●平成19(行ケ)10278 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟

 本日は、『平成19(行ケ)10278 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成20年09月30日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20080930155130.pdf)について取り上げます。


 本件は、特許法38条(共同出願)違反を特許無効理由とする特許無効審決の取消しを求めた審決取消訴訟で、その請求が棄却された事案です。


 本件では、特許法38条(共同出願)の判断が参考になるかと思います。


 つまり、知財高裁(第3部 裁判長裁判官 飯村敏明、裁判官 中平健、裁判官 上田洋幸)は、


『当裁判所は,本件各発明については,本多エレクトロン及び東芝セラミックスの従業者であるA,B,C,D,E,Fのみが発明者ではなく,被告の従業者であるMも発明者であり,Mは,本件各発明について特許を受ける権利の持分を,本多エレクトロン又は東芝セラミックスのいずれにも譲渡したことはなく,したがって,本件特許について特許を受ける権利は,本多エレクトロン東芝セラミックス及びMの共有であるにもかかわらず,共有者が共同で特許出願をしたものではなく,本件特許は,特許法38条の規定に違反したものであるから,審決に誤りがあるとの原告の主張は理由がないと判断する。


 その理由の詳細は,以下のとおりである。


 発明とは,「自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のもの」をいい(特許法2条1項),「産業上利用することができる発明をした者は,・・・その発明について特許を受けることができる」と規定されている(同法29条1項柱書き)。そして,発明は,その技術内容が,当該の技術分野における通常の知識を有する者が反復実施して目的とする技術効果を挙げることができる程度にまで具体的・客観的なものとして構成されたときに,完成したと解すべきである(最高裁昭和52年10月13日第一小法廷判決民集31巻6号805頁参照)。


 したがって,発明者とは,自然法則を利用した高度な技術的思想の創作に関与した者,すなわち,当該技術的思想を当業者が実施できる程度にまで具体的・客観的なものとして構成するための創作に関与した者を指すというべきである。もとより,発明者となるためには,一人の者がすべての過程に関与することが必要なわけではなく,共同で関与することでも足りるというべきであるが,複数の者が共同発明者となるためには,課題を解決するための着想及びその具体化の過程において,発明の特徴的部分の完成に創作的に寄与したことを要する。


 そして,発明の特徴的部分とは,特許請求の範囲に記載された発明の構成のうち,従来技術には見られない部分,すなわち,当該発明特有の課題解決手段を基礎付ける部分を指すものと解すべきである。


 上記の観点から,「本件各発明の内容」及び「本件各発明に関与した者の関与の程度」を総合考慮して,被告の従業者であるMが本件各発明の共同発明者の一人に該当するか否かを考察する。


1 本件各発明の内容

 ・・・省略・・・

(23) 被告は,本多エレクトロンに対し,平成13年12月20日に本件ウエーハエッジ検査装置を納品した(乙21,弁論の全趣旨)。


 他方,本多エレクトロン及び東芝セラミックスは,本多エレクトロンのA,B,C及び東芝セラミックスのD,E,Fを発明者として,同人らから本件各発明についてそれぞれ特許を受ける権利を承継し,平成14年2月19日に上記6名を発明者として特許出願(特願2002−42398)をした。


3 判断

(1) 以上認定した事実によれば,本多エレクトロンは本件ウエーハエッジ検査装置の開発を行なったが,その過程で,被告に対して,平成12年9月末ころに上記装置の共同開発を,同年10月20日にはノッチ部の検査手法の検討を,それぞれ依頼したこと,これに対して,被告の担当者であるMは,本多エレクトロンに検討結果を報告し,同年12月11日に本件発明1が含まれる仕様書(甲11)をいったん作成,提供したが,その後も仕様変更を行なう等して実験を継続し,その結果仕様変更前の構成が相当であるとの認識を持ち,平成13年3月26日に本件各発明が記載された仕様書(甲26)を作成して,これを本多エレクトロンに宛てて提示したものであり,本件発明1は,この時点又はそれ以降に完成したというべきである。


