●平成23(ワ)4131 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟

 本日は、『平成23(ワ)4131 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟「上下に載置した2つのコンテナを連結するための連結片」平成24年4月12日 大阪地方裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20120425132803.pdf)について取り上げます。


 本件は、特許権侵害差止等請求事件で、その請求が棄却された事案です。


 本件では、争点1−2(被告製品は,本件各特許発明と均等なものとしてその技術的範囲に属するか)における特許発明の本質的部分ついての判断が参考になるかと思います。


 つまり、大阪地裁(第26民事部 裁判長裁判官 山田陽三、裁判官 西田昌吾、裁判官 達野ゆき)は、


『2争点1−2(被告製品は,本件各特許発明と均等なものとしてその技術的範囲に属するか)について

(1)特許請求の範囲に記載された構成中に対象製品等と異なる部分が存する場合であっても,?上記部分が特許発明の本質的部分ではなく,?上記部分を対象製品等におけるものと置き換えても,特許発明の目的を達することができ,同一の作用効果を奏するものであって,?上記のように置き換えることに,当業者が,対象製品等の製造等の時点において容易に想到することができたものであり,?対象製品等が,特許発明の特許出願時における公知技術と同一又は当業者がこれから上記出願時に容易に推考できたものではなく,かつ,?対象製品等が特許発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情もないときは,上記対象製品等は,特許請求の範囲に記載された構成と均等なものとして,特許発明の技術的範囲に属する。


(2)原告は,被告製品は,本件特許発明1の構成要件Eの「導入面取り部」に換えて,可動突部を下部突部に対して可動に設計したものであるが,被告製品は,本件各特許発明と均等なものとしてその技術的範囲に属すると主張する。しかし,以下の理由から,前記1で認定した本件各特許発明と被告製品の相違点(原告の主張する置換部分)は,本件各特許発明の本質的部分(前記(1)?)ではないと認めることができない。


特許発明の本質的部分とは,特許請求の範囲に記載された特許発明の構成のうちで,当該特許発明特有の課題解決手段を基礎づける特徴的な部分,言い換えれば,上記部分が他の構成に置き換えられるならば,全体として当該特許発明の技術的思想とは別個のものと評価されるような部分をいうものと解される。


 そして,本質的部分に当たるかどうかを判断するに当たっては,特許発明を特許出願時における先行技術と対比して課題の解決手段における特徴的原理を確定した上で,対象製品の備える解決手段が特許発明における解決手段の原理と実質的に同一の原理に属するものか,それともこれとは異なる原理に属するものかという点から判断すべきものである。


イ本件明細書の【発明の詳細な説明】欄には以下の記載がある。

【0004】
 先行技術である「ミッドロックは以下の欠点を有する。上述したように,通常船上では,ミッドロックを通常挿入するコンテナ後方のコーナーフィッティングに近づくのは困難である。‥‥従来のミッドロックでは,その前方開口部にロック用留め具が係合して開口部をふさいでいるため,固縛手段を下段のコンテナの上側のコーナーフィッティングに固定することができない。
【0005】
 上記に基づき,本願発明の基本目的は,上下に載置したコンテナの連結片と配列,および上下に載置したコンテナを連結させるための方法を創作することである。コンテナの上側のコーナーフィッティングの前側の開口部は,固縛手段のために開放されている。
【0006】
 この目的を達成するために,本願発明の連結片は,ロック用留め具が他方の連結突起上に,コンテナの長手方向視で横に配置してあることを特徴とする。本願発明の配列は,コンテナが本願発明の連結片によって少なくともコンテナ前方のコーナーフィッティングにおいて,互いに連結していることを特徴とする。本願発明の方法によると,上段のコンテナと下段のコンテナとを連結または分離するときに,上段のコンテナがコンテナの鉛直軸を中心に水平方向に旋回する‥‥。」
「【0010】
 先行技術である「全自動デバイスには,可動ロック部材が特に汚れの影響をとても受けやすいという欠点がある。したがって,これらの全自動デバイスは,たとえよくメンテナンスしたとしても非常にトラブルを起こしやすい。
【0011】
 本願発明による特徴を備えた連結片は,全自動デバイスとして使うことができる。連結片は,上段コンテナの下側コーナーフィッティングの4つ全てにそれぞれ挿入される。同じデザインの連結片を4つ用いると,自動的にロック用留め具はコーナーフィッティングの「前方」と「後方」で異なる方向を向いてロックが掛かることとなる。このように準備したコンテナを下段のコンテナに載置するとき,特に連結片の形状のおかげで,コンテナは簡単に鉛直軸に対して旋回し,連結片の下側連結突起がロック用留め具によって下段コンテナのコーナーフィッティング内へ係合する。この結果として,航行中の上下に載置したコンテナ同士の安全なロックが保証される。‥‥」


