●平成10(ワ)13395 不正競争 民事訴訟「キャディバッグ事件」

 本日は、『平成10(ワ)13395 不正競争 民事訴訟「キャディバッグ事件」平成11年01月28日 東京地方裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/722CEC61F19759B849256A7700082D83.pdf)について取り上げます。


 本件は、被告の輸入、販売する別紙目録記載のキャディバッグが、原告が米国の会社から輸入して販売するとともに同社の許諾を得て第三者に製造させて販売するキャディバッグの形態を模倣した商品でその販売が、不正競争防止法二条一項三号所定の不正競争に当たるとして、被告商品の販売の差止め(同法三条一項)及び損害賠償(同法四条)を求めた事案で、その請求が棄却された事案です。


 本件では、被告によるキャディバッグの形態模倣商品の販売に対し、輸入販売業者である原告が不正競争防止法二条一項三号に基づく差止請求権及び損害賠償請求権の主体となり得るか否かが争点となり、次のように東京地裁は判示しました。

 つまり、東京地裁(第四六部 三村量一 裁判長裁判官)は、

『一 争点1について

1 不正競争防止法二条一項三号に基づく差止請求権・損害賠償請求権の主体について


(一) 不正競争防止法によれば、不正競争行為により、営業上の利益を侵害され又は侵害されるおそれがある者は、侵害の停止又は予防を請求することができ(同法三条一項)、営業上の利益を侵害された者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる(同法四条)ものであるが、不正競争防止法二条一項三号に規定する不正競争につき差止請求権及び損害賠償請求権を有する主体は、同号の規定によって保護された「営業上の利益」を有するものである。


(二) 不正競争防止法二条一項三号の趣旨につき考察するに、他人が資金・労力を投下して開発・商品化した商品の形態につき、他に選択肢があるにもかかわらずことさらこれを模倣して自らの商品として市場に置くことは、先行者の築いた開発成果にいわばただ乗りする行為であって、競争上不公正な行為と評価されるべきものであり、また、このような行為により模倣者が商品形態開発のための費用・労力を要することなく先行者と市場において競合することを許容するときは、新商品の開発に対する社会的意欲を減殺することとなる。このような観点から、模倣者の右のような行為を不正競争として規制することによって、先行者の開発利益を模倣者から保護することとしたのが、右規定の趣旨と解するのが相当である。


(三) 右によれば、不正競争防止法二条一項三号所定の不正競争行為につき差止めないし損害賠償を請求することができる者は、形態模倣の対象とされた商品を、自ら開発・商品化して市場に置いた者に限られるというべきである。


2 本件において、原告が不正競争防止法二条一項三号に基づく差止請求権・損害賠償請求権の主体となり得るかどうか。


(一) 前記第二、三1(一)(1)ないし(3)の原告の主張によれば、原告が形態模倣の対象とされた商品として主張するスーパーラップ型キャディバッグの形態は、平成七年ころに、米国のゴルフ用品メーカーであるキャロ社が考案したものであり、原告は、平成八年二月ころから、同社との契約による日本国内における独占的販売権に基づき、キャロ社の製造したスーパーラップ型キャディバッグを輸入するとともに、同社の許諾の下で韓国の製造業者にスーパーラップ型キャディバッグを製造させて、日本国内で販売してきたというのである。


右のような原告主張事実を前提にすると、スーパーラップ型キャディバッグは、キャロ社が米国において開発・商品化して市場に置いたものというべきであり、他方、原告はキャロ社が開発・商品化したスーパーラップ型キャディバッグを同社から輸入し、あるいは同社の許諾の下で第三者に製造させて、これを日本国内において販売しているというのであるから、単に輸入業者として流通に関与し、あるいはライセンシーとして同種製品の製造の許諾を受けたものにすぎず、原告自身がスーパーラップ型キャディバッグの形態を開発・商品化したということができないことは、明らかである。


 したがって、原告は、その主張する事実を前提としても、スーパーラップ型キャディバッグの形態の模倣行為に対して、不正競争防止法二条一項三号に基づく差止請求権ないし損害賠償請求権の主体とはなり得るものではない。


(二) 原告の主張するところは、原告は、スーパーラップ型キャディバッグを初めて日本に紹介し、以後日本においてこれを独占的に販売し、これまでに多額の宣伝広告費と多大な労力をかけて販路を開拓・拡大してきたものであって、スーパーラップ型キャディバッグを日本の市場において商品化するために多くの資金と労力をかけて、リスクを負担してきたということができるから、このような原告の営業上の利益は不正競争防止法二条一項三号によって保護される、というものである。


 しかしながら、ここで原告が主張する資金と労力の投下及びリスクの負担は、スーパーラップ型キャディバッグの形態を開発・商品化することに関してではなく、キャロ社によって開発・商品化されたスーパーラップ型キャディバッグを自らが日本国内で販売するに当たっての販路の開拓・拡大に関してされたものというべきである。


前記1で述べたとおり、不正競争防止法二条一項三号は、商品形態の開発・商品化に関わる営業上の利益を保護する趣旨の規定であるところ、右によれば、原告が右のような利益を有するということはできないから、原告の主張は採用できない。


(三) また、原告は、前記第二、三1(一)(5)記載のとおり、旧法一条一項一号又は二号に関する裁判例の理論を現行の不正競争防止法二条一項三号の場合に類推すべきである旨を主張するが、旧法一条一項一号及び二号は現行の不正競争防止法二条一項一号に対応する規定であり、商品の出所又は営業の主体を示す表示として周知なものにつき出所や主体の混同を生じさせる行為を規制する趣旨のものであるから、右の不正競争行為に対する差止請求や損害賠償請求の主体については、当該商品表示又は営業表示が何人のものとして取引者・需要者の間で周知になっているかによって判断されるべきものであるのに対し、同法二条一項三号の趣旨は前記1(二)のとおりであり、差止請求や損害賠償請求の主体についても、前記1(三)のとおり右旧法一条一項一号及び二号の場合とは異なる観点から判断されるものであるから、原告の右主張も、また、失当というべきである。


二 結論


 以上によれば、原告の本訴請求は、その余の点につき判断するまでもなく、いずれも理由がないから、主文のとおり判決する。  』


 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照してください。