●平成24(行ケ)10360 審決取消請求事件 商標権「インテルグロー」

 本日も、『平成24(行ケ)10360 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟インテルグロー」平成25年4月18日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20130419094724.pdf)について取り上げます。


 本件では、取消事由3(15号の適用の誤り)や、取消事由4(19号の適用の誤り)、取消事由5(7号の適用の誤り)についての判断も参考になるかと思います。


 つまり、知財高裁(第2部 裁判長裁判官 塩月秀平、裁判官 池下朗、裁判官 古谷健二郎)は、


『3取消事由3(15号の適用の誤り)について

(1) 本件商標と引用商標とが非類似であることは上記1で判示したとおりであるが,引用商標に係る商品の取引実態についてみる。


 甲2〜54,56,57によれば,原告は,半導体集積回路等の世界最大の製造販売業者であって,その略称でもある商標「インテル」や「INTEL」が,半導体集積回路等の取引者・需要者の間では著名であり,他方,原告の業務に係る商品を組み込んだパソコン,サーバや,それらの広告に「intelinside」ロゴを表示するマーケティング手法によって,一般消費者へも認知度を高めており,本件商標の登録出願時において既に,上記商標が半導体集積回路等の分野での原告商標であるものとして相当に広い範囲にわたり知られるに至っていたことを認めることができる。


 しかし,原告の業務に係る商品(半導体集積回路等)は,電子機器の部品であり,ブランド構築の難易度が高い業界に属し,「intelinside」プログラム等のマーケティング的努力によって,商標「インテル」,「INTEL」が,半導体集積回路等や,パソコン,サーバの取引分野において,これら商標のブランド力を浸透させるのに成功したことは優に認めることができるものの(甲49など),これらの取引分野を超えて,著名となっていることまで認めるに足りる証拠はない。原告が住宅設備機器・建材商品の販売・施工を行っているとは認められず,原告主張の防護標章登録の事実からは,これら商標が防護標章登録の商品,役務の分野において著名となっていることを推認することはできない。


(2)本件商標の指定商品又は役務は,原告の上記商標「インテル」,「INTEL」が使用して取引される商品又は役務と異なり,商標「インテル」,「INTEL」が,半導体集積回路等や,パソコン,サーバ以外の取引分野においても著名であるとは認められない。そして,本件商標は前記のとおり「インテルグロー」と一連に称呼されるものであり,イタリアのサッカーチーム「InternazionaleMilano(インターナショナル・ミラノ)が我が国において「インテル」の略称で有名であることは当裁判所にも顕著であり,我が国における一般消費者がパソコン,サーバ以外の取引分野において「インテル」の音を聞いたときに,原告の商標「インテル」,「INTEL」を想起すると限らないものと認められる。


 これらを合わせ考慮すると,本件商標が指定商品又は役務に使用されることによって,原告又はこれと営業上何らかの関係を有する者の業務に係る商品又は役務であるかのように,出所について混同を生じるおそれがあるとは認められない。


(3)本件商標の取引実態についてみても,被告は「株式会社インテルグロー」の商号を有し,本件商標を使用して,住宅設備機器・建材商品の販売・施工を行う,1956年設立の株式会社であり,従業員は準社員を含め136名,主たる業務は,住宅設備機器(便器・水栓金具等)・配管資材・各種タイル・石材の販売,タイル工事の施工・付帯サービス,住設工事(システムバス・システムキッチン等)の施工管理・付帯サービスである。被告は,建築工事業・大工工事業・管工事業・タイル,れんが,ブロック工事業,内装仕上工事業の国土交通大臣許可を有し,一級建築士2名,二級建築士2名,一級建築施工管理技士1名,二級建築施工管理技士3名,二級管工事施工管理技士15名,インテリアコーディネーター3名,キッチンスペシャリスト7名,建設業経理士1級2名,建設業経理士2級1名,福祉住環境コーディネーター2級18名,浄化槽設備士4名の有資格者を擁している。その取扱工事は,湿式タイル工事,乾式タイル工事,ユニットバスルーム工事,システムトイレ工事,空調機器・換気扇工事,浄化槽・水処理施設工事,システムキッチン工事,ディスポーザ取付工事,フローリング工事,パイル工事,軒天工事,内装仕上工事,外部仕上工事,屋根工事,金属製建具工事,外構工事,ガーデニング工事,太陽光発電システム,カーテン工事,取扱商品は,外装用建材,住宅内部造作材,床材内部造作材,壁材,床暖房,暖炉,屋根材,外構材,衛生陶器・水洗金具,システムトイレ,洗面化粧台,ユニットバスルーム,サウナ,システムキッチン,ガス・石油給湯器,電気温水器,空調機器・換気扇,高架水槽,給水加圧装置,浄化槽・水処理施設,配管パック,水道集中検針装置,業務用生ごみ処理装置,電設資材,上下水道配管資材,建設設備配管資材,プラント配管資材,内外装タイル,石材,天然大理石・人造石,エクステリア,インターロッキング,ガラスブロック,各種れんが,電動工具,タイル施工材料・接着剤・工具,珪藻土仕上材,内外装仕上材,セメントである(甲1の1,2,甲60)。


