●平成23(ネ)10002 特許権侵害差止等請求控訴事件 特許権「餅」

 本日も、『平成23(ネ)10002 特許権侵害差止等請求控訴事件 特許権 民事訴訟「餅」平成24年3月22日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20120403101725.pdf)について取り上げます。


 本件では、中間判決後の被告の新たな防御方法の提出の可否について判断も参考になるかと思います。


 つまり、知財高裁(第3部 裁判長裁判官 飯村敏明、裁判官 八木貴美子、裁判官 知野明)は、


『3中間判決後の被告の新たな防御方法の提出の可否について

 当裁判所は,被告が中間判決後においてした,先使用の抗弁,権利濫用の抗弁,公知技術(自由技術)の抗弁に係る主張,及び乙45ないし150の提出,証人尋問の申出(証人C,同D,同E,同F),検証の申出(検乙1〜11,13)については,いずれも,被告の重大な過失によって時機に後れて提出された防御方法に該当し,これにより訴訟の完結を遅延させることとなると判断する。


 その理由は,以下のとおりである。


(1)特許権侵害訴訟における審理について

 民事訴訟法は,迅速かつ公正な手続を実現するため,攻撃防御方法について適時提出主義を採用し,当事者が故意又は重大な過失により時機に後れて提出した攻撃又は防御方法について,これにより訴訟の完結を遅延させることとなると認めたときは,裁判所は,申立てにより又は職権で却下の決定をすることができる旨規定する(民事訴訟法156条,157条1項,301条参照)。民事訴訟法の下での攻撃防御方法の提出の有無及び提出時期等を含む一切の訴訟活動は,当事者の責任とリスクの下で行われる。当事者は,提出の義務を負うものではないが,提出する以上は,迅速かつ公平に手続を進行する義務を負担するものであって,この意味での適時提出義務に反した場合には,時機に後れた攻撃防御方法として却下される。とりわけ,特許権侵害訴訟のようなビジネス関連訴訟では,訴訟による迅速な紛争解決が求められることから,上記適時提出義務の遵守が強く要請される。


  上記観点から,被告提出に係る上記防御方法の許否に関して検討するに,当裁判所は,原審における審理内容,控訴審(中間判決前)における審理内容,及び控訴審(中間判決後)の審理内容に照らすならば,これらを採用することは,迅速,公平の要請の観点から,妥当を欠くものと判断する。


 以下,詳細に記載する。


(2)訴訟手続の経緯


 …省略…


(3)時機に後れた防御方法の提出に関する判断

上記の審理経緯に照らして,以下のとおり判断する。

ア「時機に後れたこと」,「故意又は重大な過失」について

 上記認定事実によれば,?本件においては,原審における第1回弁論準備手続において,被告が,本件発明の新規性ないし進歩性に関して,本件特許出願前に側面に切り込みが入った切餅を製造,販売していた旨主張し,原告が上記事実の存在を強く否認したため,この点が主要な争点となっていたこと,?原審では,同争点について,約9か月にわたり,6回の弁論準備手続を行い,当事者の主張,証拠の整理を行った上,口頭弁論において,G証人及びH証人の証人尋問を行ったこと,?その後,再度,弁論準備手続に付され,当事者双方が証人尋問を踏まえた準備書面を提出した上,侵害論については,他に主張,立証がない旨陳述していること,?被告は,本訴係属後,本件特許の無効審判を請求したが,無効不成立審決がされ,ついで,審決取消訴訟を提起したが,被告は,上記無効審判請求及び審決取消訴訟においても,本件発明の新規性ないし進歩性に関して,本件特許出願前に側面に切り込みが入った切餅を製造,販売していたことを主張し,これに対し,原告は被告主張事実の存在を強く否認したため,この点が争点となっていたこと(当裁判所に顕著な事実),?当審における第1回口頭弁論において,当事者双方は,主張,立証を補充し,侵害論について他に主張,立証はない旨陳述したため,当裁判所は,中間判決に至る可能性がある旨明言した上,口頭弁論を終結したこと,?当裁判所は,被告製品(別紙物件目録1ないし5)は,本件発明の構成要件をすべて充足し,本件発明の技術的範囲に属するものであり,本件特許は特許無効審判により無効にされるべきものとは認められないと判断し,損害賠償請求に係る損害額の算定及び差止請求の範囲等について,更に審理をする必要があるため,中間判決をしたことが認められる。


 以上によれば,?被告が本件特許出願前に側面に切り込みが入った切餅を製造,販売していたか否かは,原審の第1回弁論準備手続において被告が上記主張をした後,本訴のみならず,無効審判請求及び審決取消訴訟においても,原告及び被告間において主要な争点となっていたこと,?被告において,当審の第1回口頭弁論に至るまで,充分にこの点について主張,立証及びその補充をする機会を有しており,被告は,原審の第7回弁論準備手続及び当審の第1回口頭弁論において,侵害論について他に主張,立証はない旨陳述していたこと,?被告は,本件特許出願前に被告が側面に切り込みが入った切餅を製造,販売していた事実を排斥した中間判決を受けた後,当審における弁論準備期日が終結され,最終口頭弁論期日が指定された後に,島田弁護士を解任したこと,?新たな訴訟代理人において,被告が本件特許出願前に側面に切り込みが入った切餅を製造,販売していたことについての主張と実質的には同一の主張である,先使用の抗弁,権利濫用の抗弁,公知技術(自由技術)の抗弁に係る主張及び乙45ないし150の提出,証人尋問及び検証の申出をするに至ったこと,?被告ないし島田弁護士らにおいて,上記防御方法の提出に格別の障害があったとは認められないことを総合すれば,被告の上記防御方法の提出は,時機に後れた防御方法に当たり,少なくとも重大な過失があったものと認められる。


