●平成14(ワ)5107 特許権 民事訴訟「写真シール自動販売装置」

  本日は、『平成14(ワ)5107 特許権 民事訴訟「写真シール自動販売装置」平成15年12月25日 大阪地方裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/6D086FCF1797475649256E4B001E974E.pdf)について取上げます。


 本件も、均等論について判断され、均等侵害の第5要件の出願経過の参酌により、被告装置が意識的に除外されたと認定され、非侵害と判断された事案です。


 つまり、大阪地裁(第21民事部 小松一雄 裁判長)は、


『(8) 均等の成否について

ア 特許請求の範囲に記載された構成中に対象製品等と異なる部分が存する場合であっても、(1) 上記部分が特許発明の本質的部分ではなく、(2) 上記部分を対象製品等におけるものと置き換えても、特許発明の目的を達することができ、同一の作用効果を奏するものであって、(3) 上記のように置き換えることに、当該発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(当業者)が、対象製品等の製造等の時点において容易に想到することができたものであり、(4) 対象製品等が、特許発明の特許出願時における公知技術と同一又は当業者がこれから上記出願時に容易に推考できたものではなく、かつ、(5) 対象製品等が特許発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情もないときは、上記対象製品等は、特許請求の範囲に記載された構成と均等なものとして、特許発明の技術的範囲に属するものと解するのが相当である最高裁判所第三小法廷平成10年2月24日判決・民集52巻1号113頁参照)。


イ 前記(7)ア(キ)認定のとおり、構成要件L1は、カメラによる撮像時にストロボ照明手段と連続照明手段の両方によって被写体が照光されることを要するという意味であり、構成lは、カメラによる撮像時には、ストロボ照明手段によって被写体が照光されるが、連続照明手段によっては被写体は照光されていないという点で、構成要件L1と相違する。


 そこで、構成要件L1の、撮像時の照明手段として連続照明手段及びストロボ照明手段の両方を必要とするという構成を、構成lの、撮像時の照明手段として連続照明手段を欠くという構成に置換することにつき均等が成立するか検討する。


ウ 上記均等成立のための要件(5)(第5要件)について検討する。


 出願当初明細書の特許請求の範囲の請求項1は、「投入貨幣を処理する貨幣処理手段と、操作を入力する入力手段と、被写体を連続して照明する第1の照明手段と、プリント画像の撮像に同期して被写体を照明する第2の照明手段と、被写体を撮像するカメラと、画像や必要事項を表示する表示手段と、撮像した被写体の写真シールをプリントして放出するプリンタと、これら構成要素を制御する制御手段とを備え、貨幣の投入と入力操作に基づいて被写体を第1および第2の照明手段で照明しカメラで撮像して、表示手段で撮像画像を表示する共に、プリンタで写真シールをプリントして放出する写真シール自動販売機であって、前記第2の照明手段を、ボックス状の箱体内に収納したストロボ照明装置と、該装置のストロボ発光を撮像領域側に反射する反射板と、ストロボ発光を撮像領域側に拡散する拡散板とで撮像領域側を照明するストロボ照明ボックス体に形成した写真シール自動販売機。」であり(乙第1号証)、「被写体を連続して照明する第1の照明手段と、プリント画像の撮像に同期して被写体を照明する第2の照明手段とを備え、被写体を第1および第2の照明手段で照明しカメラで撮像」する旨記載されており、撮像時に連続照明手段とストロボ照明手段により照明されることが記載されている。


