●平成22(行ケ)10172 審決取消当事者参加事件 特許権 行政訴訟

 本日は、『平成22(行ケ)10172 審決取消当事者参加事件 特許権 行政訴訟「1−アリールピラゾールまたは1−ヘテロアリールピラゾールによる社会性昆虫個体群の防除方法」平成23年02月14日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20110215100314.pdf)について取り上げます。


 本件は、拒絶審決の取消を求めた審決取消当事者参加事件で、当事者参加人の請求が棄却された事案です。


 本件では、リパーゼ最高裁判決(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/js_20100319121136269707.pdf)の原則を引用しての、当事者参加人主張の取消事由に対する判断が参考になるかと思います。


 つまり、知財高裁(第1部 裁判長裁判官 中野哲弘、裁判官 東海林保、裁判官 矢口俊哉)は、


『4 当事者参加人主張の取消事由に対する判断

 当事者参加人は,本願発明1(請求項1)に関する審決の誤りを取消事由1及び2において,本願発明2(請求項2)に関する審決の誤りを取消事由3及び4において,それぞれ主張しているが,本願発明1についての審決の説示が正当として是認できるかどうかはともかく,本願発明2についての審決の説示は次に述べるとおり,正当として是認できるものである。


(1) 取消事由3(本願発明2と引用発明2との相違点の看過−その1)について

ア当事者参加人は,本願明細書の発明の詳細な説明には,前記2(1)ア,ウ,オないしコ,シ,スの摘示及び実施例1に,蟻個体群を撲滅ないし防除する方法に係る発明が記載されており,特許法上,特許請求の範囲の記載は,特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであることが要求される(特許法36条6項1号),言い換えれば,特許請求の範囲に記載した発明は,発明の詳細な説明に記載したものと同一でなければならないので,本願発明2における「同種の個体群と共に生活する共同の巣または生息場所を有する蟻」は,「同種の個体群と共に生活する共同の巣または生息場所に存する蟻」と同義であって,そのように解すべきと主張するので,以下検討する。


特許の要件を審理する前提としてされる特許出願に係る発明の要旨の認定は,特許請求の範囲の記載の技術的意義が一義的に明確に理解することができないとか,あるいは一見してその記載が誤記であることが発明の詳細な説明の記載に照らして明らかであるなど,発明の詳細な説明の記載を参酌することが許される特段の事情のない限り,特許請求の範囲の記載に基づいてされるべきである最高裁判所平成3年3月8日第二小法廷判決・民集45巻3号123頁参照)。


 以上を前提とした場合,まず,本願発明2の「同種の個体群と共に生活する共同の巣または生息場所を有する蟻」との記載は,その技術的意義は明確である。


 そして,「同種の個体群と共に生活する共同の巣または生息場所を有する蟻」と「同種の個体群と共に生活する共同の巣または生息場所に存する蟻」とでは,前者が単に蟻の一般的性質を述べたにすぎないのに対し,後者は蟻の所在場所を限定していることになり,その意味が大きく異なるものであって,本願発明2の請求項における前者の記載が明らかな誤記であり,これを後者のように解すべきとする十分な根拠もない。


 確かに,本願明細書における前記2(1)の各記載からすれば,本願発明は,主として,社会性昆虫の個体群の防除を目的とするものといえ,本願明細書の発明の詳細な説明の当事者参加人指摘の部分には,蟻の個体群を防除する方法が記載されている。


 しかし,これらの部分は,本願発明1の「蟻個体群の防除の方法」に対応する記載であり,本願発明2の発明特定事項全体から判断して,前記2(1)サ(共同生息場所の外を通る蟻等の駆除に係る記載部分)が,本願発明2に対応する発明の詳細な説明の記載に該当する部分である。


 このように,本願明細書の発明の詳細な説明には,本願発明1に対応する部分も,本願発明2に対応する部分も,共に存在することから,本願発明2における「同種の個体群と共に生活する共同の巣または生息場所を有する蟻」との記載が一見して誤記であることが発明の詳細な説明の記載に照らして明らかであるとはいえず,発明の詳細な説明の本願発明1に対応する部分の記載をもって,本願発明2において防除の対象とする蟻を本願発明1と同様に解すべき旨の当事者参加人の主張は採用できない。


 なお,当事者参加人は,前記2(1)サに関しても,発明の詳細な説明中の当該記載の前後の文脈を併せて考慮すれば,当該記載が「同種の個体群と共に生活する共同の巣または生息場所に存する蟻」と同義であり,そのように解すべきであることも容易に理解し得ると主張している。


 しかし,前述のとおり,本願発明2についての請求項の記載は明確であり,また,本願発明2に対応する発明の詳細な説明の記載も存在することを勘案すると,当事者参加人の上記主張は採用できない。


 このほか,当事者参加人は,請求項2を引用する従属請求項における記載をもって,本願発明2につき「蟻個体群」の防除が記載されていると解すべき旨主張する。


 しかし,前述のとおり,本願発明2(請求項2)の記載は十分に明確であって,発明の詳細な説明の記載とも対応しているものであり,本願発明2(請求項2)の記載の意味を,従属請求項の記載のみに基づいて,文言上の意味と別異に解するのは妥当でない。


ウ以上のとおり,本願発明2は,共同生息場所の外に出現する蟻(個体群とは限らず,単数でもよい)の防除を目的とする発明であって,社会性昆虫である蟻の個体群の撲滅ないし防除を目的とするものであるとはいえない。』


 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照して下さい。