 他方,被告が,半導体集積回路等の製造販売を行っているとは認められない。


(4)したがって,本件商標は,15号に違反して登録されたものということはできないとの審決の判断に誤りはなく,取消事由3には理由がない。


4取消事由4(19号の適用の誤り)について

 本件商標が引用商標と類似しないこと,原告の商標「インテル」,「INTEL」が,半導体集積回路等や,パソコン,サーバ以外の取引分野においても著名であるとは認められないこと,本件商標が指定商品又は役務に使用されることによって,原告又はこれと営業上何らかの関係を有する者の業務に係る商品又は役務であるかのように,出所について混同を生じるおそれがあるとは認められないことは,上記のとおりである。したがって,本件商標の使用により,商標「インテル」若しくは「INTEL」に化体した信用,名声,顧客吸引力等を毀損させるおそれがあるとは認められず,本件商標が,不正の利益を得る目的,他人に損害を加える目的その他の不正の目的をもって登録されたものということはできない。


 したがって,本件商標は,19号に違反して登録されたものということはできないとの審決の判断に誤りはなく,取消事由4には理由がない。


5取消事由5(7号の適用の誤り)について


 本件商標は,その構成文字中に「インテル」の文字を有するけれども,「インテルグロー」と一体不可分のものとして認識されるものであるから,「インテル」の文字は,本件商標全体の中に埋没して,それのみが独立して把握されるものではなく,本件商標は,原告の商標「インテル」又は「INTEL」を想起させるものではない。他に,本件商標を指定商品・指定役務に使用することが公の秩序を乱すこととなる等の事情は認められない。


 したがって,本件商標は,7号に違反して登録されたものということはできないとの審決の判断に誤りはなく,取消事由5には理由がない。』

 と判示されました。

 詳細は、本判決文を参照して下さい。

 本日も、『平成22(ワ)3490等 商標権侵害差止等請求事件 平成25年3月6日福岡地方裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20130523090617.pdf)について取り上げます。



 本件では、原告A及び原告Bの被告に対する不法行為に基づく損害賠償請求について(第1事件)や原告会社の被告に対する不競法3条1項及び2項に基づく請求について(第2事件)の判断も参考になるかと思います。


 つまり、福岡地裁(第5民事部 裁判長裁判官 岩木宰、裁判官 池田聡介、裁判官 鈴木拓磨)は、



『3原告A及び原告Bの被告に対する不法行為に基づく損害賠償請求について(第1事件)

(1)争点(2)ア(不法行為の成否)について

ア原告Bの請求について

 前提事実(4)のとおり,被告は,被告標章を用いて被告店舗を営業するなどしているが,前記2(1)イのとおり,原告Bから本件許諾を受けており,その解除は認められないことからすると,被告の上記行為が,原告Bに対する不法行為を構成するということはできない。


