●平成13(ワ)26431 不正競争 民事訴訟「猫砂事件」

 本日は、『平成13(ワ)26431 不正競争 民事訴訟「猫砂事件」平成16年02月24日 東京地方裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/13C92DAECDA436B549256E9E002C4F25.pdf)について取り上げます。


  本件は、原告商品と同じ形態の猫砂である被告商品を製造・販売する被告の行為を「他人の商品の形態を模倣した商品を譲渡」する行為に該当すると主張して不正競争防止法2条1項3号,3条に基づき,被告商品の製造・販売の差止等を求めるとともに,同法4条,5条に基づき,損害賠償金の支払を求めた事案です。

 
  本件でも、不正競争防止法2条1項3号の形態模倣行為に基づく請求の主体となり得る者は,形態模倣の対象とされた商品を自ら開発・商品化して市場に置いた者に限られると判示されています。


 つまり、東京地裁(民事第46部 三村量一 裁判長裁判官)は、

『 1 争点1(不正競争行為の成否)について

   不正競争防止法2条1項3号がいわゆる形態模倣行為を不正競争行為として規定した趣旨は,他に選択肢があるにもかかわらず,他人が資金や労力を投下して開発・商品化した商品の形態をことさらに模倣し,これを自らの商品として市場に置くことは,先行者の開発成果にいわばただ乗りする行為であって,競争上不公正と評価されるべきものであるばかりか,このような行為を許容すると,新商品の開発に対する社会的意欲を減殺しかねないことから,上記行為を規制することによって,先行者の開発利益を模倣者から保護することにあると解される。このような立法趣旨に照らせば,同号に基づく請求の主体となり得る者は,形態模倣の対象とされた商品を自ら開発・商品化して市場に置いた者に限られるというべきである。


   ところで,原告らは,原告商品の形態を構成する諸点として,(i) 1ピースあたりのサイズは,全長平均約4〜10ミリメートル,幅平均約3〜4ミリメートル,重量平均約0.8グラム程度であること,(ii) 色調は,原料である乾燥おからの色である薄黄色であること,(iii) 中心部分が空洞の円筒(パイプ)状の形態をしていること,(iv) 上記空洞部分のサイズも直径約1.3ミリメートル程度であること,(v) 表面全体に発泡による細かな気泡を無数に含む多孔質体であること,を挙げた上で,上記のうち円筒状(上記(iii),(iv))及び多孔質体(同(v))の点を特に強調し,被告商品の形態が原告商品のそれを模倣したものであることは明らかであるとして,不正競争防止法2条1項3号の不正競争行為の成立を主張している。



   原告らの主張する上記(i)〜(v)の諸点については,これらの特徴を組み合わせた形態が同法2条1項3号にいう「形態」に該当し得るものといえるが,これらを組み合わせた形態につき,原告らが最も強調する円筒状の形状(上記(iii),(iv))に着目してみると,前記第2,3(2)記載のとおり,訴外スーパーキャットは,平成10年5月18日ころには,訴外エコシードから,抗菌剤であるアモルデンを含有しない円柱状猫砂のサンプル及び当時エコシードが開発中であった円筒状猫砂のサンプルの提供を受けた事実が認められる。原告ら申請に係る証人Bは,このころ,訴外エコラルで猫砂の商品としての完成度を高めることに取り組んでいたところ,円柱状猫砂だけでなく,当時開発中であった円筒状猫砂のサンプルをも訴外スーパーキャットに発送することを直接見聞した旨明確に証言しており(同人の証人尋問調書30〜31頁),上記円筒状猫砂のサンプルは,訴外エコシードから製造委託を受けた訴外エコラルにおいて,すなわち,原告ビップのあずかり知らないところで開発され,サンプル提供できる程度に商品化されたもので,商品の形態としてはこの時点で既に完成していたものと認められる。


  そうすると,円筒状の形態を有する猫砂を開発し,市場で流通可能な状態にまで商品化した主体は,原告ビップではなく(原告ビップビジネスは,当時設立されていない。),訴外エコシード及び訴外エコラルと認められる。原告らは,訴外エコシードが事実上倒産した後,同社の代表取締役であった被告Aの技術指導の下で,円筒状猫砂である原告商品を開発したものである。上記の経緯に照らせば,原告らが訴外エコシードから猫砂販売事業につき営業譲渡を受けてその業務を承継したといった事情もなく,単に同社の技術成果を事実上保持していた被告Aから指導を受けたというにとどまる本件においては,原告らをもって円筒状の猫砂の形態を自ら開発した者ということはできない。


   そうすると,原告らはいずれも,本件において形態模倣の対象とされる商品である円筒状猫砂を自ら開発・商品化して市場に置いた者ということはできず,不正競争防止法2条1項3号の請求をなし得る者ということができない。したがって,その余の点について判断するまでもなく,本訴における原告らの請求中,差止請求(第1,1,2)は理由がなく,また,損害賠償請求(第1,3)のうち同号を理由とする請求も理由がない。


   この点につき,原告らは,平成10年3月ころから同年6月ころにかけて原告ビップが被告A及び訴外エコシードに提供した資金の大半が,訴外Bが訴外エコラルで手掛けていた円筒状猫砂の開発資金に使われたことは明らかであるとして,このことを理由に,原告ビップは,実質的に訴外Bとともに原告商品の商品化につき自ら開発を行った者といえるから,上記形態につき不正競争防止法2条1項3号の請求の主体となり得ると主張する。


   しかしながら,被告サンメイトが指摘するとおり,開発資金の提供は,不正競争防止法2条1項3号の請求をなし得る主体と直接の関係はない(また,原告ビップの提供した資金が円筒状猫砂の開発資金に使われたことを,認めるに足りる証拠もない。)。平成10年3月ころから同年6月にかけての時点においては,原告ビップビジネスはいまだ設立されておらず,また原告らも自認するとおり,原告ビップも猫砂の製造販売に関する知識・経験を何ら有しておらず,被告Aからの提案を受け,自らが猫砂を製造販売しようと準備を進めていたにすぎないのであって,円筒状猫砂の形態の発案には一切関わっていない。したがって,原告らを上記請求の主体となり得る者と認めることはできない。原告らの上記主張は,採用できない。  』


 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照してください。


追伸1;<新たに出された知財判決>

●『平成18(ネ)2431 損害賠償請求控訴事件 不正競争 民事訴訟「ごま豆腐」平成19年10月18日 大阪高等裁判所』(認容判決)http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20071018151322.pdf



追伸2;<気になった記事>

●『米特許商標庁、アマゾンの「1-Click」購入システム特許を拒絶』http://www.yomiuri.co.jp/net/cnet/20071018nt0a.htm
●『台湾、韓国社によるソウル半導体白色LED特許の無効審判請求が棄却(ソウル半導体)』http://www.ipnext.jp/news/index.php?id=2052
●『米ジェムスター、東芝を電子番組表関連の特許侵害で提訴(ジェムスター)』http://www.ipnext.jp/news/index.php?id=2047
●『「東芝EPGが特許侵害」とGemstar子会社が提訴』http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20071018-00000002-zdn_n-sci