●平成20(ワ)14669  特許権侵害差止等請求事件「建具用ランナー」

 『平成20(ワ)14669  特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟「建具用ランナー」平成22年08月27日 東京地方裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20100917100651.pdf)について取り上げます。


 本件は、特許権侵害差止等請求事件で、その請求が棄却された事案です。


 本件では、特許法104条の3第1項の規定による無効の抗弁における進歩性の判断が参考になるかと思います。


 つまり、東京地裁(民事第40部 裁判長裁判官 岡本岳、裁判官 坂本康博、裁判官 寺田利彦)は、


『1 当裁判所は,被告製品は本件特許発明の構成要件?及び?を充足するが,本件特許発明は,その特許出願前に頒布された刊行物に記載された発明等により,当業者(その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者)が容易に発明をすることができたものであるから,本件特許は,特許法29条2項に違反し,特許無効審判により無効にされるべきものであり,特許法104条の3第1項により,特許権者である原告らは,その権利を行使することができないと判断する。その理由は,以下のとおりである。


 ・・・省略・・・


ク 以上の記載からすると,本件特許出願当時において,一方の部材に係合溝を設け,他方の部材に弾性が付与されてなる可動片に設けられた係合突起を一体成形することにより,2つの部材を着脱自在に係合ロックする構成は,情報カード等の電子装置,ベルト等のバックル,小型無線機等の小型通信機,ヘルメット等のベルト用止め具,机等の引出し,コネクタ,カップリング等の管接続具,端末保護具,ボックス等の配線・配管器具,通信用回路を備えた通信用カード等,様々な技術分野において広く用いられていた周知の技術的思想であったと認められる。


 また,乙23?刊行物及び乙24刊行物には,係合突起を備えた可動片が一体成形された部材が合成樹脂製であることが明示的に開示されており,さらに,一般に,機械設計上,弾性が必要な部位にはその素材として合成樹脂材が広く用いられていることにかんがみれば,係合突起を備えた可動片が一体成形された部材の素材として合成樹脂材を用いる点も,本件特許出願当時において,様々な技術分野における周知の技術的思想であったと認めるのが相当である。

 
ケ 機械設計上,構成部材を少なくし構成をより単純化することは,当業者にとって,製造コストの削減や製品の耐久性向上等につながる一般的な技術課題であるといえる。そのため,引用発明においても,カップ部材であるケースホルダー20とホルダ部材であるローラケース21を着脱自在に係合ロックするための構成について,構成部材が少ないより単純な構成とすることは,当業者が当然に認識する自明の技術課題であったといえる。


 そうすると,引用発明の係合ロックの構成(ロックレバー39やコイルスプリング46等の部品を組み立てて成るローラケース21をケースホルダー20に係合ロックする構成)を,構成部材が少ないより単純な構成である上記クで認定した周知の係合ロックの構成(一方の部材に係合溝を設け,他方の部材に弾性が付与されて成る可動片に設けられた係合突起を一体成形することにより,2つの部材を着脱自在に係合ロックする構成)に置き換えることは,当業者にとって,十分に動機付けられていたということができ,通常の創作能力により容易になし得たといえる。


 また,引用発明のローラケース21,ロックレバー39等の部品の素材は乙40刊行物の記載上明らかではないものの,建具用ランナーに係る乙1発明や乙39発明において,部品の素材として合成樹脂材が用いられていること(乙1刊行物の段落【0011】,乙39刊行物の第1欄)に加え,上記クで認定したように,係合突起を備えた可動片が一体成形された部材の素材として合成樹脂材を用いることが様々な技術分野における周知の技術的思想であったことを併せ考慮すると,引用発明の係合ロックの構成を上記クで認定した周知の係合ロックの構成に置き換える場合に,当業者は,係合突起を備えた可動片が一体成形された部材の素材として合成樹脂材を容易に採用し得たといえる。


 さらに,建具用ランナーでは,戸板等の30?程度の荷重が係合部位に掛かることも想定されるが,引用発明の係合ロックの構成を上記クで認定した周知の係合ロックの構成に置き換え,その素材として合成樹脂材を採用しても,係合部位の厚さや大きさ等は想定される荷重に応じて設計されるものであるから,係合機能を十分に発揮することができるものといえ,この点を阻害事由と認めることはできない。


 また,本件特許発明は引用発明より構成が単純化されているが,その程度は上記クで認定した周知の係合ロックの構成を考慮すれば,当業者にとって想定の範囲内のものといえ,本件特許発明は当業者が通常予想し得る以上の顕著な効果(耐久性の向上等)をもたらすものではない。


 したがって,当業者は,引用発明及び上記クで認定した周知の技術的思想に基づいて,相違点に係る本件特許発明の構成を容易に想到できたものと認められる。


 また,本件訂正は構成要件?に係るものであり,上記(3)のとおり,引用発明は本件訂正後の構成要件?の構成を具備するものであるから,本件訂正が上記判断に影響を及ぼすことはない。


6 以上のとおり,本件特許発明は,当業者が引用発明及び上記の周知の技術的思想に基づいて容易に発明をすることができたものであり,その特許は特許無効審判により無効にされるべきものと認められるから,原告らは被告に対し本件特許権を行使することができない(特許法104条の3第1項)。』


 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照してください。