●平成22(ワ)15903 損害賠償請求事件 不正競争防止法

 本日は、『平成22(ワ)15903 損害賠償請求事件 不正競争防止法 平成23年06月17日 東京地方裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20110620120257.pdf)-について取り上げます。


 本件は、不正競争防止法に基づく損害賠償事件で、その請求が認容された事案です。

 本件では、争点1(不正競争防止法2条1項3号の不正競争行為の成否)についての判断が参考になるかと思います。


 つまり、東京地裁(民事第46部 裁判長裁判官 大鷹一郎、裁判官 大西勝滋、裁判官 石神有吾)は、


『1 争点1(不正競争防止法2条1項3号の不正競争行為の成否)について

(1) 原告商品と被告商品の形態の実質的同一性の有無

ア(ア) 原告商品及び被告商品は,いずれもポケットに入れて使用することを主目的としたデジタル歩数計であること,原告商品の形態は,別紙原告商品目録記載の写真のとおりであって,AないしFの形態の構成を有し,被告商品の形態は,別紙被告商品目録記載の写真のとおりであって,A’ないしF’の形態の構成を有することは,前記争いのない事実等のとおりである。


 原告商品(検甲1)の形態と被告商品(検甲2)の形態とを対比すると,両者は,「全体を四隅が丸い薄厚長方板状ケースにしたデザインである」点(A,A’),「ケースの周全体にR(丸み)を持たせている」点(B,B’),「外装の上側(上ケース)は,製品内側面を黒色印刷した透明のプラスチック素材を用い,外装の下側(下ケース)は,黒色のプラスチック素材を用いている」点(C,C’),「厚みとなる四周側面全周をシルバーのベルトが回り,四隅の一つにストラップ挿入孔が形成されている」点(D,D’),「正面左方に液晶表示部が設けられ,該液晶表示部は3画面に分割表示している」点(E,E’),「正面右方には,中央大きめのシルバーのボタンと,同中央ボタンから三方に放射状に並べた三つの楕円形のシルバーのボタンが配され,該三つの楕円形ボタンの周囲には,隅丸矩形の稜線が表れる凹陥部が設けられている」点(F,F’)といった基本的な構成において共通し,全体サイズ(幅×高さ×厚さ)及び液晶表示部のサイズ(幅×高さ)も,被告商品が「0〜2?の範囲内」で大きいだけで(A,A’,E,E’),ほとんど同一であることによれば,被告商品と原告商品は,商品全体の形態が酷似し,その形態が実質的に同一であるものと認められる。


(イ) もっとも,原告製品と被告製品は,操作ボタンの形状及び配置構成(F,F’)に関し,?三つの楕円形ボタンが,原告製品は,中央ボタンの右斜め上,右斜め下及び「左斜め下」に配置されているのに対し,被告製品は,中央ボタンの右斜め上,右斜め下及び「左斜め上」に配置されている点,?中央ボタンの形状が,原告製品は隅丸四辺形であるが,被告商品は円形である点,?楕円形ボタンの形状が,原告製品は長楕円であるが,被告商品は端部が尖った楕円である点,?中央ボタンの表面文字が,原告製品は,「設定」の漢字2文字であるのに対し,被告製品は,「MODE」の英字4文字である点で相違する。


 しかし,?の点は,三つの楕円形ボタンのうち,二つの配置は共通し,一つの配置が「左斜め下」か,「左斜め上」かの相違であり,三つの楕円形ボタンを中央ボタンから三方に放射状に配置するという基本的な構成が共通し,楕円形ボタン自体の形状もほとんど変わらないことに照らすならば,商品の全体的形態に与える変化に乏しく,商品全体からみるとささいな相違にとどまるものと認められるから,原告商品及び被告商品の形態の実質的同一性の判断に影響を及ぼすものではない。


 また,?ないし?の点も,商品全体からみるといずれもささいな相違であって,両商品の形態の実質的同一性の判断に影響を及ぼすものではない。


イ なお,被告は,原告商品のAないしDの形態は,原告商品以外の歩数計においても多数使用されている,どこにでもある公知の形態であるから(甲3,4,9等),原告商品の形態は,不正競争防止法2条1項3号により保護される商品の形態とはいえない旨主張する。


