●平成23(ネ)10002 特許権侵害差止等請求控訴事件 特許権「餅」

  本日も、『平成23(ネ)10002 特許権侵害差止等請求控訴事件 特許権 民事訴訟「餅」平成24年3月22日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20120403101725.pdf)について取り上げます。


  本件では、損害額(被告の本件特許権侵害に対する過失の有無を含む)についての判断も参考になるかと思います。


 つまり、知財高裁(第3部 裁判長裁判官 飯村敏明、裁判官 八木貴美子、裁判官 知野明)は、


『2 損害額(被告の本件特許権侵害に対する過失の有無を含む)について

(1) 被告製品の販売による損害額

 ア 特許法102条2項に基づいて算定される損害額

(ア)売上高

 乙155(被告管理本部副本部長兼経理部長であるBが被告の会計書類に基づいて作成した報告書)は,当該会計書類そのものは証拠として提出されていないものの,本件全証拠によるも,虚偽ないし不正確な記載がされたとうかがわせるような事情は存在しない(被告は,上記売上高には,被告社員に対し社内販売した被告製品についての消費税相当分が含まれており,これを控除すると,被告製品の売上高は更に少なくなると主張する。しかし,社内販売分の売上高から当該消費税分を控除すべきとする根拠及びその金額は,必ずしも明らかでないから,この点の被告の主張を採用することはできない。)。


 したがって,被告製品(別紙物件目録1ないし5)の平成20年5月1日から平成23年10月31日までの売上高は,合計162億1731万7021円(146億2620万2583円+15億9111万4438円)と認められる(なお,平成20年4月18日から同月30日までの間の被告製品(別紙物件目録1ないし5)の売上高については,原告から具体的な主張・立証がない。)。


 この点,原告は,被告の切餅及び鏡餅のそれぞれの売上高総額及び日経POSデータにおける被告製品(別紙物件目録1ないし5)の売上シェアを基礎として,被告製品(別紙物件目録1ないし5)の平成20年5月1日から平成23年10月31日までの売上高は,280億3700万円を下らないと主張する。しかし,原告の上記主張は失当である。すなわち,日経POSデータは,日本経済新聞デジタルメディアが全国の主要なチェーンストアを中心にデータを収集したものであって,被告の全ての販売先を網羅したデータではなく,そこに記載された売上シェアから推計した被告製品(別紙物件目録1ないし5)の売上金額をもって,前記乙155の記載内容の信憑性を覆すことはできないと解される。


 …省略…


(イ) 利益率

 被告の有価証券報告書損益計算書(甲46〜48,乙160〜163)に掲載された費用のうち,売上原価(そのうち材料費,消耗品費,電力費,修繕費),発送費,販売手数料,保管費は,被告が製品の製造,販売のために要した費用として控除すべきである。そうすると,被告が製品を製造,販売した場合の利益率(平成20年度ないし平成22年度)は,以下のとおりであり,少なくとも原告が主張する30%を下回ることはない。したがって,被告が被告製品(別紙物件目録1ないし5)を製造,販売及び輸出した場合の利益率についても,30%と認めるのが相当である


 これに対し,被告は,被告の有価証券報告書損益計算書(甲46〜48,乙160〜163)に掲載された費用(変動費及び固定費)を全て売上高から控除すべき旨主張するが,被告製品(別紙物件目録1ないし5)の製造,販売のために要した費用を特定することができず,上記主張は採用することができない。


 …省略…


(ウ) 寄与度

 被告製品は,別紙被告製品図面(斜視図)のとおり,切り込み部13が対向二側面である側周表面12の長辺部に形成されており,本件発明と同様に,焼き上げるに際して切り込み部13の上側が下側に対して持ち上がり,最中やサンドウイッチのように上下の焼板状部の間に膨化した中身が挟まれた状態に膨化変形することで膨化による外部への噴き出しを抑制する構成を有する。


 そして,被告は,被告製品について,?平成15年9月ころから「サトウの切り餅パリッとスリット」との名称で販売し,切餅の上下面及び側面に切り込みが入り,ふっくら焼けることを積極的に宣伝・広告において強調していること,?平成17年ころから,切り込みを入れた包装餅が消費者にも広く知られるようになり,売上増加の一因となるようになったこと,?平成22年度からは包装餅のほぼ全部を切り込み入りとしたことが認められ,これらを総合すると,切餅の立直側面である側周表面に切り込み部等を形成し,切り込みによりうまく焼けることが,消費者が被告製品(別紙物件目録1ないし5)を選択することに結びつき,売上げの増加に相当程度寄与していると解される(甲4,21〜26,43,51,56の1〜22,甲60〜63,乙152,153,164〜167)。


 上記のとおり被告製品(別紙物件目録1ないし5)における侵害部分の価値ないし重要度,顧客吸引力,消費者の選択購入の動機等を考慮すると,被告が被告製品(別紙物件目録1ないし5)の販売によって得た利益において,本件特許が寄与した割合は15%と認めるのが相当である。

(エ) 小括

 特許法102条2項に基づいて算定される損害額は,以下のとおり,合計7億2977万9264円と認められる(平成20年5月1日から平成21年4月30日までの損害については,原審において損害算定期間とされていた平成21年3月11日までと,当審において損害算定期間が変更された同年3月12日以降を,日数により按分して算出した。)。


 …省略…


特許法102条3項に基づいて算定される損害額

 上記した本件発明の内容,被告製品(別紙物件目録1ないし5)に対する本件発明の寄与度等を考慮すると,本件発明の実施料率は,売上額の3%を超えないものと認められるから,特許法102条3項に基づいて算定される損害額は,同条2項に基づいて算定される損害額を超えることはない。


ウ 被告製品の販売による損害額のまとめ

 上記検討したとおり,原告が被告製品(別紙物件目録1ないし5)の販売により受けた損害額は,特許法102条2項により,合計7億2977万9264円と認めるのが相当である。なお,平成20年4月18日から同月30日までの間の損害については,原告から被告製品(別紙物件目録1ないし5)の売上高について主張,立証がないことから,これを認めないこととした。


(2) 弁護士費用等

 原告が,本件訴訟の提起及び追行を,原告代理人に委任したことは当裁判所に顕著であり,本件での逸失利益額,事案の難易度,審理の内容等本件の一切の事情を考慮し,被告の不法行為と相当因果関係のある弁護士費用及び弁理士費用としては,7298万円(平成20年5月1日から平成21年3月11日までの損害について1946万円,同月12日から平成23年10月31日までの損害について5352万円)と認めるのが相当である。


(3) 損害額のまとめ

 以上から,被告は,原告に対し,8億0275万9264円(7億2977万9264円+7298万円=8億0275万9264円)について賠償する義務を負う。なお,遅延損害金の起算点は,平成20年5月1日から平成21年3月11日までの損害2億1405万9524円(逸失利益1億9459万9524円+弁護士費用等1946万円=2億1405万9524円)については,不法行為の後の日である平成21年3月24日(原審の訴状送達の日の翌日)とし,同月12日から平成23年10月31日までの損害5億8869万9740円(逸失利益5億3517万9740円+弁護士費用等5352万円=5億8869万9740円)については,不法行為の後の日である平成23年11月1日とした。」

 と判示されています。