 なお,当裁判所は,第3回弁論準備手続期日において,島田弁護士作成に係る「被控訴人第3準備書面」について陳述させた。これは,上記準備書面における先使用の抗弁は,新たな裏付け証拠を伴わない主張であり,中間判決で既に認定,判断した事項と同一の事実主張を基礎にして,「先使用の抗弁」に再構成したにすぎないものであり,その主張を許すことによる訴訟遅延の弊害はないと判断したことによるものである。このような訴訟指揮は,ごく通常実施されるものであり,このような訴訟指揮があったからといって,被告の上記防御方法の提出を許容する根拠となるものではない。


イ訴訟の完結を遅延させることについて

 上記のとおり,被告は,当審における口頭弁論終結間際になって,先使用の抗弁,権利濫用の抗弁,公知技術(自由技術)の抗弁に係る主張及び乙45ないし150の提出,証人尋問及び検証の申出をするに至ったものである。この点,上記先使用の抗弁,権利濫用の抗弁,公知技術(自由技術)の抗弁に係る主張は,?実質的に,被告が本件特許出願前に側面に切り込みが入った切餅を製造,販売していたことに関する審理の蒸し返しにすぎないこと,?これを裏付けるものとして新たに提出された乙45ないし150には,関係者の陳述書,被告側内部で行われたことに関連する資料等が多数含まれ,原告において反論するのに多大の負担を強いること,?原審における証人調べの結果や被告の従前の主張と矛盾,齟齬する部分が数多く存在すること,?とりわけ,仮に,被告が,平成14年10月に,側面に切り込みが入った切餅を製造,販売していたことを前提とするならば,被告が平成15年7月に「被告特許?」(「上面,下面,及び側面に切り込みを入れたことを特徴とする切り餅」)について特許出願をしたことと整合性を欠くことになるが,その点については,何ら合理的な説明がされていないこと等を総合考慮すると,被告主張に係る事実の真偽を審理,判断するためには,更に原告による反論及び多くの証拠調べをする必要があり,これにより訴訟の完結は大幅に遅延することになる。


(4)小括

 以上のとおり,被告により中間判決後においてされた,先使用の抗弁,権利濫用の抗弁,公知技術(自由技術)の抗弁に係る主張,及び乙45ないし150の提出,証人尋問及び検証(検乙1〜11,13)の申出は,いずれも,被告の重大な過失によって時機に後れて提出された防御方法であり,これにより訴訟の完結を遅延させることとなるものであるから,いずれも却下する(なお,乙151については,立証趣旨に損害が含まれているので,時機に後れた防御方法としては却下しない。また,検乙12は必要性がないものとして却下する。)。


 なお,当裁判所は,被告代理人らが,控訴審の口頭弁論終結段階になって選任され,限られた時間的制約の中で,精力的に,記録及び事実関係を精査し,新たな観点からの審理,判断を要請した点を理解しないわけではなく,その努力に敬意を表するものである。しかし,特許権侵害訴訟は,ビジネスに関連した経済訴訟であり,迅速な紛争解決が,とりわけ重視されている訴訟類型であること,当裁判所は,原告と被告(解任前の被告訴訟代理人)から,進行についての意見聴取をし,審理方針を伝えた上で進行したことなど,一切の事情を考慮するならば,最終の口頭弁論期日において,新たな審理を開始することは,妥当でないと判断した。


 第4結論

 以上によれば,原告の,?被告製品(別紙物件目録1ないし5)の製造,譲渡,輸出及び譲渡の申出の差止請求,?被告製品(別紙物件目録1ないし5)及びその半製品並びにこれらを製造する装置の廃棄請求,?不法行為に基づく損害賠償及び遅延損害金請求は,主文第2項ないし第4項掲記の限度において,それぞれ理由があるから,原告の請求を全て棄却した原判決を取り消し,原告の請求を主文第2項ないし第4項の限度で認容することとし,その余の請求は,当審において追加的に変更された部分を含めて理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。』

 と判示されました。


 なお、本判決文を読むと、飯村裁判長が東京地裁との時に出されたe―OneとiMacとの形態類似による不正競争事件の『平成11(ヨ)22125 不正競争仮処分事件 不正競争 民事仮処分平成11年09月20日 東京地方裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/E2782AC4AC47549949256A7700082C26.pdf)を思い出しました。

 この不正競争仮処分事件では、飯村裁判長は、

一般に、企業が、他人の権利を侵害する可能性のある商品を製造、販売するに当たっては、自己の行為の正当性について、あらかじめ、法的な観点からの検討を行い、仮に法的紛争に至ったときには、正当性を示す根拠ないし資料を、すみやかに提示することができるよう準備をすべきであるといえる。しかるに、本件においては、前記のとおり、審尋期日において、債務者から、そのような事実上及び法律上の説明は一切されなかった。そこで、当裁判所は、迅速な救済を図る民事保全の趣旨に照らして、前記のような審理をした。

 と判示されています。