 しかし,被告が指摘する甲3,4,9を含む本件証拠によっても,原告商品のAないしDの形態が歩数計において多数使用されている公知の形態であることを認めるに足りない。


 また,不正競争防止法2条1項3号は,商品の形態についての先行者の開発利益を模倣者から保護することを目的とする規定であり,同号により保護される商品の形態は,商品の一部分の形態ではなく,商品全体の形態であるというべきであるから,仮に原告商品の形態の一部分が公知であるとしても,そのことによって原告商品の形態が同号の保護の対象とならないということはできない。


 したがって,被告の上記主張は,理由がない。

(2) 模倣の有無等

ア 前記争いのない事実等と証拠(甲5の16の3,5の18の1,6)及び弁論の全趣旨によれば,?原告は,平成20年3月6日から,デジタル歩数計「peb(ペブ)TW600」として原告商品の販売を開始したこと,?「peb(ペブ)TW600」(外装の色6種類,原告商品はそのうちの色がブラックのもの。以下同じ。)は,価格比較ウェブサイトの「価格.com」の健康器具・医療機器部門プロダクトアワード2008で金賞を受賞していること,?平成21年11月27日発行の日経流通新聞日経MJ)において,調査会社GfKジャパンが全国の家電量販店4500店の同年10月の店頭販売データを基にした集計結果によれば,「peb(ペブ)TW600」が,「高機能歩数計」の売れ筋ベスト10の第1位にランクされた旨の記事が掲載されたこと,?平成21年9月26日発行の朝日新聞朝刊において,歩数計の「売れ筋」として,他社の5商品と共に,「peb(ペブ)TW600」が写真付きで紹介されていることが認められる。


 これらの事実によれば,原告商品(「peb(ペブ)TW600」)は,平成20年3月6日の販売開始から平成21年10月までの間に,デジタル歩数計分野のヒット商品となっており,平成21年10月当時には,取扱業者,歩数計に関心のある消費者等の需要者の間において広く知られていたものと認められる。


 上記認定事実に加えて,被告は,平成21年12月18日,中国から,被告製品を輸入し,平成22年1月から被告商品の販売を開始したが(乙1の1,1の2,弁論の全趣旨),被告の上記輸入時には,原告商品の販売開始日(平成20年3月6日)から既に1年9か月が経過していること,被告商品の形態が原告商品の形態と実質的に同一であること(前記(1)ア)を総合すれば,被告商品が原告商品の形態に依拠して作り出されたものと認められ,これに反する証拠はない。


 以上によれば,被告商品は原告商品に依拠して作り出された実質的に同一の形態の商品であると認められるから,被告商品は,原告商品の形態を模倣した商品に該当するというべきである。


 そうすると,被告が被告製品を輸入,販売する行為は,不正競争防止法2条1項3号の不正競争行為に該当するものと認められる。


イ これに対し被告は,被告商品が原告商品の形態を模倣した商品に該当するとしても,被告は,平成21年12月18日,被告商品を台湾の取引業者を通じて,中国の製造元から輸入したものであり,その輸入当時,被告商品が原告商品の形態を模倣したものであることを知らず,かつ,知らないことにつき重大な過失がなかったから,被告による被告商品の輸入,販売については,不正競争防止法19条1項5号ロにより,同法2条1項3号の規定が適用されず,同号の不正競争行為に該当しない旨主張する。


 しかしながら,前記ア認定のとおり,原告商品(「peb(ペブ)TW600」)は,被告が被告商品を輸入する前の平成21年10月当時には,デジタル歩数計分野のヒット商品として,取扱業者,歩数計に関心のある消費者等の需要者の間において広く知られていたものであることに照らすならば,被告が被告商品を輸入した時点において,仮に被告が被告商品が原告商品の形態を模倣したものであることを知らなかったとしても,知らないことにつき重大な過失がなかったものと認めることはできない。


 したがって,被告の上記主張は採用することができない。


(3) まとめ

 以上によれば,被告による被告商品の輸入,販売は,不正競争防止法2条1項3号の不正競争行為に該当し,被告には少なくとも過失があるものと認められるから,被告は,不正競争防止法4条により,上記不正競争行為によって原告に生じた損害を賠償する責任がある。』

 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照して下さい。