●昭和56(行ツ)99 審決取消「the Union」最高裁

  本日は、『昭和56(行ツ)99 審決取消 商標権 行政訴訟「the Union」昭和59年10月23日 最高裁判所第三小法廷 判決 棄却 東京高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/09F9EE0D552A723749256A8500311F66.pdf)について取り上げます。


 本件は、『平成16(行ヒ)4 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟「eAccess事件」平成17年07月14日 最高裁判所第一小法廷』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/055C4ABC55F0BA7049257124002698D7.pdf)の判決文中で引用されていた最高裁判決で、以下の内容です。


『       主    文
      本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。         
        理    由
 上告代理人猪股清、同藤本博光、同吉武賢次、同加藤静富の上告理由について

 一 原審の適法に確定したところによれば、(1) 上告人は、昭和四四年一一月七日、原判決添付目録記載の「the Union」なる商標(以下「本件商標」という。)について指定商品を「印刷物、書画、彫刻、写真、これらの附属品」として商標登録出願(以下「本件出願」という。)をした、(2) 上告人は、昭和四六年三月三日、指定商品を「印刷物(ただし、教育用印刷物及び学習用印刷物を除く)、書画、彫刻、写真、これらの附属品」とする旨の手続の補正をした、(3) 上告人は、昭和四六年五月一〇日に本件出願について拒絶査定を受け、同年七月一〇日に拒絶査定不服の審判請求をしたが、昭和五三年九月二八日に審判請求は成り立たない旨の審決(以下「本件審決」という。)を受けた、(4) 本件審決は、その理由として、本件商標は、その商標登録出願の日前の出願に係る他人の登録商標である「THE」「UNION」「READERS」の欧文字を三段に記載した商標(以下「引用商標」という。)に類似するものであつて、その商標登録に係る指定商品である「英語読本」に類似する商品について使用をするものであるから、商標法四条一項一一号の規定により商標登録を受けることができないものである、と判示した、(5) 上告人は、昭和五三年一二月二八日、本件商標の使用をする指定商品のうち「通信信用販売用カタログ雑誌以外の商業雑誌、宣伝広告用印刷物、書画、彫刻、写真、これらの附属品」を放棄する旨記載した「指定商品の一部放棄書」と題する書面を特許庁に提出した(以下「本件指定商品の一部放棄」という。)、というのである。


 上告人は、以上の事実関係に基づき、本訴において、本件指定商品の一部放棄により本件出願は放棄した商品を指定商品とした部分については初めからなかつたものとみなされるので、本件出願は本件審決時において指定商品を「通信信用販売用カタログ雑誌」とする商標登録出願であつたことになるところ、右指定商品は引用商標の指定商品である「英語読本」に類似するものではないから、本件商標の使用をする指定商品は引用商標の使用をする指定商品に類似するとした本件審決には事実誤認の違法があると主張して、本件審決の取消を請求している。


 二 ところで、上告人の主張する指定商品の一部放棄は、指定商品の一部を除外して残余の商品に指定商品を減縮し、その効果を商標登録出願の時点に遡及させ、減縮した商品を指定商品とする商標登録出願にすることを目的とするものであるところ、右目的を達成する手続としては、商標法は同法七七条二項(昭和四五年法律第九一号による改正前のもの)によつて準用される特許法一七条一項(右改正法律による改正前のもの)所定の手続の補正の制度を設けているにとどまるから、商標登録出願人が右目的を達成するためには手続の補正をする必要があるものといわなければならない。


 しかし、手続の補正には、これによつて商標登録出願人が受ける利益、第三者が受ける不利益及び手続の円滑な進行などが比較考量されて、事件が審査、審判又は再審に係属している場合に限りすることができる旨の時期的制限が設けられているから(右商標法七七条二項によつて準用される特許法一七条一項本文)、審決がされて事件が審判の係属を離れ手続の補正をすることができない時期に至つて指定商品の一部放棄をしても、商標登録出願人はもはや前記目的を達成することはできないものというべきである


 所論は、上告人のした本件指定商品の一部放棄に遡及効がないとした原判決には商標法八条三項の解釈適用を誤つた違法がある旨主張する。ところで、同法八条一項及び二項は、先後願又は同日出願の関係にある二以上の商標登録出願があつたときは、最先の商標登録出願人又は商標登録出願人の協議によつて定めた一の商標登録出願人のみがその商標について商標登録を受けることができる旨定めている。そして、同条三項は、右各規定の適用については、商標登録出願の放棄等によつてその出願は初めからなかつたものとみなす旨定めるところ、その趣旨は、放棄等がされた商標登録出願について、そのほかの競合している商標登録出願との関係において先願又は同日出願としての地位を失わせるためには、放棄等によつてその出願を初めからなかつたものとみなす必要があることによるものと解される。これに対し、同法四条一項一一号は、商標登録出願に係る商標が、その出願の日前の出願に係る他人の登録商標に類似する商標であつて、その商標登録に係る指定商品に類似する商品について使用をするものは、商標登録を受けることができない旨規定するところ、右規定の適用の有無が問題となる場合においては、当該商標登録出願は、右登録商標との関係では、必然的に後願であつて先願又は同日出願の地位にはないのであるから、右商標登録出願について、先願又は同日出願としての地位を失わせるために設けられた同法八条三項の規定を適用ないし類推適用する余地はないものといわなければならない。したがつて、同法四条一項一一号の規定によつて商標登録を受けることができないものとされた商標登録出願についてする指定商品の一部放棄が、同法八条三項所定の商標登録出願の放棄にあたるものと解することはできない。


 以上によれば、審決がされて手続の補正をすることができない時期に至つて二以上の商品を指定商品とする商標登録出願について指定商品の一部放棄をしても、指定商品の一部を除外して残余の商品に指定商品を減縮し、その効果を商標登録出願の時点に遡及させ、減縮した商品を指定商品とする商標登録出願にする効果は生じないものと解するのが相当である。


  三 これを本件についてみるに、右説示によれば、上告人のした本件指定商品の一部放棄によつては上告人の主張するような効果は生じないものというべきであり、したがつて本件審決には上告人の主張する取消事由はなく、本訴請求は理由がないことに帰するから、これを失当とした原審の判断は、結論において正当である。論旨は、採用することができない。


 よつて、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    木 戸 口   久   治
            裁判官    伊   藤   正   己
            裁判官    安   岡   滿   彦
            裁判官    長   島       敦 』