●平成17(ワ)16218 損害賠償請求事件 著作権「土地宝典」(1)

 本日は、『平成17(ワ)16218 損害賠償請求事件 著作権「土地宝典」平成20年01月31日 東京地方裁判所 』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20080205115907.pdf)について取り上げます。


 本件は、土地宝典に係る各著作権を譲り受けた原告らが,被告である国に対し,不特定多数の第三者が業務上の利用目的をもって各法務局に備え置かれた本件土地宝典の貸出を受けて,各法務局内に設置されたコインコピー機により無断複製行為を繰り返していたことは,被告において本件土地宝典を各法務局に備え置いて利用者に貸し出すとともに各法務局内にコインコピー機を設置し当該コインコピー機を用いた利用者による無断複製行為を放置していたことによるものであり,この被告の行為は ,被告自身による複製権侵害行為であるか、少なくとも不特定多数の第三者による本件土地宝典の複製権侵害行為を教唆ないし幇助する行為等であり,損害賠償及び不当利得の一部の支払を求め、その請求の一部が認容された事件です。


 本件では、以下の10個の争点があります。


(1) 本件土地宝典の著作物性(争点1)
(2) 本件土地宝典の著作権の原告らへの帰属の有無(争点2)
(3) 被告の行為(本件土地法典の貸出及び民事法務協会に対する法務局内におけるコピー機設置場所の提供)が本件土地宝典の著作権を侵害する不法行為に該当するか(争点3 )。
(4) 損害額(争点4)
 ア被告の行為により本件土地宝典の逸失利益の損害が発生したか(争点4−1 )。
 イ著作権法114条3項による使用料額はいくらが相当か(争点 4−2)。
(5) Cが法務局窓口で本件土地宝典を借り受けた者が謄写することを包括的に許諾していたといえるか(争点5)。
(6)著作権法38条4項の趣旨は法務局窓口での本件貸出に及ぶか(争点 6)。
(7) 二次的著作物の原著作者の複製についての許諾権により違法性が阻却されるか(争点7) 。
(8) 信義則違反の有無(争点8)
(9) 消滅時効の成否(争点9)
(10) 不当利得の成否(争点10)


 つまり、東京地裁(民事第46部 裁判長裁判官 設樂隆一、裁判官 関根澄子、裁判官 古庄研)は、まず、争点1(本件土地宝典の著作物性)について


1 争点1(本件土地宝典の著作物性)について
(1) 地図の著作物性について1


 本件土地宝典は,地図の一種であると解されるので,まず,地図の著作物性について検討する。


 一般に,地図は,地形や土地の利用状況等の地球上の現象を所定の記号によって,客観的に表現するものであるから,個性的表現の余地が少なく,文学,音楽,造形美術上の著作に比して,著作権による保護を受ける範囲が狭いのが通例である。


 しかし,地図において記載すべき情報の取捨選択及びその表示の方法に関しては,地図作成者の個性,学識,経験等が重要な役割を果たし得るものであるから,なおそこに創作性が表われ得るものということができる。そこで,地図の著作物性は,記載すべき情報の取捨選択及びその表示の方法を総合して,判断すべきものである。


(2) 本件土地宝典の著作物性について


 本件土地宝典は,民間の不動産取引の物件調査に資するという目的に沿って作成されるものであり,次のような特徴を備えている。


 ・・・省略・・・


ウ 以上によれば,本件土地宝典は,民間の不動産取引の物件調査に資するという目的に従って,地域の特徴に応じて複数の公図を選択して接合し,広範囲の地図として一覧性を高め,接合の際に,公図上の誤情報について必要な補正を行って工夫を凝らし,また,記載すべき公図情報の取捨選択が行われ,現況に合わせて,公図上は単に分筆された土地として表示されている複数の土地をそれぞれ道路,水路,線路等としてわかりやすく表示し,さらに,各公共施設の所在情報や,各土地の不動産登記簿情報である地積や地目情報を追加表示をし,さらにまた,これらの情報の表現方法にも工夫が施されていると認められるから,その著作物性を肯定することができる。


