●平成23(ネ)10002 特許権侵害差止等請求控訴事件 特許権「餅」

 本日は、『平成23(ネ)10002 特許権侵害差止等請求控訴事件 特許権 民事訴訟「餅」平成24年3月22日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20120403101725.pdf)について取り上げます。


 本件は、特許権侵害差止等請求控訴事件で、本件控訴が認められ原判決が取り消された事案です。


 つまり、知財高裁(第3部 裁判長裁判官 飯村敏明、裁判官 八木貴美子、裁判官 知野明)は、


 本件では、まず、(4)被告の損害不発生の主張および(5)特許権侵害について被告に故意,過失がないとの主張についての判断が参考になるかと思います。


『(4)被告の損害不発生の主張について

 被告は,本件発明は,サイドスリットによって,「膨化」の位置を特定し,同所において「膨化」させて,餅の上下を分離し,焼き上がりを最中のような形状や焼きはまぐりができあがりつつあるような形状とするものであるのに対し,被告製品は,上下面のスリットによって,水蒸気を外部に逃がし,餅全体の膨張をコントロールし,餅全体をふっくら膨張させようとするものであり,側面スリットはそのための補助にすぎず,上下面の十字スリットが必須の構成であるから,被告製品(別紙物件目録1ないし5)の製造販売は,実質的に本件特許権を侵害するものではなく,原告に損害は発生していないと主張する。


 しかし,被告の上記主張は,以下のとおり採用の限りでない。すなわち,中間判決の「事実及び理由」欄の「第3当裁判所の判断」1(中間判決9頁5行目ないし24頁1行目)のとおり,方形の切餅は,通常は,最も広い面を載置底面として焼き上げるのが一般的であるが,そのような態様で載置しない場合もあり得ることを考慮すると,「立直側面である側周表面」の記載のみでは,必ずしも,一義的に全ての面を特定することができない(中間判決別紙「原告提出の参考図面」参照)。


 例えば,「立直側面である側周表面」に切り込み部又は溝部を設ける趣旨で製造等された餅であっても,当該面を載置底面ないし平坦上面にして載置すると,「立直側面である側周表面」に切り込み部ないし溝部が存在しない状態となる可能性を否定することができない。そのような点に鑑みると,本件発明の構成要件Bにおける「載置底面又は平坦上面ではなくこの小片餅体の上側表面部の立直側面である側周表面」との記載のうち「載置底面又は平坦上面ではなく」との記載は,載置状態との関係を示して,「側周表面」を,明確にする趣旨で付加された記載であると解するのが合理的であり,載置底面又は平坦上面に切り込み部又は溝部を設けることを排除する趣旨で付加された記載とはいえない。


 また,本件明細書の発明の詳細な説明欄の記載によれば,本件発明の作用効果としては,?加熱時の突発的な膨化による噴き出しの抑制,?切り込み部位の忌避すべき焼き上がり防止(美感の維持),?均一な焼き上がり,?食べ易く,美味しい焼き上がり,が挙げられており,本件発明は,切餅の立直側面である側周表面に切り込み部等を形成し,焼き上がり時に,上側が持ち上がることにより,上記?ないし?の作用効果が生ずるものと理解することができる。さらに,周方向の切り込み等による上側の持ち上がりが生ずる限りは,本件発明の上記作用効果が生ずるものと理解することができ,発明の詳細な説明欄において,載置底面又は平坦上面に切り込み部を設けることを排除した記載はない。


 以上を前提として,被告製品の形状をみると,別紙被告製品図面(斜視図)のとおり,上面17及び下面16に,切り込み部18が上面17及び下面16の長辺部及び短辺部の全長にわたって上面17及び下面16のそれぞれほぼ中央部に十字状に設けられ,かつ,上面17及び下面16に挟まれた側周表面12の長辺部に,同長辺部の上下方向をほぼ3等分する間隔で長辺部の全長にわたりほぼ平行に2つの切り込み部13が設けられていることが認められる。


 そうすると,被告製品は,切り込み部13が対向二側面である側周表面12の長辺部に形成されており,焼き上げるに際して切り込み部13の上側が下側に対して持ち上がり,最中やサンドウイッチのように上下の焼板状部の間に膨化した中身が挟まれている状態に膨化変形することで膨化による外部への噴き出しを抑制する構成となっているものと認められる。また,切餅の載置底面又は平坦上面に切り込み部が設けられていると,焼き上げるに際して,上記切り込み部において若干の膨化変形が生じるとしても,本件発明の構成要件Dの「焼板状部」に該当するものといえる。


 以上のとおり,被告製品は,本件発明の構成要件を全て充足するのみならず,本件発明の作用効果も奏するものであり,実質的にみても本件特許権を侵害するものであり,原告に損害が発生しているものと認められるから(原告が本件特許を自ら実施していることは当事者間において争いがない。),被告の上記主張は採用することができない。


(5)特許権侵害について被告に故意,過失がないとの主張について

 被告製品(別紙物件目録1ないし5)は本件発明の構成要件を全て充足し,本件発明の技術的範囲に属すること,本件特許は特許無効審判により無効にされるべきものとは認められないことは,中間判決の「事実及び理由」欄の「第3当裁判所の判断」1及び2(中間判決9頁5行目ないし38頁24行目)のとおりである。


 以上によれば,被告は,本件特許権の侵害行為について過失があったものと推定される(特許法103条)。


 これに対し,被告は,?特許庁による判定及び原審において,被告製品は本件発明の技術的範囲に属しないとされたこと,?本件特許に係る無効審判請求事件において,本件特許の構成要件Bの「載置底面又は平坦上面ではなくこの小片餅体の上側表面部の立直側面である側周表面に,・・・切り込み部又は溝部を設け」るとは,「載置底面又は平坦上面に切り込みを設けず,上側表面部の立直側面である側周表面に,切り込み部又は溝部を設け」ることを意味すると認定されていること,?本件特許の分割特許(特許第4636616号)に関する判定において,被告製品が上記特許に係る発明の技術的範囲に属しないとされたことなどを理由に,被告製品が本件発明の技術的範囲に属しないと信ずるにつき相当な理由があったと主張する。


 しかし,被告の上記主張は失当である。すなわち,特許庁の判定制度は,法的拘束力がなく,上記分割特許は本件特許とは異なることからすれば,上記各判定の結果に基づいて被告製品を製造販売した被告の行為について,過失がなかったとすることはできない。また,原審において,被告製品が本件発明の技術的範囲に属しないと判断されたとしても,原審の判断をもって,被告製品は本件発明の技術的範囲に属しないと信ずるにつき相当の理由があったとすることはできない。さらに,本件特許に係る審決についても,これをもって,被告製品が本件発明の技術的範囲に属しないと信ずるにつき相当の理由があったとする根拠にはならない。


 したがって,被告には,被告製品(別紙物件目録1ないし5)の製造・販売による本件特許権侵害に関して,少なくとも過失が認められる。』

 と判示されました。