 しかし、平成13年3月6日付補正により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1は、「投入貨幣を処理する貨幣処理手段と、操作を入力する入力手段と、被写体を連続して照明する連続照明手段と、プリント画像の撮像に同期して被写体をストロボ発光して照明するストロボ照明手段と、被写体を撮像するカメラと、画像や必要事項を表示する表示手段と、撮像した被写体の写真シールをプリントして放出するプリンタと、これら構成要素を制御する制御手段とを備え、前記貨幣処理手段に対する貨幣の投入と入力手段による入力操作に基づいて、被写体を少なくともストロボ照明手段で照明しカメラで撮像して、表示手段で撮像画像を表示すると共に、プリンタで写真シールをプリントして放出する写真シール自動販売方法。」というもの、請求項3は、「投入貨幣を処理する貨幣処理手段と、操作を入力する入力手段と、被写体を連続して照明する第1の照明手段と、プリント画像の撮像に同期して被写体を照明する第2の照明手段と、被写体を撮像するカメラと、画像や必要事項を表示する表示手段と、撮像した被写体の写真シールをプリントして放出するプリンタと、これら構成要素を制御する制御手段とを備え、前記貨幣処理手段に対する貨幣の投入と入力手段による入力操作に基づいて被写体を少なくとも第2の照明手段で照明しカメラで撮像して、表示手段で撮像画像を表示すると共に、プリンタで写真シールをプリントして放出する写真シール自動販売機であって、前記第2の照明手段をストロボ発光するストロボ照明手段で形成し、前記カメラの撮像時に同期してストロボ照明手段を前記制御手段が制御する写真シール自動販売機。」というものであり(乙第2号証)、「被写体を連続して照明する連続照明手段(第1の照明手段)と、プリント画像の撮像に同期して被写体をストロボ発光して照明するストロボ照明手段(第2の照明手段)とを備え、被写体を少なくともストロボ照明手段(第2の照明手段)で照明しカメラで撮像」することが記載されており、撮像時に少なくともストロボ照明手段による照明があれば足り、連続照明手段による照明を欠くものも含まれる趣旨の記載とされた。


 その後、平成13年7月13日付補正によって明細書が再び補正され、特許請求の範囲の請求項1、請求項2の記載は、構成要件C1、D1、L1のようにされ(乙第3号証)、前記(7)ア(キ)認定のとおり、カメラによる撮像時にストロボ照明手段と連続照明手段の両方によって被写体が照光されることを要するという意味の記載とされた。
 

 このように、原告は、特許請求の範囲について、平成13年3月6日付補正により、いったんは、撮像時に連続照明手段を欠くものも含まれるような構成としたが、同年7月13日付補正により、再び、出願当初明細書と同様、撮像時に連続照明手段による照明を要するような構成とした。このような補正の経過に鑑みると、被告装置のように撮像時に連続照明手段を欠くものは、少なくとも平成13年7月13日付補正により、特許請求の範囲から意識的に除外されたものと認めるのが相当である。


 したがって、被告装置は、均等の第5要件を欠くから、その余の点につき判断するまでもなく、本件装置発明について均等は成立しないものというべきである。


(9) 原告は、請求原因(9)(改悪実施、迂回技術)アないしウにおいて、改悪実施又は迂回技術による特許権侵害を主張する。


 しかし、特許発明の技術的範囲は、願書に添付した明細書の特許請求の範囲の記載に基づいて定めなければならない(特許法70条1項)とされていることから、特許発明の技術的範囲に属するというためには、原則として、特許請求の範囲の構成要件を文言上充足することが必要であり、文言上充足しない場合には、例外として、均等の要件が充足された場合にのみ特許発明の技術的範囲に属するというべきであり、その他に、構成要件が文言上充足されないにもかかわらず、特許発明の技術的範囲に属するとされる場合は認められないものというべきである。原告が主張するようなものを認め得る余地があるとしても、せいぜい均等の一類型として上記の均等の要件を満たす場合に限られるものというべきところ、被告装置が本件装置発明と均等と認められないことは前示のとおりであるから、改悪実施又は迂回技術による特許権侵害の主張は、採用することができない。


(10) 後記2(1)(抗弁(1)(特許異議、無効審判等)イ(無効審判)の事実)のとおり、原告は、平成15年1月20日付訂正請求書(甲第20号証)によって訂正請求をし、特許庁審判官は、同年3月7日付で、訂正を認め、本件特許の特許請求の範囲の請求項1ないし4に係る発明についての特許を無効とする旨の本件無効審決(審決書は乙第14号証(別紙2))を行い、これに対し、原告は、審決取消訴訟を提起した。本件無効審決は未だ確定していないから、現時点において、本件特許権の特許出願の願書に添付された明細書、図面の内容は、本件公報記載のとおりであるが、本件無効審決によって認められた訂正を前提に、侵害の有無について検討する。


