●平成17(ワ)16218 損害賠償請求事件 著作権「土地宝典」(4)

 本日も、『平成17(ワ)16218 損害賠償請求事件 著作権「土地宝典」平成20年01月31日 東京地方裁判所 』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20080205115907.pdf)について取り上げます。


 本日は、争点9,10、4について取り上げます。


 つまり、東京地裁(民事第46部 裁判長裁判官 設樂隆一、裁判官 関根澄子、裁判官 古庄研)は、争点9,10、4について、


8 争点9(消滅時効の成否)について

(1) 原告Aは,本件土地宝典の著作権の譲渡を受ける以前に,Cから,法務局や役所等で勝手に土地宝典のコピーを取らせるために,土地宝典の販売がうまくいかず,改訂版の発行すらできない状況になってしまったとの趣旨のことを聞かされていた(甲22)。


 また,原告らは,平成12年6月30日に本件土地宝典の一部を買い取って以降,複数の不動産鑑定士に本件土地宝典の買い取りを打診したものの,それらの者がいずれも,土地宝典は法務局でコピーを取得することが可能なため,一般需要者へ販売することは極めて困難である,との理由で買い取りを拒絶したため,原告らにおいて,順次本件土地宝典を買い取ることにしたものである(甲22) 。


 さらに,原告らは,本件土地宝典の著作権の譲渡を受ける際,その各譲渡契約書に「甲の権利として認められる違法コピー等に対する損害賠償請求権等の求償権は本日以降乙に無償にて移転する」と明記している(甲7の1ないし甲7の10) 。そうすると,原告らは,遅くともかかる譲渡契約のうち最終のものが締結された平成13年10月31日までには,各法務局において本件土地宝典が貸し出され,それが無断で複製されていたとの事実,及び,これにより既に損害が発生し,今後も損害が発生し得べきことを知っていたものと認められる。


 したがって,原告らが本件土地宝典の著作権の譲渡を受けた日から本訴提起日の3年前である平成14年8月7日までの間の違法複製に係る損害賠償請求権については,原告らは損害賠償請求権の発生と同時に,加害者たる被告に対する賠償請求が可能な程度に損害の発生を知ったものというべきであり,これらについては本件訴訟提起前に消滅時効が完成したものと認められる。そして,被告がかかる消滅時効を援用したことは当裁判所に顕著な事実であるから,被告の消滅時効の抗弁は理由がある。


(2) これに対して,原告らは,被害者たる原告らが損害の発生を現実に認識したのは,本件訴訟における被告の答弁の時であり,早くてもいくつかの法務局を調査して内容証明郵便を発送した平成16年9月30日であるから,平成17年8月8日の本訴提起により消滅時効は中断した旨主張する。


 しかしながら,本件について,個々の法務局における具体的な違法複製行為の認識が必要であると考えると,本件訴訟を提起した後に消滅時効の起算点が到来することになるが,このように権利行使したにもかかわらず消滅時効の起算点が到来していないという考え方は,権利を行使することができる時から消滅時効が進行する旨を定める民法166条1項と相容れないものというほかなく,採用することができない。


 また,既に述べた本件土地宝典の著作権の各譲渡契約書の記載によれば,原告らは,本件土地宝典の著作権の譲渡時において,既に法務局における本件土地宝典の違法複製により現に損害が発生し,今後も損害が発生し得べきことを知っていたものと認められるから,いくつかの法務局を調査して内容証明郵便を発送した平成16年9月30日が消滅時効の起算点になるとの原告らの主張も採用することはできない。


9 争点10(不当利得の成否)について


 原告らは,被告が,法務局内のコインコピー機における不特定多数の一般人による本件土地宝典の無断複製行為について,その侵害主体であることを前提として,法律上の原因なくして,本来支払われるべき本件土地宝典の使用料を免れてこれと同額の利益を取得した,と選択的に主張する。


 本件において,本件土地宝典を違法に複製した共同侵害主体と評価し得る者が被告と民事法務協会であることは前記認定のとおりである。したがって,被告は,民事法務協会と共に,法務局内において不特定多数の一般人により行われた本件土地宝典の複製行為により本来支払われるべき使用料の支払を免れてこれと同額の利益を得たものというべきであり,原告らは,これにより損失を被ったものである。よって,原告らの不当利得の請求は理由があるので,消滅時効が成立する期間内の侵害行為について,不当利得の請求が認められる。