イ原告Aの請求について

 前提事実(4)のとおり,被告が本件商標と酷似する被告標章を用いて被告店舗を営業する行為は,形式的には,原告Aの本件商標権を侵害する行為に当たるといえる。


 しかしながら,前記2(2)のとおり,原告Aは,原告Bと意思を通じ,形式的に名義人を原告Aとすることにより原告Bの被告に対する本件許諾の効力が本件商標に及ぶことを免れさせ,被告による被告店舗の開業を阻止するという不当な目的の下,自己の名義で本件商標の登録を出願して本件商標権を取得している。このような事情からすると,被告の上記行為は,実質的にみて,原告Aの本件商標権を違法に侵害するものということはできず,原告Aに対する不法行為を構成しないというべきである。


(2)小括

 以上のとおりであって,その余の争点について判断するまでもなく,原告A及び原告Bの各不法行為に基づく損害賠償請求は,いずれも理由がない。


4原告会社の被告に対する不競法3条1項及び2項に基づく請求について(第2事件)

(1)争点(3)エ(信義則違反又は権利濫用の成否)について


 証拠(原告B本人,原告A本人)及び弁論の全趣旨によれば,原告会社は,原告Bにより設立され,その実質的な経営は原告Bが行っていることが認められる。


 そうすると,原告店舗の実質的な経営主体に変更はないにもかかわらず,原告会社が,原告Bとは別個独立の法人格であることを利用して,被告に対し,不競法違反を主張して本件商標の使用の差止め等を請求することは,前記2(1)イ(ア)のとおりの原告Bが被告に対してした本件許諾と実質的に矛盾する行為であり,本件許諾により被告に生じた信頼を不当に裏切るものであるから,信義則に反して許されないというべきである。


(2)小括

 以上のとおりであって,その余の争点について判断するまでもなく,原告会社の不競法3条1項及び2項に基づく請求は理由がない。


5被告の原告A及び原告Bに対する不法行為に基づく損害賠償請求について(第3事件)


(1)争点(4)ア(不法行為の成否)について


ア前記1(4)ア及び証拠(乙18の1及び2)によれば,原告Aは,電話で被告と会話した際,被告に対し,「力ずくで武力行使するぞ。」などと発言し,声を荒げることもあったことが認められる。このような原告Aの言動は極めて不適切なものではあるが,それ自体,具体的な内容を伴う表現ではなく,直ちに原告Aが被告の生命又は身体に危害を加える具体的な行動に出ることを想起させるものとはいえない。その上,証拠(乙18の1及び2)によれば,上記発言を受けた被告が,その意味内容を確認しようとしたり,自己の立場や言い分を述べるなどしていることが認められ,原告Aの言動によって畏怖しているとはいえないことを踏まえると,原告Aの上記言動が,被告に対する不法行為を構成するほどに違法なものであるということはできない。


イまた,訴えの提起が相手方に対する違法な行為といえるのは,当該訴訟において提訴者の主張した権利又は法律関係が事実的,法律的根拠を欠くものである上,提訴者が,そのことを知りながら又は通常人であれば容易にそのことを知り得たといえるのにあえて訴えを提起したなど,訴えの提起が裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くと認められるときに限られるものと解するのが相当である(最高裁昭和63年1月26日第三小法廷判決・民集42巻1号1頁参照)。


 これを本件についてみると,前記2及び4のとおり,原告A及び原告Bの各請求はいずれも理由がないというべきであるが,前提事実(1)及び(4)のとおり,原告Bは原告店舗を経営しており,原告Aは本件商標権を取得しているところ,被告は,原告店舗と同じ屋号を用い,かつ,本件商標と酷似する被告標章を掲げて被告店舗を営業している上,証拠(乙30,乙32)及び弁論の全趣旨によれば,被告は平成22年6月4日に覚せい剤の自己使用の事実で逮捕され有罪判決を受けたことが認められることからすると,原告A及び原告Bの主張する権利が事実的,法律的根拠を欠くとまではいえず,本件訴訟(第1事件)の提起が裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くということはできない。


 したがって,原告A及び原告Bによる本件訴訟(第1事件)の提起が,被告に対する不法行為に当たるということはできない。


(2)小括

 以上のとおりであって,その余の争点について判断するまでもなく,被告の原告A及び原告Bに対する不法行為に基づく損害賠償請求は,いずれも理由がない。』

 と判示されました。

 詳細は、本判決文を参照して下さい。