●平成17(ワ)16218 損害賠償請求事件 著作権「土地宝典」(2)

 本日も、『平成17(ワ)16218 損害賠償請求事件 著作権「土地宝典」平成20年01月31日 東京地方裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20080205115907.pdf)について取り上げます。


 本日は、争点2、争点3、争点5について取り上げます。


 つまり、東京地裁(民事第46部 裁判長裁判官 設樂隆一、裁判官 関根澄子、裁判官 古庄研)は、争点2,3について、


2 争点2(本件土地宝典の著作権の原告らへの帰属の有無)について


 本件土地宝典の著作権の各譲渡契約書及び各譲渡証書(甲7の1ないし甲7の10,甲47の1ないし甲47の10) ,原告Aの陳述書(甲22)によれば,Cが,別紙一覧表「譲渡日」欄記載の日に,別紙一覧表「譲受人」欄記載の者に,本件土地宝典の著作権を譲渡したことを認めることができる。被告は,本件土地宝典の著作権等の譲渡対価が低廉であることや改訂版の発行がなされていないことなどを理由に,Cに権利移転の意思があったか疑問であると主張し,また,本件土地宝典の著作権は代金支払時に移転すると解するのが合理的であるのに,代金支払の立証がないなどと主張する。


 しかし,上記各譲渡契約書及び各譲渡証書には,Cの実印が押捺されているから(甲48の1及び甲48の2),上記各譲渡契約書及び各譲渡証書は,Cの意思に基づいて真正に成立したものであると認められる。そして,そもそもこの各譲渡契約書及び各譲渡証書によれば,契約締結時に本件土地宝典の著作権が譲渡されることが明記されているのであり,本件土地宝典の著作権が代金支払と引換えに移転するとの条項は存在しないから(甲7の1ないし甲7の10),本件土地宝典の著作権は譲渡契約と同時に移転したと解すべきである。なお,上記各譲渡契約書及び譲渡証書によれば,本件土地宝典の著作権の譲渡代金は,各契約締結時に一括して支払われることが明記されているものの,仮に,原告らがこの譲渡代金を支払わなかったとすれば,原告らとCとの間に何らかの紛争が生じていたはずであるのに対し,本件ではそのような紛争があったことを認めるに足りる証拠は存在せず,かつ,上記各譲渡契約書及び譲渡証書は,別紙一覧表記載の譲渡日時のとおり,約1年4か月位の期間内において,次々と締結されていったのであるから,このことからも契約締結時に譲渡代金が滞りなく支払われていったことが推認されるところである。よって,被告の上記主張は理由がない。


3 争点3(被告の行為(本件土地法典の貸出及び民事法務協会に対する法務局内におけるコピー機設置場所の提供)が本件土地宝典の著作権を侵害する不法行為に該当するか)について

(1)証拠(甲30,甲33,甲34,甲35,乙20,乙21)によれば,次の事実が認められる。


ア 本件土地宝典の管理状況

 法務局にある本件土地宝典は,法務局職員により管理されており,一般人が本件土地宝典の閲覧及び複写を申し込むと,法務局職員が本件土地宝典を申込者に貸与する。ただし,貸与された本件土地宝典の閲覧は,改ざん防止のため,法務局内においてのみ許されており,これを外部に持ち出すことはできないため,その複写をする場合は,法務局内に設置されたコインコピー機によってのみ複写することになる。


イ 法務局内のコインコピー機の管理状況


 法務局内のコインコピー機は,被告が民事法務協会に使用許可を与えた場所において,同協会がこれを設置し,一般人に対し,法務局から貸し出された図面等のコピーサービスを提供している。コインコピー機は,閲覧複写の対象となる書類の改ざん防止のため,法務局が直接管理監督する場所に設置されている。本件土地宝典は,各種申請書類,例えば,国土利用計画法に基づく土地取引届出(甲9) ,都市計画法32条に基づく同意申請(甲10),埋蔵文化財関連申請(甲11),公共用財産用途廃止申請(甲12),国有地払下げ申請(甲13)などにおける添付資料とされていること,公図及び不動産登記簿等の情報を一覧することができること,公図よりも広域であり一覧性に優れるため,特に郊外地や山林などの踏査にあたって重用されることから,不動産取引関係者及び金融業関係者を中心として,貸出及び複写の需要がある。


ウ 民事法務協会と被告の関係


 民事法務協会は,法務省所管の財団法人であって,その事業の一つとして,法務局において公図等を閲覧する人の利便等を図るため,同所にコインコピー機を設置し, その管理運営に当たっているものである 。すなわち,民事法務協会は,法務局の貸与する図面等の複写について独占的な事業を営んでいるものである。そのため,コインコピー機の利用料金は市中にあるコインコピー機よりやや高額に設定されている。なお,被告は,コインコピー機の設置に関し,国有財産法18条3項及び19条に基づいて,法務局の建物の一部の使用を許諾し,民事法務協会から,国有財産の使用料を徴収している。


