●平成12(ワ)26971 不正競争 民事訴訟「エルメス・バーキン事件」

 本日は、『平成12(ワ)26971 不正競争 民事訴訟エルメスバーキン事件」平成13年08月31日 東京地方裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/FDAFFF591989C0BA49256AEA001DE53F.pdf)について取り上げます。



 本件は、被告が原告販売に係るバッグの形態を模倣したバッグを製造,販売したこと,及び被告が原告の商品開発方法や仕切値率などの原告の営業秘密を不正に使用したことを理由として,不正競争防止法に基づいて損害賠償を求め、その請求が棄却された事案です。


 なお、本件では、原告および被告とも、エルメス社とは何ら関係のない模倣品のメーカ同士の争いで、かかる原告が不正競争防止法上における形態模倣行為(法2条1項3号)の請求主体となり得るか判示しています。


 つまり、東京地裁(民事第29部  飯村敏明 裁判長裁判官)は、


1 争点1(形態模倣)について


 法2条1項3号は,他人の商品の形態を模倣した商品を譲渡,貸し渡し,輸入する行為等につき不正競争行為とする旨規定する。同規定が設けられた趣旨は,費用,労力を投下して,商品を開発して市場に置いた者が,費用,労力を回収するに必要な期間(最初に販売された日から3年),投下した費用の回収を容易にし,商品化への誘因を高めるためには,費用,労力を投下することなく商品の形態を模倣する行為を規制するのが相当であるとされたからである。したがって,法2条1項3号所定の不正競争行為について同法4条により損害賠償を請求することができる者は,自ら費用,労力を投下して,当該商品を開発して市場に置いた者に限られるというべきである。


 以上の観点から検討する。前提となる事実,証拠(甲1,2,乙2,4,5)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。すなわち,原告は,平成9年10月から,エルメス社の製造するバッグの形態に酷似したバッグ(原告製品)に,「エポニーヌ」の標章を付して販売した。原告製品は,別紙1のとおりであり,その形態が著名なエルメス社製のバーキンと呼ばれるバッグと全体の形状,細部の装飾などにおいて酷似している。原告が,原告製品をエルメス社の製品に似せて販売した理由は,原告によれば,エルメス社の製品が平均単価50万円程度であるのに対して,原告製品の平均単価は8万円程度であって,よく似た商品を廉価で供給することにより,エルメス社の製品にあこがれる消費者の需要に応えるためであるとしている。なお,我が国において,エルメス社がバーキンと呼ばれるバッグを販売したのが平成9年以前であることは明らかである。


 そうすると,原告製品の形態は,著名なエルメス社のバーキンの形態を模倣したものであり,原告は,自ら費用,労力を投下して,商品を開発して市場に置いた者ということはできない。そうすると,原告は法4条により損害賠償を請求することができる者に当たらない。したがって,その余の点を判断するまでもなく,被告が原告製品の形態を模倣したことを原因とする原告の請求は理由がない。


2 争点2(営業秘密の不正使用)について


  不正競争防止法における「営業秘密」とは,秘密として管理されている生産方法,販売方法その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であって,公然と知られていないものをいう(法2条4項)。


 まず,原告の主張に係る営業秘密のうち「エルメス社の製品に酷似した製品を,エルメス社の価格の何分の1かの低価格で供給することにより,エルメス社の製品にあこがれながら,高価格なために購入できない我が国の消費者層に狙いを絞り,商品展開を行うという開発方法」については,その性質上,公然と知られていない情報と言うことはできないこと,このような方法が秘密として管理されていた形跡は窺えないこと,有用な情報であると解せられないこと等の理由に照らすと,法2条4項所定の営業秘密には当たらない。


 次に,原告の主張に係る営業秘密のうち「仕切値率」については,各小売店は,それぞれ自己が原告製品を仕入れた価格を当然に知っているわけであるが,本件全証拠によるも,原告が原告商品の各小売店に対する卸値を秘密として管理していたと認めることはできない(原告が各小売店に対して口外しないように依頼したとしても,そのようなことにより直ちに秘密として管理されていると解することはできない。)。したがって,その余の点を判断するまでもなく,被告が営業秘密を使用したことを原因とする原告の請求は理由がない。


第4 結論

 よって,主文のとおり判断する。  』


 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照してください。



 追伸1;<新たに出された知財判決>


●『平成18(行ケ)10491 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「口金付高圧放電ランプ」平成19年10月17日 知的財産高等裁判所』(棄却判決)http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20071017162056.pdf
●『平成18(行ケ)10149 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「ブレーキ用部材」平成19年10月17日 知的財産高等裁判所』(棄却判決)http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20071017160435.pdf
●『平成18(行ケ)10182 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「マグロの保存処理方法」平成19年10月17日 知的財産高等裁判所』(棄却判決)http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20071017155626.pdf


追伸2;<気になった記事>

●『危険病原体ずさん管理 特許生物寄託センター 内規違反、受け入れ』http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/news/CK2007101702057053.html
●『危険病原体、ずさん管理・特許生物寄託センターhttp://www.nikkei.co.jp/news/shakai/20071017AT1G1700E17102007.html
●『病原体、内規違反し培養…経産省所管生物センター』http://www.yomiuri.co.jp/iryou/news/iryou_news/20071017-OYT8T00208.htm
●『ジェムスターがEPG関連特許侵害で東芝を提訴』http://www.watch.impress.co.jp/av/docs/20071017/gemstar.htm
●『「東芝EPGが特許侵害」とGemstar子会社が提訴』http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20071018-00000002-zdn_n-sci
●『船井電機、米国への輸出差し止め申請・液晶TV関連特許侵害』http://www.nikkei.co.jp/news/sangyo/20071016AT1D1606Z16102007.html