●特許法104条の3の特許無効の抗弁に対する訂正の再抗弁

Nbenrishi2009-03-15

 先日取上げた、●『平成19(ワ)17762 損害賠償請求事件 実用新案権 民事訴訟「筆記具のクリップ取付装置事件」平成21年02月27日 東京地方裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20090306100200.pdf)では、


 特許法104条の3の特許無効の抗弁に対する訂正の再抗弁の要件として、

『(i)原告が適法な訂正請求を行っていること,
(ii)当該訂正によって被告が主張している無効理由が解消されること,
(iii)被告製品が当該訂正後の請求項に係る考案の技術的範囲に属すること

 と判示しました。


 その理由として、本判決中では、

『(1)実用新案権による権利行使を主張する当事者は,相手方において,実用新案法30条,特許法104条の3第1項に基づき,当該実用新案登録が無効審判により無効にされるべきものと認められ,当該実用新案権の行使が妨げられるとの抗弁の主張(以下「無効主張」という。)をしてきた場合,その無効主張を否定し,又は覆す主張(以下「対抗主張」という。)をすることができると解すべきである最高裁判所平成18年(受)第1772号同20年4月24日第一小法廷判決参照)。』

 と述べられています。


 さて、本判決文中で引用されている最高裁判決、

●『平成18(受)1772 特許権に基づく製造販売禁止等請求事件「ナイフの加工装置」平成20年04月24日 最高裁判所第一小法廷』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20080424152947.pdf)を引用している判決としては、確か、2つあります。


 その内の一つの、昨年の9/01の日記(http://d.hatena.ne.jp/Nbenrishi/20080901)で取上げた、
●『平成20(ネ)10019 特許権侵害差止等請求控訴事件 特許権 民事訴訟不定形耐火物の吹付け施工方法」平成20年08月28日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20080829152128.pdf)では、


『ア まず,上記各訂正審判請求の内容を検討すると,平成20年7月17日の各訂正審判請求は,本件各特許の無効理由を解消するものとは認められず(原告も,同訂正審判請求を取り下げている。),上記平成20年8月20日の各訂正審判請求は,これが認められる蓋然性は極めて低いものと判断できる。


 また,上記各訂正審判請求に係る訂正後の特許請求の範囲の請求項1を前提として,被告製品が,同請求項1に記載された各発明の使用に用いる物であってその発明による課題の解決に不可欠なものであるかを検討すると,本件記録に照らして,被告方法が上記各発明の技術的範囲に含まれることを認めるに足りる証拠は見当たらない。


 そして,技術的範囲に含まれるか否かの点について,原告に主張立証を補充する機会を与えるとするならば,原告と被告との間の本件各特許権の侵害に係る紛争の解決を著しく遅延させることとなると解すべきである。


イ 仮に,上記平成20年8月20日の各訂正審判請求が認められ,訂正審決が確定するという事情が生じることを想定した場合には,当審のした判断を覆す主張をする余地が生じ,また,たとえ判決が確定した後においても,民訴法338条1項8号所定の再審事由に当たる余地が生じ得ることになる。


 しかし,仮にそのような事情が生じたとしても,原告が,そのような事後的事情変更を理由として,当審のした判断を覆す主張をすることは,特許法104条の3の規定の趣旨に照らして許されないというべきである。


 その理由は,特許法104条の3第1項の規定が,特許権侵害訴訟において,当該特許が特許無効審判により無効にされるべきものと認められることを特許権の行使を妨げる事由と定め,無効主張をするのに特許無効審判手続による無効審決の確定を待つことを要しないものとしているのは,特許権の侵害に係る紛争をできる限り特許権侵害訴訟の手続内で解決すること,しかも迅速に解決することを図ったものと解され,また,同条2項の規定が,同条1項の規定による攻撃防御方法が審理を不当に遅延させることを目的として提出されたものと認められるときは,裁判所はこれを却下することができるとしているのは,無効主張について審理,判断することによって訴訟遅延が生ずることを防ぐためであると解され,このような同条2項の規定の趣旨に照らすと,無効主張のみならず,無効主張を否定し,又は覆す主張(以下「対抗主張」という。)も却下の対象となり,特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正を理由とする無効主張に対する対抗主張も,審理を不当に遅延させることを目的として提出されたものと認められれば,却下されることになるというべきであるからである(最高裁判所平成18年(受)第1772号事件・平成20年4月24日第1小法廷判決)。