ウ本件明細書【0004】及び【0010】の記載によれば,先行技術であるミッドロックには,コンテナの前方開口部にロック用留め具が係合して開口部をふさぐという欠点があること,先行技術である全自動デバイスには,可動ロック部材が特に汚れの影響をとても受けやすいという欠点があることが認められる。


 また,同【0005】の記載によれば,本件特許発明1は,上記各欠点(課題)の解決手段として,上下に載置したコンテナの連結片と配列,上下に載置したコンテナを連結させるための方法を創作したものであることが認められる。


 そして,同【0006】及び【0011】の記載によれば,上記解決手段の原理は,?ロック用留め具が下側連結突起上にコンテナの長手方向視で横に配置されていること,?連結片の形状のおかげで,上段コンテナが鉛直軸に対して旋回することにより,連結片の下側連結突起がロック用留め具によって下段コンテナのコーナーフィッティング内に係合するというものであることが認められる。そして,前記1(1)のとおり,上記?の「連結片の形状」は,構成要件Eの「導入面取り部」を意味するものと考えられる。


 そうすると,構成要件Eの「導入面取り部」は,本件特許発明1の課題解決手段である上記?における基本的構成であり,特徴的原理を成すものであることが認められる。換言すれば,本件特許発明1において,全自動デバイスとして,上下のコンテナを連結する作用効果を奏させるには,構成要件Eの「導入面取り部」によりロック用留め具をロック位置まで案内することが必要不可欠の構成であり,課題解決の原理そのものであるというべきである。


 これに対し,被告製品では,全自動デバイスとして,上下のコンテナを連結する作用効果を奏させるため,構成要件Eの「導入面取り部」の構成によりロック用留め具を係合位置まで移動させる構成ではなく,ロック用留め具そのものを可動突部とすることにより下段コンテナの溝穴と係合させる構成が採用されている。


 したがって,被告製品の課題解決手段は,本件特許発明1の解決手段の原理と実質的に同一の原理に属するものとはいえず,むしろ,異なる原理に属するものというべきである。


 以上によれば,構成要件Eは,特許請求の範囲に記載された本件特許発明1の構成のうちで,当該特許発明特有の課題解決手段を基礎づける特徴的な部分であり,特許発明の本質的部分に当たる。このことは,前記1(1)エ(イ)のとおり,原告が,本件特許の出願手続において,「本件発明では構成要件AないしDが有機的に結合することにより,荷役者を介することなくコンテナの連結および分離ができ,全自動デバイスとして使うことができるという引用文献にはない顕著な効果を奏する」旨の意見書を提出していることからも明らかである。


(3)よって,被告製品と本件特許発明1とは,本件特許発明1の本質的部分である構成要件Eの点で相違するから,その余の点について検討するまでもなく,被告製品が本件特許発明1と均等なものであるということはできない。


 また,本件特許発明2ないし5についても,本件特許発明1の従属項であるから,被告製品は,これらと均等なものであるということもできない。


第5結論

 以上によれば,被告製品が本件各特許発明の技術的範囲に属するとは認めることができないから,その余の点について判断するまでもなく,原告の請求にはいずれも理由がない。』


 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照して下さい。