 以上の経緯及び後記(2)における認定判断に照らすならば,本件発明1の発明者にMが含まれることは明らかである。そして,本件発明2ないし35は,いずれも本件発明1を含むものであるから,結局,本件各発明の発明者にMが含まれることも明らかである。


(2) この点について,原告は以下のとおり主張する。しかし,いずれも理由がない。


ア 原告は,本件各発明は平成12年5月ころまでに完成し,被告は本件各発明の完成後に関与したにすぎないと主張する。しかし,原告の主張は採用できない。


 すなわち,上記2で認定した事実によれば,そもそも,当初の仕様(甲7,30)には本件発明1の構成要素であるノッチ撮像部が含まれていないし,被告は本多エレクトロンから本件ウエーハエッジ検査装置の共同開発を持ちかけられた際に本件各発明の内容の開示を受けた事実もない。また,平成12年10月20日にはノッチ検査手法の検討を依頼した事実,完成した本件ウエーハエッジ共同装置の販売権に関しては,被告のみならず本多エレクトロンも,販売権が被告にあると認識していた事実,秘密保持の合意も平成13年11月1日になってはじめて行なわれている事実,及び,仮に,本件各発明の完成時期が,原告の主張に係る時期であるとすると,発明完成から約2年後の平成14年2月に,特許出願が行なわれたことになり不自然であること等の事実経緯に照らすならば,原告の上記主張は到底採用の限りでない。


 また,原告は,平成12年10月20日の打合せにおいて,本多エレクトロンは,被告に対しノッチ部の撮像も複数のエリアカメラで行なうよう要請したが,被告が,ラインセンサメーカーであるため,ラインセンサで行なうことを主張し譲らなかったので,本多エレクトロンが被告に対し,ノッチ検査の手法の検討を指示したとも主張する。しかし,前記認定のA作成の議事録及びP作成の打合せ記録(甲8)には,上記本多エレクトロンの要請や同社と被告との主張の対立やそれをうかがわせる記載はない。


 原告の上記主張は採用できない。


イ 原告は,A作成のノート(甲48,67)は,平成10年2月ころから平成12年5月ころまでの間に作成され,本件発明1の構成がすべて記載されていることを根拠に,平成12年5月ころに本件各発明が完成したと主張し,A作成の陳述書(甲76)にもこれに沿った記載がある。


 しかし,原告の主張は,以下のとおり失当である。


 確かに,甲48(甲67)の30頁,24頁,25頁及び50頁には本件発明1の構成要件b,c,gを含む図面の記載等があるが,これらの図面等がいつ作成されたかについては,甲48(甲67)からは明らかではない。仮に,上記図面等が被告が関与する以前に記載されたとしても,前記2で認定した事実に照らせば,上記図面等は本件各発明の着想にとどまり,Mら被告の技術者が実験等により検証し具体化したものということができるので,上記記載をもってMを含む被告の技術者が本件各発明の発明者でないこと裏付けるものとはいえない。そして,甲48(甲67)に基づく本件発明1の完成時期の主張が失当であることは前記(1)のとおりである。原告の主張は理由がない。


ウ 原告は,甲63の1ないし3,甲68において本件発明1の構成が記載されていると主張する。


 しかし,原告の上記主張も,以下のとおり失当である。


 すなわち,甲63の1ないし3記載の構成は,いずれも 縁部を撮像するエリアセンサカメラを1台しか備えておらず,周縁部を撮像する複数のラインセンサカメラ(エッジ用)と複数のエリアセンサカメラ(ノッチ用)を特徴的部分とする本件発明1とは異なる。


 また,本件発明1は,エッジとノッチで使用するカメラを使い分けることを特徴的部分とするのに対し,甲68記載の実験は,エッジとノッチの両方をエリアセンサで撮像する構成であり,本件発明1とは異なる。原告は,エッジの撮像はラインセンサで行なうことを前提として実験がなされていると主張するが,ラインセンサとエリアセンサとでは,必要とされる光学条件及びその後の画像処理が異なるので,失当である。


エ 原告は,上記確認依頼書に本件発明1の構成を採用することが示されていると主張する。しかし,甲69には,本件各発明の特徴的部分の1つであるノッチ撮像用カメラの具体的構成について何ら記載されていないし,エリアセンサカメラ3台を配置するとの記載はあっても,それを「厚さ方向の異なる部位」に撮像するように配置することまでは開示されていない。原告の上記主張は採用できない。