(2) 上記認定事実によれば,本件土地宝典は,広範な地域の公図及び不動産登記簿等の情報を一覧することができるため,不動産関係業者等が郊外地や山林地などの物件調査をするにあたって重用されており,また,各種申請における添付資料とされていることなどから,遅くとも原告らが本件土地宝典の著作権を譲り受ける以前から,現在に至るまで,不動産関係業者等をはじめとする不特定多数の第三者が,上記のような業務上の利用目的をもって,各法務局に備え置かれた本件土地宝典の貸出を受けて,各法務局内に設置されたコインコピー機において複製行為をなしてきたことは容易に推認し得るところである(甲14) 。


 一方,このような公的申請の添付資料や物件調査資料としても使われるという本件土地宝典の性質上,貸出を受けた第三者がこれを謄写することは十分想定されるのみならず,閲覧複写書類の改ざん防止の見地から,コインコピー機は法務局が直接管理監督している場所に設置されているものであるから,各法務局は,本件土地宝典が貸し出された後に複写されているという事情については,十分に把握していたはずである。


 また,民事法務協会がコインコピー機を設置しているとはいえ,同協会は法務省所管の財団法人であって,被告が同協会に対し法務局内のコインコピー機設置場所の使用許可を与えており,かつ ,実際にコインコピー機設置場所の管理監督をしているのは ,上記のとおり,各法務局である。


 よって,被告(各法務局)は,本件土地宝典の貸出を受けた者がこれを複写しているという事情を十分に把握していたのであるから,この複製行為を禁止する措置をとるべき注意義務があったのに禁止措置をとらず,漫然と本件土地宝典の貸出行為及び不特定多数の一般人による複製行為を継続させたことにおいて,本件土地宝典の無断複製行為を惹起させ,継続せしめた責任があるといわざるを得ない。


 また,民事法務協会は,コインコピー機の直接の管理者であり,不特定多数の一般人をして本件土地宝典の無断複製行為をさせ,これにより利益を得ていたのであるから,本件土地宝典の複製行為については,その侵害主体であるとみるべきである。


 そして,被告(各法務局)が本件土地宝典の複製を禁止しなかった不作為についても,被告が民事法務協会に対しコインコピー機の設置許可を与え,同設置場所の使用料を取得し,同コピー機が法務局が貸し出す図面の複写にのみ使用されるものであること,法務局がコインコピー機の設置場所についても直接管理監督をしていることを考慮すると,各法務局がコインコピー機の使用に関し,民事法務協会と共に直接これを管理監督していたものと認められ,各法務局についても,不特定多数の一般人による本件土地宝典の複製行為について,単なる幇助的な立場にあるとみるよりは,民事法務協会と共に共同正犯的な立場にあるとみるのが相当である。


 以上によれば,民事法務協会と被告とは,本件土地宝典の不特定多数の一般人による上記複製行為について共同侵害主体であると認めるのが相当である。


 なお,被告は,本件土地宝典の複製行為により直接の利益を得ているわけではない。しかし,被告は,本件土地宝典の複製行為により利益を得ている民事法務協会からコインコピー機の設置使用料を取得しているものである。


 また,本件土地宝典の複製行為については,民事法務協会と被告とが共同侵害主体であると評価すべきことは前記のとおりであるから,共同侵害主体と評価し得る者のいずれかが複製行為により利益を得ているだけで足りると解すべきである。


 被告は,本件のように,被告の行為による権利侵害の蓋然性は高いとはいえず,被告には結果発生の予見可能性すらない上,現実に権利侵害が発生している立証すらない場合については,被告の行為を著作権侵害行為と評価できない,と主張する。


 しかし,本件土地宝典の貸出とコインコピー機の設置により,不特定多数の一般人による本件土地宝典の違法複製行為が発生する蓋然性が高く,実際に複製行為がなされていたこと,及び,被告がその結果を十分に予見し,かつ,認識し得たことは前記認定のとおりである。被告の上記主張は採用し得ない。


4 争点5(Cが法務局窓口で本件土地宝典を借り受けた者が謄写することを包括的に許諾していたといえるか)について


 被告は,Cが,生前,被告に対し,本件土地宝典の法務局窓口での貸出し及びこれを受けた不特定多数の第三者による複写について,黙示の包括的許諾を与えていた,と主張する。


 しかし,本件に顕れたすべての証拠を精査検討しても,Cが法務局窓口で本件土地宝典を借り受けた者が謄写することを包括的に許諾していたと認めるに足りる証拠はなく,被告の主張は採用することができない。


 被告主張のとおり,本件土地宝典の作成にあたり,法務局においてCに対して便宜を図ったことがあり,Cがこれに対する謝意を表するために本件土地宝典を法務局に寄贈していたとの事実があったとしても,法務局窓口で本件土地宝典を借り受けた者が無制限に謄写することを包括的に許諾すれば,本件土地宝典を購入しなくても法務局において謄写すれば足りることになり,本件土地宝典の購入者が減少するであろうことは容易に想像がつくことであるから,本件土地宝典の販売を生業としていたCがそのような包括的な許諾をしたとは考えがたいというべきである。このことは,本件土地宝典の奥付には,「非売品」との表示とともに,「不許複製」と明記されていること(乙2)とも整合する。 』

 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照してください。