●平成22(ワ)18769等 特許権差止請求権本訴事件 損害賠償等請求反

 本日は、『平成22(ワ)18769等 特許権差止請求権本訴事件 損害賠償等請求反訴事件 特許権 民事訴訟 平成22年09月17日 東京地方裁判所 』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20101008150410.pdf)について取り上げます。


 本件は、特許権差止請求権本訴事件で、特許法104条の3第1項の規定により、本件特許には進歩性欠如の無効事由があり,特許無効審判により無効にされるべきものと認められる、と判示された事案です。


 本件では、争点(3)(不正競争の成否及び損害額)についての判断が参考になるかと思います。


 つまり、東京地裁(民事第40部 裁判長裁判官 岡本岳、裁判官 坂本康博、裁判官 寺田利彦)は、


『2 争点(3)(不正競争の成否及び損害額)

(1) 証拠(甲3,4)によれば以下の事実が認められる。

ア被告は,ミヤガワ金属販売に対して,ミヤガワ金属販売が原告に販売しているパワーねじ(原告製品)が被告の本件特許権を侵害していることが明白であり,同製品の製造,販売の中止,在庫品の廃棄及び損害賠償を請求する可能性がある旨を記載した,平成19年8月20日付けの書面(甲3)を送付した。


イ被告は,ミヤガワ及びミヤガワ金属販売に対し,ミヤガワが製造し,ミヤガワ金属販売が販売しているパワーねじ(原告製品)が本件特許発明の技術的範囲に属するもので,本件特許権を侵害するものであり,その製造,販売を直ちに停止するよう警告する旨を記載した平成19年9月18日付けの警告書(甲4)を送付した。


(2) 前記1に説示したとおり,本件特許には無効事由があり,特許法104条の3第1項により被告は本件特許権を行使することができないのであるから,上記(1)ア,イの各書面に記載した原告製品が本件特許権を侵害するとの事実は,虚偽の事実である。


 そして,前記第2,2(1),(4)の事実によれば,原告は,被告にとって,「競業関係にある他人」に当たると認められるから,被告が,原告製品が本件特許権を侵害する旨記載した上記各書面を原告の取引先であるミヤガワ及びミヤガワ金属販売に送付すること(以下「本件告知行為」という。)は,競争関係にある他人である原告の営業上の信用を害する虚偽の事実を告知する不正競争(不競法2条1項14号)に該当する。


(3) 原告は被告による本件告知行為によって営業上の利益を侵害されたとして損害賠償を求めているから,被告の過失について検討する。


 特許権者が,競争関係にある者が製造する物品について,その取引先に対し特許権の侵害を主張して警告することは,これにより当該警告を受けた取引先が特許権者による差止請求,損害賠償請求等の権利行使を懸念し,当該物品の取引を差し控えるなどして上記製造者の営業上の利益を損う事態に至るであろうことが容易に予測できるのであるから,特許権者は,そのような警告をするに当たっては,当該警告が不競法2条1項14号の「虚偽の事実」の告知とならないよう,当該特許に無効事由がないか,当該物品が真に侵害品に該当するか否かについて検討すべき高度の注意義務を負うものと解すべきである。


 そこで,このような見地に立って本件について検討すると,上記1で説示したように,本件特許発明は,当業者が引用発明,甲18の2刊行物及び甲19の2刊行物の記載に基づき容易に発明することができたものであって進歩性を欠くものであるが,?引用発明が記載された甲22刊行物は,本件特許出願の3年以上前の平成11年1月に旭化成建材がパワーボードの施工をする業者向けに発行した技術情報パンフレットであり,相当の部数が当業者に配布されたことが推認できること,?副引用例である甲18の2刊行物及び甲19の2刊行物は本件特許権の出願審査の過程でされた平成19年4月24日付け拒絶理由通知において引用文献として指摘されていたこと(乙5),?それにもかかわらず,被告が甲3及び甲4の書面を送付するに当たり,本件特許の無効事由の有無につき検討したのか否か,したとすればどのような検討を行ったのかについて,被告は何ら主張立証をしていないこと等に照らすと,被告が本件告知行為を行うに当たって上記注意義務を尽くしたと認めることはできず,被告には過失があるというべきである。


 また,被告は,本件告知行為は特許権者に認められた当然の権利を行使したものにすぎず違法性がないとも主張する。


 しかしながら,?被告は,本件特許権が平成19年8月17日に登録された直後である,同月20日及び同年9月18日付けで原告の取引先であったミヤガワ及びミヤガワ金属販売に対して原告製品が本件特許権を侵害する旨の書面(甲3,4)を送付しているが,その直後である平成19年10月から,ミヤガワが製造する本件特許発明の実施品であるねじをミヤガワ金属販売から仕入れ,これを西村鋼業を経由して旭化成建材に販売しており,本件告知行為の前に原告が行っていた取引と同じ形態の取引を原告と入れ替わる形で継続し,原告は同年9月30日限りで原告製品の販売を停止したこと(前記第2,2(4)),?被告は本件告知行為をしたミヤガワ及びミヤガワ金属販売に対しては特許権侵害訴訟を提起しておらず,原告に対しても原告の本訴提起の約1年後にようやく本件反訴を提起したにすぎないこと等からすると,被告は,競争関係にある原告の取引先に対し,原告が特許権を侵害しているとの事実を告知することにより原告との取引を中止させ,市場での競争において優位に立つことを目的として本件告知行為を行ったものと推認することができる。加えて,上記のとおり,被告は,本件告知行為が原告の営業上の信用に及ぼす影響の重大性を容易に予測できたにもかかわらず,十分な検討を行うことなく本件告知行為に及んでいることをも併せて考慮すると,本件告知行為を違法性のない正当行為と認めることはできない。


 したがって,被告は,本件告知行為によって原告が被った損害を賠償する責任を負うというべきである。』


 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照してください。