●昭和61(オ)30等 模造品製造差止等「アースベルト事件」最高裁判所

  本日は、一昨日に続いて『昭和61(オ)30等 模造品製造差止等 実用新案権 民事訴訟「アースベルト事件」昭和63年07月19日 最高裁判所第三小法廷』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/F9798F494B7E461049256A8500311EF5.pdf)について取り上げます。


  本件では、さらに出願公開後に第三者に対して実用新案登録出願に係る考案の内容を記載した書面を提示して警告するいわゆる補償金の請求(※現在はかかる請求は実用新案法では認められてなく、特許法65条でのみ認められています。)した後、補正によつて登録請求の範囲が補正された場合、再警告が必要か否かを判示しています。


 つまり、


『 二 その余の上告理由について


 所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、採用することができない。


 第二 昭和六一年(オ)第三一号事件

 上告代理人松井宣、同小川修、同沼波義郎、同半澤力の上告理由について


 上告人Aの第三次請求のうちの実用新案法一三条の三に基づく補償金支払請求は、上告人Aは、原告製品に係る考案(以下「本件考案」という。)について実用新案権(昭和五三年五月二三日実用新案登録出願、昭和五四年一二月一日出願公開、昭和五六年六月一九日出願公告)を有するところ、被上告人らは、昭和五四年三月末ころから本件考案の技術的範囲に属する被告製品を製造販売しており、同年一二月一日に出願公開があつた後も昭和五六年一月まで、出願公開がされた実用新案登録出願に係る考案であることを知つて、被告製品を製造販売したから、同条所定の補償金の支払を請求する、というものである。


 原追加判決は、本件考案の出願公開時の実用新案登録請求の範囲(以下「登録請求の範囲」という。)は、原追加判決添付の別紙(一)記載のとおりであるが、審査官から昭和五五年五月一四日付拒絶理由の通知を受けたため、上告人Aは、同年七月一七日付で登録請求の範囲を同別紙(二)記載のとおり補正した、との事実を確定したうえ、補償金請求権発生要件の関係においては、出願公開の後に補正がされたときは、右補正の時点で新たに出願がされたものと解するのを相当とするとし、本件においては、右昭和五五年七月一七日付の補正後に、上告人Aが被上告人らに対し同条所定の警告をし、あるいは被上告人らが同条にいう悪意の状態にあつたことを認めるに足りる証拠はないとして、上告人Aの同条に基づく補償金支払請求を棄却した。


 しかしながら、原審の右判断は、是認することができない。


 実用新案登録出願人が出願公開後に第三者に対して実用新案登録出願に係る考案の内容を記載した書面を提示して警告をするなどして、第三者が石出願公開がされた実用新案登録出願に係る考案の内容を知つた後に、補正によつて登録請求の範囲が補正された場合において、その補正が元の登録請求の範囲を拡張、変更するものであつて、第三者の実施している物品が、補正前の登録請求の範囲の記載によれば考案の技術的範囲に属しなかつたのに、補正後の登録請求の範囲の記載によれば考案の技術的範囲に属することとなつたときは、出願人が第三者に対して実用新案法一三条の三に基づく補償金支払請求をするためには、右補正後に改めて出願人が第三者に対して同条所定の警告をするなどして、第三者が補正後の登録請求の範囲の内容を知ることを要するが、その補正が、願書に最初に添附した明細書又は図面に記載した事項の範囲内において補正前の登録請求の範囲を減縮するものであつて、第三者の実施している物品が補正の前後を通じて考案の技術的範囲に属するときは、右補正の後に再度の警告等により第三者が補正後の登録請求の範囲の内容を知ることを要しないと解するのが相当である。


 第三者に対して突然の補償金請求という不意打ちを与えることを防止するために右警告ないし悪意を要件とした同条の立法趣旨に照らせば、前者の場合のみ、改めて警告ないし悪意を要求すれば足りるのであつて、後者の場合には改めて警告ないし悪意を要求しなくても、第三者に対して不意打ちを与えることにはならないからである。


 本件についてこれをみると、出願公開時における本件考案の登録請求の範囲は、原追加判決挙示の甲第四四号証(本件考案の公開実用新案公報)によると、原追加判決添付の別紙(一)のままではなく、出願公開前の昭和五四年六月二九日付補正により補正されており、これと昭和五五年七月一七日付補正後の登録請求の範囲とを対比すれば、実質的な相違点は、自動車に帯電した静電気をアースするために自動車後部のフレームに取付金具によつて吊り下げられる導電性ゴム製の帯体に反射板を取り付けた構成からなる自動車接地具に係る本件考案において、前者では、右帯体への反射板の取付方法に特段の限定がなかつたが、後者では、右反射板が「取付位置調節、相対移動可能に」取り付けられていることを要件として付加したものであることにあり、換言すれば、右昭和五五年七月一七日付補正は、願書に最初に添附した明細書又は図面(原追加判決挙示の甲第一号証の三)に記載した事項の範囲内において、反射板が「取付位置調節、相対移動可能」であるものも、そうでないものも含む考案から、「取付位置調節、相対移動可能」であるものに限定したものとして、登録請求の範囲の減縮に当たると解される。


