●平成22(ワ)26341 特許権侵害差止等請求事件「油性液状クレンジン

 本日は、『平成22(ワ)26341 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟「油性液状クレンジング用組成物」平成24年5月23日 東京地方裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20120614140049.pdf)について取り上げます。


 本件は、特許権侵害差止等請求事件で、差止め請求は却下され、損害賠償が認容された事案です。


 本件では、まず、争点(6)(販売行為の差止め及び廃棄請求の可否)および争点(7)(損害額)についての判断が参考になるかと思います。


 つまり、東京地裁(民事第29部 裁判長裁判官 大須賀滋、裁判官 森川さつき、裁判官 菊池絵理)は、


『6争点(6)(販売行為の差止め及び廃棄請求の可否)

(1)被告製品1について

 被告は,平成23年12月31日付けで被告製品1の製造販売を終了した旨主張しているところ,被告から,同日付けで被告製品1の製造販売を終了した旨の被告代表者作成の報告書(乙54)が提出されていることに加え,前記前提事実(6)のとおり,被告が,平成24年1月1日付けで,被告製品1を仕様変更したものとして被告新製品の製造販売を開始していることを考慮すれば,被告が,今後,被告製品1を販売する可能性は極めて低いものということができる。


 この点に関し,原告は,被告新製品の製品名,容器,包装等が被告製品1と実質的に同一であり,被告製品1を復活させることが極めて容易であること,平成24年1月1日以降もインターネット上で被告製品1の販売が継続していることなどを挙げて,なお,本件特許権侵害のおそれがあると主張する。


 しかし,前記のとおり被告が被告製品1を仕様変更したものとして被告新製品の販売を開始しており,被告製品1に比較してその性能が向上した旨を宣伝していること(甲62)などを考慮すれば,被告が,被告製品1の販売を再開する可能性は低いものといわざるを得ない。また,原告が平成24年1月1日以降,被告製品1が販売されている事実として指摘する点は,いずれも,被告が直接販売するものではなく,市中における在庫品が販売されているにすぎないものとみられるものであるから,当該事実をもって,被告が被告製品1の製造販売を終了していないとみるのは相当ではない。したがって,この点に関する原告の主張は採用できないものというべきである。


(2)被告化粧品セットについて

 被告は,被告化粧品セットは季節限定製品であり,平成23年3月に販売を終了した旨主張しているところ,被告から,上記(1)でみたとおり,その主張に沿う内容の被告代表者作成の報告書(乙54)が提出されていること,被告化粧品セットが「数量限定」のキャンペーン商品である旨表示して販売されていること(甲6の1,7の1,8の1・2)その他弁論の全趣旨によれば,被告は,被告化粧品セットの販売を既に終了したものと認められる。


(3)以上によれば,現時点において,本件特許権侵害のおそれは認められず,原告の請求のうち,被告製品1及び被告化粧品セットの販売等の差止め及び廃棄を求める部分は理由がない。


7争点(7)(損害額)

(1) 以上のとおり,被告各製品は,本件各発明に係る本件特許権を侵害するものであるから,被告は,本件特許登録日である平成21年8月14日以降の被告製品1及び被告50mL製品をセット内容に含む製品である被告化粧品セットの販売行為に関し過失があったものと推定され(特許法103条),同日以降の侵害行為につき,原告が被った損害を賠償するべき義務を負う。


(2)特許法102条2項に基づく損害算定の可否

特許法102条2項は,損害額の推定規定であり,損害の発生を推定する規定ではないから,侵害行為による逸失利益が発生したことの立証がない限り,適用されないものと解されるところ,前記前提事実(5)のとおり,原告が本件各発明に係る本件特許権を実施していないことに争いがない以上,損害額推定の基礎を欠くものというべきであり,本件において,同条に基づき損害額を算定することはできない。


イこの点につき,原告は,諸般の事情により,侵害行為がなかったならばその分得られたであろう利益が権利者に認められるのであれば,特許法102条2項が適用されると解すべきであるところ,原告は,被告各製品の競合品である原告製品を製造販売している上,原告と被告の事業形態等が類似し,その売上げが拮抗していること等も考慮すれば,原告が,被告各製品の製造販売により,原告製品の取引機会を喪失したことは明らかであり,特許法102条2項が適用されるべきであると主張する。


