●平成28(ワ)5104不正競争行為差止等請求事件 意匠権「シート」民事

 本日も、『平成28(ワ)5104 不正競争行為差止等請求事件 意匠権「シート」民事訴訟 平成29年6月15日 大阪地裁 』(http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/860/086860_hanrei.pdf)について取り上げます。


 本件では、争点4(本件告知行為につき被告に過失があるか)についての判断も参考になるかと思います。


 つまり、大阪地裁(第21民事部 裁判長裁判官 森崎英二、裁判官 野上誠一、裁判官 大川潤子)は、

『4 争点4(本件告知行為につき被告に過失があるか)

(1) 後掲各証拠によれば次の事実が認められる。
ア 被告が原告商品を発見したというコープPの平成28年1月12日発行の本件カタログの6ページ目には,原告商品が掲載されているが,その掲載スペースは,1面の8分の1足らずである。そして,原告商品の形状を認識し得る正面図に相当する写真は,その掲載箇所の右隅に,その掲載箇所のさらに9分の1程度の大きさで掲載されていた。


 カタログの掲載商品には,製造者名を付記しているものもあるが,多くは製造者名が付記されておらず,同カタログの原告商品の掲載部分には,「店舗では購入できません」と記載され,その製造者名は記載されていなかった(甲10)。


イ 被告は,本件カタログに基づき,原告商品の意匠が本件意匠に類似すると判断し,上記カタログで原告商品を発見した2日後である同月27日,コープP宛てに本件通知書を送付して本件告知行為を行った。その際,被告は,原告商品の商品名をインターネットで検索するなどして本件カタログ以外での販売状況を調べようとせず,また原告商品そのものを入手しておらず,また入手しようともしなかった(甲4)。


ウ 本件通知書の記載内容は,上記第2の1(4)イ記載のとおりであり,その要旨は,原告商品の販売が本件意匠権の侵害に当たることを断定した上でコープPに販売の停止を求めるとともに,製造元の開示を求めるものであった。なお原告は,本件告知行為前に,原告商品の製造元等を確かめようとしなかった(甲4)。


エ 原告は,その当時,原告商品をアマゾン,楽天のインターネットショップでも販売しており,同所では,原告商品は,本件カタログに記載されているものと同じ商品名で取り扱われていた(甲15,17)。


オ コープPの代理人弁理士は,同年2月9日,被告に対し,本件通知書に対する回答書を送付し,両意匠の四隅の丸みの形状及び貫通孔のスリットの有無を含む全体の形状の差異を理由に,原告意匠は本件意匠に類似せず,実物を確認すれば違いが理解できる旨の見解を示した。また,それとともに原告商品の製造者は原告商品の箱裏面に記載されている原告であること,原告商品はコープP以外でも広く流通していることを付言した(乙1の1,2)。


カ 被告は,同月29日,原告意匠は本件意匠に類似するものであり,原告商品の販売は意匠権侵害に当たることから,原告商品の製造,輸入及び販売の停止等を求める内容の「通知書」と題する書面を原告に対して送付したが,同書面における意匠の類否判断の理由は,同年1 月27日,コープP宛てに送付した本件通知書と全く同じものであった(甲21)。


(2) 知的財産権を有する者が,侵害行為を発見した場合に,その侵害行為の差止を求めて侵害警告をすることは,基本的に正当な権利行使であり,その侵害者が侵害品を製造者から仕入れて販売するだけの第2次侵害者の場合であっても同様である。


 しかし,侵害品を事業として自ら製造する第1次侵害者と異なり,これを仕入れて販売するだけの第2次侵害者は,当該侵害品の販売を中止することによる事業に及ぼす影響が大きくなければ,侵害警告を不当なものと考えても,紛争回避のために当該侵害品の仕入れをとりあえず中止する対応を採ることもあり,その場合,侵害警告が誤りであっても,第1次侵害者に対する販売の差止めが実現されたと同じ結果が生じてしまうから,こと第2次侵害者に対して侵害警告をする場合には,権利侵害であると判断し,さらに侵害警告することについてより一層の慎重さが求められるべきである。したがって,正当な権利行使の意図,目的であったとしても,権利侵害であることについて,十分な調査検討を行うことなく権利侵害と判断して侵害警告に及んだ場合には,必要な注意義務を怠ったものとして過失があるといわなければならない。

 以上により本件についてみるに,本件通知書の記載内容(上記第2の1(4)イ)からすると,被告は,コープPが本件意匠権の侵害者であるとしても,製造者ではなく仕入れて販売する第2次侵害者にすぎないことを認識していたと認められる。しかし,本件告知行為に至る経緯をみると,被告は,原告商品を本件カタログで発見するや実物を確認することなく本件意匠権の侵害品であると断定し,僅か2日後には,第1次侵害者である製造者を探索しようともせずに,製造者の取引先ともなるコープPに対し,権利侵害であることを断定した上で侵害警告に及んだというのである。

 すなわち,上記認定した本件告知行為に至る経緯において,被告が,警告内容が誤りであった場合に,製造者に及ぼす影響について配慮した様子は全く見受けられず,不用意に本件告知行為に及んだものといわなければならない。


 また,そもそも原告商品が本件意匠権の侵害品であるとの判断自体についてみても,本件については,本件告知行為を受けたコープPの代理人弁理士が,当裁判所と同様の判断内容で原告意匠と本件意匠が非類似である旨を短期間のうちに回答しているように,両意匠が意匠法的観点からは類似していないというべきことは比較的明らかなことといえるが(被告は,本件意匠の実施品が同種商品の存しない新種のアイデア商品であり,先行意匠が存しないことから,意匠権で保護されるべき範囲を過大に考えていたように思われる。),そうであるのに被告は,原告商品を発見して極く短期間のうちに意匠権侵害であると断定して侵害警告に及んだというのであるから,この点でも,侵害判断が誤りであった場合に製造者である原告の営業上の信用を害することになるおそれについて留意した様子が全くうかがえず,不用意に本件告知行為に及んだものといえる。


 以上のとおり,被告は原告商品の販売が本件意匠権の侵害であるとの事実を原告の取引先であるコープPに対して警告するに当たり,原告商品の販売が本件意匠権の侵害との判断が誤りであった場合,原告の営業上の信用を害する虚偽の事実の告知となって,製造者である原告の営業上の信用を害することになることなどを留意することなく本件告知行為をしたものと推認すべきであり,意匠権の権利行使を目的として上記行為に及んだことを考慮しても,以上の事実関係のもとでは,そのような誤信がやむを得なかったとはいえないから,被告は,本件告知行為をするに当たって必要な注意義務を尽くしたとはいえず過失があったというべきである。

 したがって,被告は,本件告知行為により原告が受けた損害を賠償する責任がある。』

 と判示されました。

 詳細は、本判決文を参照して下さい。