,同じく民法709条の不法行為に基づき4万6319円,プレリーシミズから譲り受けた損害賠償請求権(本件譲渡対象債権)に基づき31万7234円,以上合計36万3553円の支払を求める限度で理由があり,その余は理由がない。 』

 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照してください。