 本件無効審決により認められた訂正の内容は別紙2(審決書)の「理由」、「第2.訂正の適否についての判断」、「1.訂正の内容」欄記載のとおりであり、このような訂正を前提としても、構成要件L1は、カメラによる撮像時に、ストロボ照明手段と連続照明手段の両方によって被写体が照光されることを要する意味であると認められるから、前記(7)ア(キ)認定のとおり、構成lはこれを文言上充足しないものと認められる。そうであるから、訂正を前提としても、被告装置は、本件装置発明の構成要件を文言上充足せず、被告方法は、被告方法発明の構成要件を文言上充足しない。


 また、均等については、訂正を前提としても、前記(8)ウに記載されたのと同様の理由により、第5要件を欠くというべきであり、本件装置発明について均等は成立しない。


(11) 以上によれば、被告装置は、本件装置発明の技術的範囲に属さず、被告方法は、本件方法発明の技術的範囲に属さないものというべきである。 』


と判示されました。


 なお、原告は、改悪実施、迂回技術として、以下のような主張をしています。

「 (9) 改悪実施、迂回技術

ア 構成要件L1を、撮像時の照明手段として連続照明手段及びストロボ照明手段の両方を必要とする意味であると解し、構成lは、撮像時の照明手段として連続照明手段を欠くことから、構成要件L1を文言上充足しないとした場合でも、次のイ、ウ記載のとおり改悪実施又は迂回技術の理論の適用により、被告装置は本件装置発明の技術的範囲に属する。

イ 改悪実施

 被告装置は、(障ネ)本件装置発明と同一の技術的思想に基づきながら、本件装置発明の構成要件のうち比較的重要度の低いものを省略、置換しており、(障ノ)本件装置発明に基づいてこのような省略、置換をすることは当業者にとって容易であり、(障ハ)このような省略、置換により他に格別の効果をもたらさず、かえって本件装置発明よりも効果の劣ることが明白であり、したがって技術的完全を期す限りそのような省略をするはずがなく、結局、本件装置発明の特許請求の範囲を回避するためにあえて技術的に劣る手段を採ったと推認されてもやむを得ず、(障ミ)そのような改悪によってもなおかつ本件装置発明の目的とする特別の作用効果を奏し得ている。したがって、被告装置のように本件装置発明を改悪実施したものも、均等論の特別形式として、又は均等論類似の公平の観点から、本件装置発明の技術的範囲に属するものと評価すべきである。


ウ 迂回技術

 被告装置は、本件装置発明と技術思想、作用効果を同じくしながら、本件装置発明の侵害を回避するため、技術的な意味のない不必要な変更を加え、いたずらに迂回の技術を採っているのみであり、(障ネ)そのような迂回の技術がその出現の時点で当業者にとって本件装置発明から容易に想到することができ、(障ノ)そのような迂回の技術が本件装置発明の構成要件に無用の変更を加え、全体として技術的価値を低下させることが、当業者に明白である。したがって、被告装置のような本件装置発明の迂回技術は、均等論の特別形式として、又は均等論類似の公平の観点から、本件装置発明の技術的範囲に属するものと評価すべきである。 」


 詳細は、本判決文を参照して下さい。


  追伸1;<新たに出された知財判決>

●『平成18(ワ)15552 著作権侵害差止等請求事件 著作権 民事訴訟チャップリン短編集等のDVD」平成19年08月29日 東京地方裁判所 』(認容判決)
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070830144013.pdf


追伸2;<気になった記事>

●『新薬高く、特許切れは安く 業界提案、再編の可能性』
http://www.asahi.com/health/news/TKY200708290340.html
●『富士通、特許訴訟で台湾大手に勝訴=半導体技術めぐり東京地裁で』
http://www.jiji.com/jc/c?g=soc_30&k=2007083000874
●『Motorola社の子会社が、無線LAN技術に関する特許侵害でAruba社を提訴』http://www.ednjapan.com/content/l_news/2007/08/u3eqp300000169y3.html
●『カナダのJuxtaComm、MSやIBMなど大手を特許侵害で提訴』
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0708/30/news041.html
●『チャプリンの格安DVDダメ 著作権侵害で販売禁止 』
http://www.sankei.co.jp/shakai/jiken/070829/jkn070829027.htm
●『チャプリン名画DVD廉価版に販売差し止め命令…東京地裁http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20070829i416.htm
●『著作権訴訟:チャプリン映画の廉価版DVDに差し止め命令』http://www.mainichi-msn.co.jp/shakai/jiken/news/20070830k0000m040108000c.html