エ これに対して,被告は,次のように反論する。しかし,これらの主張はいずれも理由がない。


a) 被告は,公図をまとめ,地目,地積等を表示するという形式は,明治初期に刊行された土地宝典において既に採用されており,本件土地宝典はその模倣ないし亜流にすぎないから,公図の二次的著作物といえるだけの創作性は認められないと主張する。


 しかし,被告が本件土地宝典に先立って発行された土地宝典と本件土地宝典とで同一である旨指摘する点は,抽象的な編集方法ないし編集方針(アイディア)の共通性にすぎないというべきである。特定の地域を対象とする本件土地宝典とその余の土地宝典とで,その対象とする地域が異なる限り,そもそも地図の対象となる素材が異なるのであるから,抽象的な編集方法ないし編集方針が共通していたとしても,これにより本件土地宝典の創作性が否定されるものではない。なお,本件土地宝典と同一の地域を対象とし,本件土地宝典より先立って発行されたとする土地宝典が存在するとの証拠もない。

 また,大羅陽一氏の論文「土地宝典の作成経緯とその資料的有効性」(乙1)によれば「土地宝典には名称・形態をはじめ,掲載事項や表現内容などにおいて,さまざまな種類のものが認められる(1頁「一」),概に土地宝典といっても発行時期や発行地域によって,さらに都鄙の別で掲載した項目・内容が相違し必ずしも一定していない(3頁 ),「単に土地宝典といっても,発行地域によってあるいは発行時期によって,原図とした公図は異なっている」(17頁),「土地宝典は名称や体裁・表現内容において多様性がみられるものの,横長は明治期に多く,縦長は大正期以降の発行のものに多い。また,表現内容・記載事項において, はその出版社に規定される面が強い 」(17頁等 )と分析されており,一般的に土地宝典といっても,その素材とする公図の選択,あるいはその表現内容・方法等に多様性がみられることが説明されている。このことは,土地宝典といっても,明治時代以来,種々のものがあり,その作成者により,情報の取捨選択,表現上の工夫において作成者の個性が表れることを物語るものである。


b) 被告は,本件土地宝典は,地目,地積等の情報は付加されているものの,その資料としての価値の大部分は,法務局備付けの公図をそのまま縮小した点にあり,したがって,本件土地宝典が,公図を接合し,各種情報を付加して作成されていても,それは,公図を変形,翻案して新たな地図として創作されたというまでには至っていないというべきであり,本件土地宝典は,公図の二次的著作物とは認められないと主張する。


 しかし,本件土地宝典は,上記のとおり,複数の公図を選択し,これを接合してより広範囲の地図とし,その際に公図上の誤情報を補正したり,また,公図情報に加え,道路,水路,鉄道などの現況情報,公共施設の所在情報,地積,地目表示などの不動産登記簿情報を付加して作成されたものであり,不動産取引の前提となる物件調査に必要な民有地の情報を優先して取捨選択して表示したものである。そして,土地宝典といっても,その作成者により,その情報の取捨選択や表示方法に個性が存在することは前記のとおりであるから,本件土地宝典を公図の二次的著作物として保護すべきである。被告の主張は採用することができない。


c) 被告は,公図自体が,水路は青,道路は赤で彩色しているのであり(乙16),本件土地宝典は色を変えたにすぎない,とも主張する。


 しかし,公図によっては,例えば,水路を水色に表示するものもあるとしても(乙16),前提となる事実認定のとおり,このような表記方法は一部のものにすぎず,公図については各都道府県により異なった表記方法となっているのであり,本件土地宝典に対応する公図については,前記認定のとおり,現況が水路や道路等でも,単に分筆された土地として表示されている部分も多いのである。被告の上記主張は,採用することができない。 』


 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照してください。