●平成23(行ケ)10148 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「医薬」

 本日も、『平成23(行ケ)10148 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「医薬」平成24年4月11日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20120417163057.pdf)について取り上げます。


 本件では、取消事由3(本件各発明の容易想到性に係る判断の誤り)についての判断も参考になると思います。


 つまり、知財高裁(第4部 裁判長裁判官 滝澤孝臣、裁判官 井上泰人、裁判官 荒井章光)は、


『3 取消事由3(本件各発明の容易想到性に係る判断の誤り)

(1) 一致点及び相違点について

 引用例3の図3には,前記2(3)に認定のとおり,「ピオグリタゾン又はその薬理学的に許容し得る塩と,アカルボース,ボグリボース及びミグリトールから選ばれるα−グルコシダーゼ阻害剤とを組み合わせてなる糖尿病又は糖尿病性合併症の予防・治療薬」という構成の発明が記載されているものと認められ,当業者は,本件優先権主張日当時の技術常識に基づき,当該発明について,両者の薬剤の併用投与によるいわゆる相加的効果を有するものと認識する結果,ピオグリタゾン等の単独投与に比べて血糖低下作用が増強され,あるいは少量を使用することを特徴とするものであることも,当然に認識したものと認められるほか,下痢を含む消化器症状という副作用の軽減という作用効果を有することも認識できたものと認められる。


 したがって,本件発明6,9及び12と引用例3の図3に記載の発明とでは,「ピオグリタゾン又はその薬理学的に許容し得る塩と,アカルボース,ボグリボース及びミグリトールから選ばれるα−グルコシダーゼ阻害剤とを組み合わせてなる糖尿病又は糖尿病性合併症の予防・治療薬」(本件発明6,9及び12)であって,「これらの薬剤の単独投与に比べて血糖低下作用の増強されたもの」(本件発明9)又は「これらの薬剤の単独使用の場合と比較した場合,少量を使用することを特徴とするもの」(本件発明12)である点で一致し,「本件発明6,9及び12は,ピオグリタゾン又はその薬理学的に許容し得る塩1重量部に対し,α−グルコシダーゼ阻害剤を0.0001ないし0.2重量部用いるものであるのに対し,引用例3の図3に記載の発明には,このような用量の特定がない点」で相違するものというべきである。


(2) 前記相違点の容易想到性について

 しかるところ,本件明細書は,前記1(1)クに記載のとおり,ラットに対して塩酸ピオグリタゾン1重量部に対してボグリボース0.31重量部を併用投与した実験例の記載はあるものの,それ以上に,ピオグリタゾン又はその薬理学的に許容し得る塩とα−グルコシダーゼ阻害剤との各用量の特定又はそれによる臨界的な意義を何ら明らかにしていない。


 むしろ,前記2(1)ウに認定のとおり,作用機序が異なる薬剤を併用する場合,通常は,薬剤同士が拮抗するとは考えにくいから,併用する薬剤がそれぞれの機序によって作用し,それぞれの効果が個々に発揮されると考えられるところ,糖尿病患者に対してインスリン感受性増強剤とα−グルコシダーゼ阻害剤とを併用投与した場合に限って両者が拮抗し,あるいは血糖値の降下が発生しなくなる場合があることを示す証拠は見当たらないばかりか,前記2(2)アに認定のとおり,当業者は,本件優先権主張日当時の技術常識に基づき,これらの作用機序が異なる糖尿病治療薬の併用投与により,少なくともいわゆる相加的効果が得られるであろうことまでは当然に想定するものと認められる。


 以上によれば,引用例3の図3に記載の発明において,ピオグリタゾン又はその薬理学的に許容し得る塩とα−グルコシダーゼ阻害剤とを併用投与するに当たって,各用量をどのように特定するかは,投与者がそれにより得ようとするいわゆる相加的効果の内容に応じて適宜設計すれば足りる事項であるというべきであって,本件発明6,9及び12の前記相違点に係る構成は,実質的な相違点とはいえないか,せいぜい当業者が容易に想到することができるものであるといえる。


(3) 小括

 よって,当業者が本件各発明(特に,本件発明6,9及び12)を容易に想到できないとした本件審決の判断は,特許法29条2項の適用を誤るものであり,本件審決は,取消しを免れない。』

 と判示されました。