●平成22(ネ)10074 特許権差止請求権不存在確認等請求本訴

 本日は、『平成22(ネ)10074 特許権差止請求権不存在確認等請求本訴,損害賠償等請求反訴控訴事件 不正競争 民事訴訟 平成23年02月24日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20110225144812.pdf)について取り上げます。


 本件では、不競法2条1項14号に基づく損害賠償責任の有無についての判断が参考になるかと思います。


 つまり、知財高裁(第4部 裁判長裁判官 滝澤孝臣、裁判官 高部眞規子、裁判官 荒 井章光)は、


『(2) 不競法2条1項14号に基づく損害賠償責任の有無

ア前記1で認定したとおり,本件特許は特許無効審判により無効にされるべきものであるから,原告製品が本件特許発明の技術的範囲に属するものであったとしても,結論として,原告製品の製造販売行為が特許権侵害に当たるとはいえず,本件告知の内容は,結果的にみて,虚偽であったことになる。


イしかしながら,1審被告が有する本件特許権は,特許庁における審査を経て拒絶理由を発見しないとして特許査定に至ったものであり(特許法51条),無効審決がされたわけでもなく,他方,原告製品が本件特許発明の技術的範囲に属することは,明らかであり,当事者間に争いがない。


そして,ミヤガワ及びミヤガワ金属販売は,原告製品を製造販売する者であるから,本件特許が特許無効審判により無効にされるべきものであるなどの抗弁事由が認められない場合であれば,本件特許権直接侵害者に相当する立場にある者である。よって,本件特許権を有する1審被告は,原告製品の製造販売行為を行うミヤガワらに対して,特許権者として,ミヤガワらの行為が本件特許権を侵害することを告知したものと解される。なお,1審被告は,最終ユーザで大手の旭化成建材には直接告知しておらず,1審原告の「1審被告は,1審原告の元代表者Aを通じて,旭化成建材に対し,取引先を1審原告から1審被告に変更するように働きかけて,旭化成建材の取引先を,平成19年10月1日から1審被告に変更させた」との主張は,本件全証拠によっても,これを認めるに足りない。


ウそして,本件告知行為の内容は,前記(1)認定のとおりであって,原告製品の製造販売元であって直接侵害者の立場にあるミヤガワらに対する登録された権利の行使として,内容及び態様において社会的に不相当とまではいえないものである。


エその後,1審被告は,ミヤガワらとの打合せを行い,1審原告にも同様の通知をした。その上で,1審被告は,反訴としてではあるが,1審原告に対して特許権侵害に基づく損害賠償請求訴訟を提起したものである。


オ加えて,1審原告は当初,職務発明による通常実施権や甲6による新規性欠如といった主張をしていたが,これを撤回したもので,引用発明に基づく進歩性欠如の主張は,提訴から5か月以上経過した後に初めて主張されたものである。しかも,本件特許の無効理由は,前記1のとおりの進歩性欠如であり,引用発明及び甲18の2刊行物の記載に基づき容易に発明することができたというものであって,引用発明とされた甲22刊行物記載の発明と本件特許発明とは,同一の構成のものではなく,前記1(3)のとおりの相違点がある。また,甲18の2刊行物は,特許庁段階で拒絶理由通知に記載されたが,手続補正の結果これをもって拒絶理由を発見しないとされたものである。


カ以上のように,特許権者である1審被告が,特許発明を実施するミヤガワらに対し,本件特許権の侵害である旨の告知をしたことについては,特許権者の権利行使というべきものであるところ,本件訴訟において,本件特許の有効性が争われ,結果的に本件特許が無効にされるべきものとして権利行使が許されないとされるため,1審原告の営業上の信用を害する結果となる場合であっても,このような場合における1審被告の1審原告に対する不競法2条1項14号による損害賠償責任の有無を検討するに当たっては,特許権者の権利行使を不必要に萎縮させるおそれの有無や,営業上の信用を害される競業者の利益を総合的に考慮した上で,違法性や故意過失の有無を判断すべきものと解される。


 しかるところ,前記認定のとおり,本件特許の無効理由については,本件告知行為の時点において明らかなものではなく,新規性欠如といった明確なものではなかったことに照らすと,前記認定の無効理由について1審被告が十分な検討をしなかったという注意義務違反を認めることはできない。


そして,結果的に,旭化成建材の取引のルートが1審原告から1審被告に変更されたとしても,本件告知行為は,その時点においてみれば,内容ないし態様においても社会通念上著しく不相当であるとはいえず,本件特許権に基づく権利行使の範囲を逸脱するものとまではいうこともできない。


(3) 小括

 以上によれば,1審被告のミヤガワ及びミヤガワ金属販売に対する告知は,少なくとも故意過失がないというべきであるから,その余の点について判断するまでもなく,1審原告の本訴請求のうち,不競法に基づく請求は理由がないといわなければならない。』


 と判示されました。


 なお、不競法2条1項14号は、「競争関係にある他人の営業上の信用を害する虚偽の事実を告知し、又は流布する行為」は、不正競争としてします。


 詳細は、本判決文を参照してください。