10 争点4(損害額)及び損失額について


(1) 原告らは,被告が法務局備付けの本件土地宝典を利用者に貸し出して,法務局内に設置のコインコピー機により利用者をして無断複製行為をなさしめたことにより,本件土地宝典の販売部数が減少し,逸失販売利益の損害を被ったと主張する。しかし,本件に顕れたすべての証拠を精査検討しても,本件土地宝典について,そもそも不特定多数の者による本件土地宝典の違法複製行為が各法務局においてどの程度の頻度でどの程度なされたかが不明であり,また,違法複製行為を放置したことにより,本件土地宝典の販売部数の減少が生じ得るとしても,複製行為をした者のうち,どの範囲の者が複製行為をすることができなければ本件土地宝典を購入したかについても全く不明である。したがって,本件については,被告が違法複製行為を放置したことにより,原告らに本件土地宝典の逸失利益の損害が生じたとしても,その損害の額を認めるに足りる証拠はないといわざるを得ない。


(2) しかし,原告らには,本件土地宝典の不特定多数の一般人による無断複製行為により,使用料相当額の損害が生じており,原告らは,民事法務協会と共にその共同侵害主体である被告に対し,同額の損害賠償を請求することができる(民法709条,719条,著作権法114条3項。)


 ただし,本件においては,上記のとおり,違法複製行為がなされた回数を特定することが極めて困難であるから,原告らに損害が生じたことは認められるものの「損害額を立証するために必要な事実を立証することが当該事,実の性質上極めて困難であるとき(著作権法114条の5)に当たる。」そして,著作権侵害の対象である本件土地宝典が各法務局に合計120冊備え付けられていること , 本件土地宝典の売価が3万円であること(甲16 ),本件土地宝典は,前記認定のとおり,複数の公図を選択して接合して一葉に表示したため,一覧性にすぐれた広範囲の情報を提供し得ること,その際に公図の誤情報を補正していること,公図情報に加え,道路,水路,鉄道などの現況情報,公共施設の所在情報,地積,地目表示などの不動産登記簿情報を付加して作成されたものであり,各種申請行為の添付資料として選択し得る資料の一つともされていたこと,特に郊外地や山林原野などの現地調査の際に便利であったことなどから,その貸出のみならずこれを複写する需要も相当程度存在したこと,本件土地宝典は従前は10年ごとに改訂されていた(甲22)ものの,被告が本件土地宝典の著作権を侵害した期間が平成12年6月30日ないし13年10月31日から平成17年2月8日までの期間であるのに対し,本件土地宝典120冊のうち最も古いものは昭和47年3月28日に発行されたものであり,最も新しいものでさえ平成4年6月24日に発行されたものであり,平成元年以降に発行されたものは120冊中17冊にすぎないこと,原告らは本件土地宝典の著作権を,過去の損害賠償請求権も含め合計730万円で譲り受けていることなどの事情を考慮すると,上記期間内における本件土地宝典の違法複製行為による原告らの使用料相当額の損害は,本件土地宝典各1冊につき , 1年当たり平均1万円として,120冊全体で1年当たり120万円と認めるのが相当である。


 また,原告らは,消滅時効が認められる期間については,使用料相当額の不当利得の主張をしており,この使用料相当額も,本件土地宝典各1冊につき1年当たり平均1万円として,120冊全体で1年当たり120万円と認めるのが相当である(著作権法114条の5の類推適用。)


 なお,本件土地宝典の著作権が譲渡された時期は,別紙一覧表記載のとおり,平成12年6月30日から平成13年10月31日までの期間内のいずれかの日時に分かれており,この各始期から平成17年2月8日の侵害行為終了時までの期間を平均すると少なくとも48月分となる(原告らも,この期間を48か月として請求している。。)


 以上によれば,原告らの請求は,弁護士費用を除き,本件土地宝典の48月分の使用料相当額合計480万円(120万円×4年)の限りで理由がある(このうち,平成14年8月8日から平成17年2月8日までは著作権侵害不法行為による損害であり(120万円×2年6月,それ以前は不当)利得による損失(120万円×1年6月)である。。)
また,弁護士費用については,本件訴訟追行の困難さなど,本件訴訟に顕れたすべての事情を考慮し,96万円を相当因果関係にある損害と認める。


(3) 以上によれば,原告らの損害は,合計で576万円であり,これを原告らの持分に応じて割り振ると,原告株式会社富士不動産鑑定事務所につき463万2000円,原告Aにつき86万4000円,原告Bにつき26万4000円となる。

11 結論

 よって,原告らの本訴請求は,主文掲記の限度で理由があり,その余は理由がなく,仮執行宣言については相当でないから,主文のとおり判決する。 』


 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照してください。