 しかし,被告各製品は,いわゆるクレンジングオイルであり,肌に塗布した化粧品を落とす目的で用いられるものであるところ,クレンジングオイルに分類される化粧料のみをみても,市場には,多数の製品が存在することが認められる(乙8,9)。また,肌に塗布した化粧品を落とす目的で用いられる化粧料としては,いわゆるクレンジングオイルのほかに,クリーム,ジェル,ウォーター,リキッド,ローション等,種々の剤型のものが存在し,多数の製品が市場において販売されていることが認められる(乙7)。加えて,クレンジング市場におけるメーカー別販売実績に基づく原告のシェアは,平成21年において13.6%,平成22年において12.9%,平成23年において12.9%(見込み)であり,原告以外に,数%ないし十数%のシェアを占めるメーカーが,被告を含め10社以上存在することが認められる(甲44)。そうすると,被告各製品がなかった場合に,原告が原告製品を販売することができ,その分の利益を得ることができたであろうと認めるに足りる事情はないものといわざるを得ず,原告につき,本件特許権を実施しているのと同視することができる事情を認めることはできない。


 したがって,原告の上記主張を採用することはできず,本件において,特許法102条2項に基づき損害額を算定することはできないものである。


(3)特許法102条3項に基づく損害算定

ア売上高

 証拠(乙21の1ないし6)によれば,平成21年8月14日から平成23年9月30日までの被告製品及び被告化粧品セットの売上高は以下のとおりであると認められる(なお,原告が損害賠償請求額の算定に当たり,平成23年9月30日までの売上高を基礎としている〔平成23年10月3日付け訴え変更申立書〕ことにかんがみ,原告は平成23年9月30日までの侵害行為に係る損害の賠償を請求するものであると解される。また,被告は,被告各製品の売上高を算定するに当たり,消費税を含めるべきではない旨主張するが,国内売上分については,消費税を収受して販売するものである以上,消費税相当額についても売上高に含めて算定するのが相当である。)


 …省略…


イそこで,上記アでみた売上高を基礎として,「その特許発明の実施に対し受けるべき金額に相当する額」(特許法102条3項)を算定するべきこととなるところ,原告管理本部副本部長作成に係る報告書(甲45)によれば,被告150mL製品の利益率は,低く見積もっても40%を下回ることはあり得ないとされている上,被告の営業利益率は●省略●%であるとされており(乙52),被告各製品の利益率は,相当に高いものとみることができる。なお,上記報告書(甲45)は,被告150mL製品に配合されている各成分の原価,材料費,加工賃等の推定額に基づき,値引きの事実等も考慮して算出されたものであり,原告が被告と同種の化粧品事業を営むものであること,被告が上記報告書に具体的反論をしていないこと等も考慮すれば,上記報告書は信用性を有するものである。



 また,争点(1)イに関する当裁判所の判断でみたとおり,本件各発明は,手や顔が濡れた環境下で使用することのできる,透明であり,かつ,適度な粘性を有する油性液状クレンジング用組成物を提供することをその作用効果とするものであるところ,被告各製品は,手や顔が濡れた環境下で使用することができるクレンジングオイルとして販売されているものであり,水のようにサラサラとしたテクスチャーで液だれしやすいなどの従来品におけるデメリットを改善し,適度な厚みがある(すなわち,適度な粘性を有する)旨が宣伝広告において強調されているものであり(甲6,40の1・2・5,41),さらに,被告各製品が,使用時において内容液を手に出して使うことが予定されているものであることも考慮すれば,透明であることも,その商品の特性として重要な要素を占めているものと解することができる。そうすると,本件各発明に係る作用効果が被告各製品の特性の中核をなしているものということができる。


 これに加えて,被告各製品が,本件各発明をいずれも侵害するものであることを考慮すると,被告各製品に関し,本件各発明の実施に対し受けるべき金銭の額に相当する額を算定するための相当実施料率は●省略%と認めるのが相当である。


ウこの点に関し,被告は,本件各発明は被告各製品の売上げに全く寄与していないことが明らかであり,被告にとって実施料を支払ってまで許諾を受ける必要のないものであるから,原告に損害は発生しておらず,また,「特許の実施に対し受けるべき金銭の額」(特許法102条3項)はゼロであると主張するが,被告各製品が,本件各発明に係る作用効果を享受しており,かつ,同作用効果が被告各製品の売上げに寄与するものであることは明らかであるから,被告の主張を採用することはできない。


エ以上によれば,特許法102条3項に基づく原告の損害は,被告各製品の売上高に相当実施料率●省略●を乗じることにより算出されるものと認められ,下記計算式のとおり,1億5069万8740円となる。』

 と判示されました。