オ 原告は,本多エレクトロンが,本件各発明の完成を受けて,甲42(B作成の平成12年10月23日付け図面)が作成されたと主張する。


 しかし,甲42の右上図と左下図にそれぞれ記載されているカメラはほぼ同じ寸法,形状であり,装置への取り付け態様もほぼ同じであることが認められるところ,撮像方式の異なるラインセンサとエリアセンサとは通常,異なる寸法,形状からなり,取り付け態様も異なるものから構成されることからすれば,上記カメラのうち一方がラインセンサであり,他方がエリアセンサであると認めることはできない。原告の上記主張は採用できない。


カ 原告は,Mが作成した見積仕様書(甲11)は,A作成のノート(甲70)を反映したものにすぎないと主張する。しかし,甲70にはノッチ撮像部に関する構成(構成要件d,e,g)が開示されているのみで,本件発明1の特徴的部分である構成要件b,cが開示されていないし,両者はカメラの水平となす角度及び照明とカメラとの位置関係の点で異なっている。原告の主張は失当である。


 また,原告は,Aが平成12年12月6日から8日まで開催された「セミコン・ジャパン2000」(甲71)の会場内において,被告のS及びTに対し甲70を示して本件発明1の内容を開示したと主張し,A作成の陳述書(甲76)にもこれに沿う記載がある。しかし,陳述書の記載を裏付ける証拠はないのみならず,また,甲70には本件各発明の特徴的部分がすべて開示されているとはいえないことは前記のとおりである。原告の主張は採用できない。


? 結語

 以上のとおり,原告の主張する取消事由には理由がない。原告はその他縷々主張するが,審決を取り消すべきその他の誤りは認められない。


 よって,原告の請求は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。 』

 と判示されました。


  詳細は、本判決文を参照してください。

 
 なお、本判決文中で引用している最高裁判決は、『昭和49(行ツ)107 審決取消 特許権 行政訴訟 昭和52年10月13日 最高裁判所第一小法廷 判決 破棄差戻し 東京高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/5EAC05562AD2622749256A850031207F.pdf)であり、


特許法(以下「法」という。)二条一項は、「この法律で『発明』とは、自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のものをいう。」と定め、「発明」は技術的思想、すなわち技術に関する思想でなければならないとしているが、特許制度の趣旨に照らして考えれば、その技術内容は、当該の技術分野における通常の知識を有する者が反復実施して目的とする技術効果を挙げることができる程度にまで具体的・客観的なものとして構成されていなければならないものと解するのが相当であり、技術内容が右の程度にまで構成されていないものは、発明として未完成のものであつて、法二条一項にいう「発明」とはいえないものといわなければならない(当裁判所昭和三九年(行ツ)第九二号同四四年一月二八日第三小法廷判決・民集二三巻一号五四頁参照)。


ところで、法四九条一号は、特許出願にかかる発明(以下「出願の発明」という。)が法二九条の規定により特許をすることができないものであることを特許出願の拒絶理由とし、法二九条は、その一項柱書において、出願の発明が「産業上利用することができる発明」であることを特許要件の一つとしているが、そこにいう「発明」は法二条一項にいう「発明」の意義に理解すべきものであるから、出願の発明が発明として未完成のものである場合、法二九条一項柱書にいう「発明」にあたらないことを理由として特許出願について拒絶をすることは、もとより、法の当然に予定し、また、要請するところというべきである。


原判決が、発明の未完成を理由として特許出願について拒絶をすることは許されないとして、本件審決を取り消したのは、前記各法条の解釈適用を誤つたものであるといわなければならない。論旨は理由があり、右の違法は判決の結論に影響を及ぼすことが明らかであるから、その他の論旨について判断するまでもなく、原判決は破棄を免れない。そうして、本件は、本願発明が本件審決のいうとおり発明として未完成のものであるかどうかを審理判断させるため、原審に差し戻す必要がある。

 よつて、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇七条一項に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。』


 と判示されています。