●平成11(ワ)29128 不正競争 民事訴訟「リズシャルメル事件」

 本日は、『平成11(ワ)29128 不正競争 民事訴訟「リズシャルメル事件」平成12年07月18日 東京地方裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/BE0F088A0B6944AF49256A77000EC379.pdf)について取り上げます。


 本件は、リズシャルメル社の製造に係る婦人用下着を従前原告が輸入して国内において販売していたところ、被告が原告に替わって同社の製品を輸入して国内で販売することとなり、右製品には原告の著名な商品等表示と同一の標章が付されていると主張して被告に対して不正競争防止法二条一項二号、三条一項又は不法行為による営業権侵害を理由として、被告による前記標章の付された婦人用下着の輸入・販売の差止めを求めたところ、その請求が棄却された事案です。


 本件では、まず、輸入総代理店であった原告に不正競争防止法上の請求の主体となり得るか否かを判示しています。


  つまり、東京地裁(民事第四六部 三村 量一 裁判長裁判官)は、

一 不正競争防止法に基づく差止請求について

 1 不正競争防止法二条一項二号は、「自己の商品等表示として他人の著名な商品等表示と同一若しくは類似のものを使用し、又はその商品等表示を使用した商品を譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、若しくは輸入する行為」を不正競争と規定しているが、同号の趣旨は、著名な商品等表示について、その顧客吸引力を利用するただ乗りを防止するとともに、その出所表示機能及び品質表示機能が稀釈化により害されることを防止するところにある。


 同号所定の不正競争行為に対して同法三条、四条に基づき差止め及び損害賠償を求め得る主体については、当該著名商品等表示に化体された信用・名声を自らの信用・名声とする者、すなわち当該著名商品等表示により取引者又は需要者から当該商品の製造者若しくは販売元又は当該営業の主宰者として認識される者と解するのが、相当である。けだし、著名商品等表示の冒用により、信用・名声の希釈化等により損害を受けるのは、右の者であるからである。


 著名表示が企業グループとしての表示である場合には、中核企業はもちろんのこと、当該企業グループに属する企業であれば、不正競争防止法上の請求の主体となり得るし、フランチャイズ契約により結束した企業グループにおいては、フランチャイズチェーンの主宰者たるフランチャイザー及びその傘下のフランチャイジーが、請求の主体となり得る。しかし、単に流通業者として当該著名商品等表示の付された商品の流通に関与しただけの者は、これに含まれないというべきである。


2 これを本件についてみるに、原告の主張するところは、原告は、輸入総代理店としてフランスの婦人用下着メーカーであるリズシャルメル社から婦人用下着を輸入してこれを我が国において販売してきたが、この間の原告の企業努力により、右下着に付された本件各標章は、原告の輸入販売するリズシャルメル社の商品を表す商品等表示として著名となっているというのである。


 そうすると、原告の主張自体によっても、本件各標章はフランスのリズシャルメル社に由来する商品であることを示す表示として取引者・需要者の間で認識されていたのであって、原告の商品であることを示す表示として知られていたものではないと解されるところ、証拠(甲一ないし四、七ないし三七、四一、乙四、五、検甲一、二)によれば、(1) リズシャルメル社は、フランスのリヨンに本社を置く、一九五〇年に創業されたファンデーションメーカーで、その製品は、ディテールに凝った手工芸的レースや縫製技術により定評があり、フランスにおいてパリ市内のデパートでは必ず大きなコーナーが設けられているほどの人気を博しているほか、世界三〇か国以上において広く親しまれていること、(2) リズシャルメル社の製品を採り上げた新聞雑誌の記事においても、右内容を記載するにとどまるものがほとんどであり、原告について言及した記事や原告自身により掲載された雑誌等の広告においても、原告は我が国における輸入代理店として紹介されているに過ぎないこと、(3) 原告が輸入販売した婦人用下着には、上段に本件標章一(「LISE CHARMEL」)、下段に「FRANCE」と記載された下げ札が付されており、原告については「輸入発売元?ルシアン」と表示されているに過ぎないこと、(4) 本件各標章は、いずれもリズシャルメル社の社名をフランス語により表示した標章であるが、殊に本件標章一は、リズシャルメル社の社名のロゴとして同社の使用するレターヘッド等にも用いられていること、の各事実が認められる。


 これらの事情を総合考慮すると、本件各標章は、リズシャルメル社の製造販売にかかる商品を示すものとして取引者及び需要者の間で認識されているものであって、原告の商品を示すものとして認識されているものではないと認めるのが、相当である。


 また、フランチャイズ契約により結束した企業グループ等においてはグループを構成する各企業が不正競争防止法上の請求の主体となり得るにしても、本件における原告は、単なる輸入代理店であって、リズシャルメル社との間で結束した企業グループを結成しているとまでは認められない。


 加えて、証拠(甲三九ないし四三、乙三ないし五)及び弁論の全趣旨によれば、(1) リズシャルメル社は、平成一一年一二月末をもって原告との取引を停止し、平成一二年からは被告を我が国における新たな輸入代理店としたこと、(2) これに伴って、被告はリズシャルメル社から本件各標章の付された婦人用下着を輸入して販売していること、の各事実が認められる。原告はリズシャルメル社による輸入代理店契約の解除の効力を争うが、右解除の効力のいかんにかかわらず、リズシャルメル社から輸入代理店としての地位を否定されている原告が、リズシャルメル社の真正商品に付された本件各標章の使用について、不正競争防止法上の請求の主体となり得ないことは、明らかというべきである。


3 以上によれば、不正競争防止法二条一項二号、三条一項に基づき被告に対して婦人用下着の輸入販売等の差止めを求める請求は、理由がない。  』


 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照してください。


 追伸;<新たに出された知財判決>

 ●『平成18(行ケ)10509 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「中間鎖分岐界面活性剤」平成19年10月11日 知的財産高等裁判所』(棄却判決)http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20071012110548.pdf