●平成28(ワ)5104不正競争行為差止等請求事件 意匠権「シート」民事

 本日も、『平成28(ワ)5104 不正競争行為差止等請求事件 意匠権「シート」民事訴訟 平成29年6月15日 大阪地裁 』(http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/860/086860_hanrei.pdf)について取り上げます。


 本件では、争点2(本件告知行為による不正競争防止法2条1項15号所定の不正競争の成否)や争点3(原告の被告に対する虚偽事実の告知行為の差止請求は認められるか)についての判断も参考になるかと思います。


 つまり、大阪地裁(第21民事部 裁判長裁判官 森崎英二、裁判官 野上誠一、裁判官 大川潤子)は、

『2 争点2(本件告知行為による不正競争防止法2条1項15号所定の不正競争の成否)について

(1) 上記1で検討したところによれば原告意匠は本件意匠と類似するものではないから,原告商品の販売は意匠権侵害にはならず,したがって本件通知書の記載内容は虚偽の事実であるということになる。

 そして,そのような事実は原告商品を製造販売する原告の営業上の信用を害する事実であるというべきところ,原告と被告は,ともに生活用品等を販売する競争関係にある事業者であるから,被告が原告の取引先であるコープPに対してした本件告知行為は,「競争関係にある他人の営業上の信用を害する虚偽の事実を告知」する行為といえ,原告に対する不正競争防止法2条1項15号所定の不正競争に該当する。

(2) 被告は,コープPによる原告商品の販売は本件意匠権を侵害する行為であり,これに対する侵害の停止,予防を図るためにする本件告知行為は,知的財産権の権利行使の一環として行われたもので,実質的にも競業者の取引先に対する信用を毀損し当該取引先との取引ないし市場での競争において優位に立つことを目的としてなされたものではないから不正競争防止法2条1項15号所定の不正競争に該当しないか,少なくとも違法性が阻却される旨主張する。


 しかしながら,不正競争防止法は,不正競争の行為類型を同法2条において主観的要件の要否を含め個別具体的に規定するとともに,同法3条に差止請求権の,同法4条に損害賠償請求権の発生要件を規定し,他方で同法19条において当該行為類型を充足して不正競争が成立しても差止請求,損害賠償請求等の規定を適用しない場合を具体的に定めているのであるから,同法2条に規定された不正競争の成否を判断するに当たり,条文にない主観的要件を解釈により加え,これにより要件該当性,違法性阻却を論じることは,不正競争防止法の趣旨に沿うものではないといえる。


 また被告の主張によれば,裁判手続において虚偽事実であると判断されたとしても,同法2条1項15号所定の不正競争であること自体が否定され得るというのだから,その場合,同法3条の他の要件が認められたとしても,そもそも不正競争でないとして将来の差止請求が認められないということになる。なお被告は,知的財産権の権利行使の一環として行われた侵害警告を不正競争とすることが,知的財産権の権利行使を委縮させかねない点も指摘するが,侵害警告の段階に留まるのであれば,これを知的財産権に基づく訴訟提起と同様に扱うことはできないし,また他方で,客観的には権利行使とはいえない侵害警告により営業上の信用を害された競業者の事後的救済の観点も十分に考慮されるべきである。

 したがって,被告の上記主張を採用することはできず,このような知的財産権の権利行使の一環であったとの主観的事情を含む被告が違法性阻却事由として主張する事実関係については,不正競争であることを肯定した上で,指摘に係る権利行使を委縮させるおそれに留意しつつ,そもそもの知的財産権侵害事案における侵害判断の困難性という点も考慮に入れて,同法4条所定の過失の判断に解消できる限度で考慮されるべきである。

3 争点3(原告の被告に対する虚偽事実の告知行為の差止請求は認められるか)について

 上記2で検討したとおり被告による本件告知行為は不正競争防止法2条1項15号所定の不正競争に該当する。

 そして,本件において被告は,原告意匠が本件意匠に類似する旨争うとともに,コープPに対してした本件告知行為が被告の営業上の信用を害する虚偽の事実の告知であることも争っているから,同様の告知行為をするおそれが,なおあるものと認められる。

 原告は,上記虚偽事実の告知により営業上の信用を害されるおそれがあり,他方,被告は,上記虚偽事実の告知をするおそれがあるから,原告の被告に対する虚偽事実の告知の差止請求には理由がある。』

 と判示されました。

 詳細は、本判決文を参照して下さい。