 そして,本件においては,第1次無効審決A及びB,原判決,第2次無効審決A及びBにおいて採用された被告の無効主張は,いずれも乙40文献に開示された発明及び乙7文献に開示された発明との関係での進歩性の欠如であったことに照らすならば,原告は,被告の当該無効主張を排斥し又は覆すための対抗主張として,単に平成20年3月28日の訂正請求に基づく訂正A発明及び訂正B発明における無効理由の解消等を主張するばかりでなく,当審の口頭弁論終結前に,第2次無効審決A及びBの取消訴訟を提起し,本件各特許について特許請求の範囲の減縮等を目的とする訂正審判請求をするなどして,これに基づく対抗主張を行うことが可能であったというべきである。


 したがって,仮に,上記のような事情変更を想定したとしても,そのことを理由とした対抗主張を,適法な主張として審理をすることは,原告と被告との間の本件各特許権の侵害に係る紛争の解決を著しく遅延させることとなると解すべきである。


 と判示しています。


 また、昨年の10/11の日記(http://d.hatena.ne.jp/Nbenrishi/20081011)で取上げた、
●『平成19(ワ)2980 損害賠償請求事件 特許権 民事訴訟酵素によるエステル化方法」平成20年10月09日 大阪地方裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20081010095611.pdf)では、


3 訴訟の進行に関する補足説明

(3 ) 特許権者による訂正審判請求 は,特許法その他の法令上,その回数や期間に制限が設けられているわけではない(ただし,特許法126条2項参照)。


 他方,特許権侵害訴訟において当該特許が特許無効審判により無効とされるべきものと認められるときは,特許権者は,相手方に対しその権利を行使することができないとされているところ(特許法104条の3第1項の抗弁),訂正審判請求がされ,同訂正審判請求が訂正要件を満たす場合において,それによって当該特許の無効理由が解消すると認められれば,当該特許が「特許無効審判により無効にされるべきものと認められるとき」には当たらないことになるので,特許法104条の3第1項の抗弁は認められないことになる(訂正の再抗弁)。


 ところで,特許権侵害訴訟において,特許無効審判手続による無効審決の確定を要せず,特許法104条の3第1項の抗弁(以下「無効主張」という。)をもって,特許権に基づく権利行使の制限を認めているのは,特許権の侵害に係る紛争をできる限り特許権侵害訴訟の手続内で,迅速に解決することを図ったものであると解される。


 そして,同条2項の規定が,同条1項の規定による攻撃防御方法が審理を不当に遅延させることを目的として提出されたものと認められるときは,裁判所はこれを却下することができるとしている趣旨は,無効主張について審理,判断することによって訴訟遅延が生ずることを防ぐためであると解される。


 このような同条2項の規定の趣旨に照らすと,無効主張のみならず,無効主張を否定し,又は覆す主張(以下「対抗主張」という。)も却下の対象となり,特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正を理由とする無効主張に対する対抗主張も,審理を不当に遅延させることを目的として提出されたものと認められれば,却下されることになるというべきである(最高裁平成20年4月24日第一小法廷判決・裁判所時報1458号153頁・民集62巻5号登載予定参照)。


 もっとも,本件においては,上記2回にわたる対抗主張が撤回された後,新たに具体的な対抗主張がされたわけではないので,それが時機に後れた攻撃防御方法として却下することができるか否か問題となるのではなく,そのような対抗主張をさせるために口頭弁論期日を続行すべきか否かの訴訟指揮の在り方が問題とされているものである。』


 と判示しています。


 つまり、上記最高裁判決およびこれら2件の知財高裁判決では、侵害訴訟において特許法104条の3の新設により、特許の無効の抗弁を認めて事件の早期の解決を認めるように改正した以上は、特許法104条の3の特許無効の抗弁に対する再抗弁である訂正審判や訂正請求もその趣旨に則り請求すべきであり、その趣旨に反する訂正審判および訂正請求は却下等の対象とする、とまで判示していますので、特許法104条の3の特許無効の抗弁に対する再抗弁としての訂正審判や訂正請求も濫用が許されず、注意が必要です。