●平成15(ワ)8501 不正競争 差止等請求事件「ヌーブラ事件」

  本日は、『平成15(ワ)8501 不正競争 差止等請求事件 民事訴訟ヌーブラ事件」平成16年09月13日 大阪地方裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/4F9760799C6066F74925701F002DFAD6.pdf)について取り上げます。


 本件は、不正競争防止法2条1項3号の形態模倣行為に対する差止等請求事件であり、原告の請求が認容された事案です。


 本件では、原告商品を日本国内に輸入し販売する独占的販売権者に対し不正競争防止法2条1項3号による保護主体の地位を認めることを判示した点で、参考になる事案です。


 つまり、大阪地裁(第26民事部 山田知司 裁判長裁判官)は、


『2 請求原因(2)(独占的販売権)について検討する。


 甲第1、第2号証によれば、原告が、平成15年1月30日、ブラジェル社との間で、原告に原告商品の日本国内における独占的販売権を与える旨の契約を締結したこと、原告が同年2月1日から、日本における原告商品の輸入及び販売を開始したことが認められる。


3(1) 上記2認定のとおり、原告は、原告商品の日本国内における独占的販売権を与えられた独占的販売権者であるところ、独占的販売権者が、不正競争防止法2条1項3号(以下、単に「3号」ということがある。)による保護の主体となり得るかについて検討する。



 まず、3号の趣旨をみると、他人が市場において商品化するために資金、労力を投下した成果の模倣が行われるならば、模倣者は商品化のためのコストやリスクを大幅に軽減することができる一方で、先行者の市場先行のメリットは著しく減少し、模倣者と先行者の間に競争上著しい不公正が生じ、個性的な商品開発、市場開拓への意欲が阻害され、このような状況を放置すると、公正な競業秩序を崩壊させることになりかねない。


 そこで、3号は、他人が商品化のために資金、労力を投下した成果を、他に選択肢があるにもかかわらず殊更完全に模倣して何らの改変を加えることなく自らの商品として市場に提供し、その他人と競争する行為をもって、不正競争としたものである。


 このような3号の趣旨を前提として、3号による保護の主体の範囲を考えると、自ら資金、労力を投下して商品化した先行者は保護の主体となり得るが、そのような者のみならず、先行者から独占的な販売権を与えられている者(独占的販売権者)のように、自己の利益を守るために、模倣による不正競争を阻止して先行者の商品形態の独占を維持することが必要であり、商品形態の独占について強い利害関係を有する者も、3号による保護の主体となり得ると解するのが相当である。


 このような解釈は、公正な競争秩序の維持を目的とする前記の3号の趣旨にもかなうものである。他方、先行者が商品化した形態の商品を単に販売する者のように、商品の販売数が増加することについて利害関係を有するとしても、先行者の商品形態の独占について必ずしも強い利害関係を有するとはいえない者は、保護の主体となり得ないと解すべきである。


 不正競争防止法は、2条1項において「不正競争」を定義し、同項3号では、他人の商品の形態を模倣した商品を譲渡等する行為を不正競争とし、差止請求の主体について、3条1項において、「不正競争によって営業上の利益を侵害され、又は侵害されるおそれがある者」としており、損害賠償請求の主体については、4条において、不正競争により「営業上の利益を侵害」された者を損害賠償請求の主体として予定しているものと解され、例えば特許法100条1項が差止請求の主体を「特許権者又は専用実施権者」としているのとは異なった規定の仕方をしている。独占的販売権者は、3号所定の不正競争によって営業上の利益を侵害され、又は侵害されるおそれがある者に該当するから、独占的販売権者を3号の保護主体と解し、その差止請求及び損害賠償請求を認めることは、不正競争防止法上の文言にも合致するというべきである。


 3号は、その主要な要件が、「形態の模倣」という比較的簡易な要件であり、安易に適用を拡大すると、かえって自由な市場活動が妨げられるおそれがあるとも考えられる。


 しかし、商品化を行った先行者のほかに、独占的販売権者のように商品形態の独占について強い利害関係を有する者に限定した範囲で3号の保護の主体を考えるならば、そのような弊害を生ずることはないというべきである。また、独占的販売権者も3号の保護主体となると解したとしても、独占的販売権者が訴訟上3号に基づく権利を行使するためには、先行者が商品化したこと、及びそのような先行者から独占的販売権を与えられたことを主張立証しなければならず、先行者が訴訟上3号に基づく権利を行使する場合に比べて、商品化の点について主張立証責任が軽減されるわけではないから、この点からも、3号の適用範囲が安易に拡大されることはないといえる。


 さらに、実際上、独占的販売権者が商品の製造販売を専ら担当しており、商品化した先行者が3号に基づく権利行使をする状況にない場合も考え得るところであるから、上記の解釈は、そのような場合においても、模倣を阻止し、公正な競争秩序の維持を図るという点からしても、妥当なものということができる。


 他方、独占的販売権者は、独占権を得るために、商品化した先行者に相応の対価を支払っているのが常であり、先行者は商品化のための資金、労力を、商品の独占の対価の形で回収していることになるから、独占的販売権者を保護の主体として、これに独占を維持させることは、商品化するための資金、労力を投下した成果を保護するという点でも、3号の立法趣旨に適合するものである。


 以上によれば、独占的販売権者は、3号による保護の主体となり得るというべきである。


(2) 前記2認定のとおり、原告は、原告商品の日本国内における独占的販売権者であるから、不正競争防止法2条1項3号による保護の主体となるものと認められる。  』


  と判示されました。


  詳細は、本判決文を参照してください。


  追伸1;<新たに出された知財判決>

●『平成18(ネ)2387 不正競争行為差止等請求控訴事件 商標権「正露丸民事訴訟平成19年10月11日 大阪高等裁判所』(棄却判決)http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20071012164641.pdf
●『平成19(行ケ)10041 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟半導体バイス分離構造」平成19年10月11日 知的財産高等裁判所』(棄却判決)http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20071015104627.pdf
●『平成18(行ケ)10232 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「低融点光学ガラス」平成19年10月10日 知的財産高等裁判所』(棄却判決)http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20071015150622.pdf


  追伸2;<気になった記事>

●『経営者のための知的財産入門 (1) 知的財産に関する誤解その1 - 「何か起こったときに対処すればいい」』http://journal.mycom.co.jp/series/chizai/001/
●『日立とルネサス、米社との特許訴訟で8600万ドルの損害賠償金を逃れる』http://www.ipnext.jp/news/index.php?id=2032
●『日亜化学白色LEDの特許侵害でソウル半導体を韓国でも提訴(日亜化学工業)』http://www.ipnext.jp/news/index.php?id=2029
●『「Linuxサーバの売り上げ好調」:M・デル氏、MS特許クレームの影響否定』http://japan.cnet.com/news/ent/story/0,2000056022,20358700,00.htm
●『レッドハットとノベル、Linuxを標的にした特許侵害訴訟に直面 』http://www.computerworld.jp/news/trd/82549.html
●『レッドハットとノベル、Linuxを標的にした特許侵害訴訟に直面 』http://japan.cnet.com/news/biz/story/0,2000056020,20358738,00.htm
●『特許査定に関連する書類の送付について』(特許庁)
http://www.jpo.go.jp/torikumi/t_torikumi/tokkyo_satei_souhu.htm