 そうであれば、反射板が帯体に「取付位置調節、相対移動可能に」取り付けられている被告製品は、補正の前後を通じて本件考案の技術的範囲に属することになるから(被告製品が、登録された本件考案の技術的範囲に属することは、原判決の判示するところであつて、右判断は是認することができる。)、前記説示は照らし、出願人が同条所定の補償金の支払を請求するには、右補正の後に改めて被上告人らに対して警告をするなどして被上告人らにおいて補正後の登録請求の範囲の内容を知ることは要しないということになる。


 なお、右警告ないし悪意の要件については、実用新案登録出願は、一年六か月経過後に例外を除き自動的に出願公開がされるものであるところ(同法一三条の二)、本件記録によれば、被上告人らは、昭和五四年五月七日に本件訴状とともに甲第一号証の一ないし五(本件考案の実用新案登録願、出願審査請求書、明細書、委任状、出願番号通知)の写しの送達を受けることにより、本件考案が出願されたこと及びその内容、出願番号等を知り、その後も、本件考案に類似する考案の出願の有無・内容等を調査し(乙第一号証ないし第三号証、第四号証の一・二、第五号証の一ないし七、第六号証)、本件考案の審査の過程を見守つていたこと(乙第七号証の一ないし七)が窺われ、更には、第一審の昭和五五年二月二〇日の口頭弁論期日における上告人Aの本人尋問において、被上告人らの訴訟代理人の質問に対して、上告人Aが本件考案はこの間公開されたばかりである旨答えており、これらのことに照らせば、出願公開の直後に、あるいは遅くとも右口頭弁論期日において、本件考案が出願公開された事実を被上告人らが知つたとの疑いが濃厚である。


 したがつて、出願公開に基づく上告人Aの補償金支払請求を棄却した原追加判決は、その要件を定めた実用新案法一三条の三の解釈適用を誤つた違法があつて、この違法が判決の結論に影響を及ぼすことは明らかであり、ひいて審理不尽、理由不備の違法があるものといわなければならない。これと同旨に帰するものと解される上告人Aの論旨は、理由がある(なお、上告会社は、その主張によつても、本件考案について独占的実施許諾を受けて昭和五三年六月から原告製品の製造販売をしているというだけであつて、本件考案の出願人でないことが明らかであるから、他に特段の事情のない限り、同条所定の補償金支払請求を認める余地はない。)。


 第三 結論


 以上のとおりであるから、昭和六一年(オ)第三〇号事件につき、昭和五九年三月一六日言渡しの原判決中上告会社敗訴部分を破棄し、特に、上告会社の不正競争防止法に基づく差止め及び損害賠償の各請求につき、前記第一の一に説示した各時点において原告製品の形態自体及び原告商標が周知性を備えるに至つていたかどうか(原告製品の形態については、右判断の前提として右形態が商品表示としての性質を備えるに至つていたかどうかを含む。)等について、更に審理を尽くさせるため原審に差し戻し、上告人Aについてはその上告を棄却することとし、昭和六一年(オ)第三一号事件につき、昭和六〇年九月三〇日言渡しの原追加判決を破棄し、特に、上告人Aの関係で、明細書の登録請求の範囲の補正と実用新案法一三条の三所定の警告ないし悪意との関係について前記第二に説示した見解のもとに、本件考案の出願公開後における悪意の存否につき更に審理を尽くさせるため、原審に差し戻すこととする。 』


と判示されました。


 なお、本判決のこの内容は、特許法概説13版の第406頁の注 2)として掲載されています。


 詳細は、本判決文を参照してください。


 追伸1;<新たに出された知財判決>

●『平成19(行ケ)10037 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「生理用ナプキン」平成19年10月09日 知的財産高等裁判所』(棄却判決)http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20071010161939.pdf
●『平成19(行ケ)10211 審決取消当事者参加事件 特許権 行政訴訟「木製防護柵」平成19年10月02日 知的財産高等裁判所 』(棄却判決)http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20071005103227.pdf


 追伸2;<気になった記事>

●『模倣品取り締まりで作業部会=日中韓当局が来週初会合−財務省
http://www.jiji.com/jc/c?g=eco_30&k=2007101000780
●『日中韓3か国関税局長・長官会議知的財産作業部会の開催について』
http://www.mof.go.jp/jouhou/kanzei/ka191010.htm
●『Vonage、Sprint Nextelと特許訴訟で和解』
http://japan.cnet.com/news/biz/story/0,2000056020,20358270,00.htm?tag=nl