●平成22(行ケ)10229 審決取消請求事件「プラスチック成形品の成形

 本日は、『平成22(行ケ)10229 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「プラスチック成形品の成形方法及び成形品」平成22年12月28日 知的財産高等裁判所 』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20101228154841.pdf)について取り上げます。


 本件は、拒絶審決の取消を求めた審決取消請求事件で、その請求が認容された事案です。


 本件では、取消事由1(理由不備)において主引用例記載の発明を,従来周知の事項に適用することによって,本願発明の相違点に係る構成に想到することが容易であると判断することは、特許法157条2項4号に反し、違法であると判断した点で、参考となる事案かと思います。


 つまり、知財高裁(第3部 裁判長裁判官 飯村敏明、裁判官 齊木教朗、裁判官 武宮英子)は、

『1 取消事由1(理由不備)について

 当裁判所は,審決には,理由不備の違法があるから,審決は取り消されるべきであると判断する。その理由は,以下のとおりである。


 審決は,刊行物1(甲1)を主引用例として刊行物1記載の発明を認定し,本願発明と当該刊行物1記載の発明とを対比して両者の一致点並びに相違点1及び2を認定しているのであるから,甲2及び甲3記載の周知技術を用いて(併せて甲4及び甲5記載の周知の課題を参酌して),本願発明の上記相違点1及び2に係る構成に想到することが容易であるとの判断をしようとするのであれば,刊行物1記載の発明に,上記周知技術を適用して(併せて周知の課題を参酌して),本願発明の前記相違点1及び2に係る構成に想到することが容易であったか否かを検討することによって,結論を導くことが必要である。


 しかし,審決は,相違点1及び2についての検討において,逆に,刊行物1記載の発明を,甲2及び甲3記載の周知技術に適用し,本願発明の相違点に係る構成に想到することが容易であるとの論理づけを示している(審決書3頁28行〜5頁12行)。すなわち,審決は,「刊行物1記載の発明を上記周知のピンポイントゲート又はトンネルゲートを有する金型に適用し,本願発明の上記相違点1に係る構成とすることは,当業者であれば容易に想到し得たものである。」(審決書4頁19行〜21行)としたほか,「上記相違点1において検討したとおり,刊行物1記載の発明をピンポイントゲート又はトンネルゲートを有する金型に適用することが容易に想到し得るものである以上,本願発明の上記相違点2に係る構成は,実質的な相違点ではない。」(審決書4頁26行〜29行),「本願発明は刊行物1記載の発明を従来周知の事項に適用しただけの構成であることは,上記で検討したとおりである。」(審決書5頁5行〜7行),「刊行物1記載の発明を従来周知の事項に適用することの動機づけとなる従来周知の技術的課題(ウエルドラインやジェッティング等の外観不良の解消)があり,その適用にあたり阻害要因となる格別の技術的困難性があるとも認められない。」(審決書5頁8行〜11行)などと判断しており,刊行物1記載の発明を,従来周知の事項に適用することによって,本願発明の相違点に係る構成に想到することが容易であるとの説明をしていると理解される。


 そうすると,審決は,刊行物1記載の発明の内容を確定し,本願発明と刊行物1記載の発明の相違点を認定したところまでは説明をしているものの,同相違点に係る本願発明の構成が,当業者において容易に想到し得るか否かについては,何らの説明もしていないことになり,審決書において理由を記載すべきことを定めた特許法157条2項4号に反することになり,したがって,この点において,理由不備の違法がある。


 これに対し,被告は,審決では,本願発明について,当業者が刊行物1記載の発明,及び,従来周知の金型に基づいて容易に発明をすることができたと判断したと理解されるべきであり,刊行物1記載の発明と上記従来周知の金型とを組み合わせて1つの発明を構成するに当たり,刊行物1記載の発明を上記金型に適用しても,上記金型を刊行物1記載の発明に適用しても,組み合わせた結果としての発明に相違はないから,理由不備の違法はないと主張する。


 しかし,被告の上記主張は,採用の限りでない。


 すなわち,仮に,審判体が,本願発明について,当業者であれば,金型に係る特定の発明を基礎として,同発明から容易に想到することができるとの結論を導くのであれば,金型に係る特定の発明の内容を個別的具体的に認定した上で,本願発明の構成と対比して,相違点を認定し,金型に係る特定の発明に,公知の発明等を適用して,上記相違点に係る本願発明の構成に想到することが容易であったといえる論理を示すことが求められる。


 金型に係る特定の発明を主引用例発明として用い,これを基礎として結論を導く場合は,刊行物1記載の発明を主引用例発明として用い,これを基礎として結論を導く場合と,相違点の認定等が異なることになり,本願発明の相違点に係る構成を容易に想到できたか否かの検討内容も,当然に異なる。


 そうすると,刊行物1記載の発明を主引用例発明としても,従来周知の金型を主引用例発明としても,その両者を組み合わせた結果に相違がないとする被告の主張は,採用の限りでない。


2 結論

 以上によれば,原告の取消事由1(理由不備)に係る主張は,理由がある。

 被告が縷々主張する点は,いずれも理由がない。よって,その余の取消事由について判断するまでもなく,審決を取り消すこととし,主文のとおり判決する。』


 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照してください。


 なお、本件といい、昨日取り上げた●『平成22(行ケ)10187 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「伸縮可撓管の移動規制装置」平成22年12月28日 知的財産高等裁判所 』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20101228153609.pdf)といい、または知財高裁第3部が進歩性について判断した過去の判決例http://d.hatena.ne.jp/Nbenrishi/20101017からして、知財高裁第3部は、進歩性の判断については、特許庁審判部に対して、明確ないしは厳格な判断手順(プロセス)を求めるような印象を受けます。