●平成20(行ケ)10338 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟

 本日は、『平成20(行ケ)10338 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「ダイセット及びダイセットの製造方法」平成21年07月29日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20090729163218.pdf)について取り上げます。


 本件は、拒絶審決の取消を求めた審決取消請求事件で、その請求が認容された事案です。


 本件では、審決に理由記載が要求される趣旨についての判示事項が参項になるかと思います。


 つまり、知財高裁(裁判長裁判官 飯村敏明、裁判官 大須賀滋、裁判官 齊木教朗)は、


1 審決に理由記載が要求される趣旨について

 特許法157条2項には,審決は,審決の結論のみならず結論に至った理由を文書に記載する旨が規定されている。特許法が,審決書に理由の記載を要求した趣旨は,(i)審決における判断の合理性等を担保して恣意を抑制すること,(ii)審決の理由を当事者に知らせることによって,取消訴訟(不服申立)の要否等を検討するため,当事者に対する便宜を図ること,(iii)理由を文書に記載することによる事実上の結果として,公正かつ充実した審判手続が確保されること等によるものである。


 特に,審決において,特許法29条2項所定の要件を充足すると判断する場合には,その性質上,客観的な証拠(技術資料)に基づかない認定や論理性を欠いた判断をする危険性が常に伴うものである。


 したがって,審決書における「審決の理由」には,事実認定が証拠によって適切にされ,認定事実を基礎とした結論を導く過程が論理的にされている旨客観的に説示されていることが必要であり,後に争われる審決取消訴訟においても,その点に関して,吟味,判断するのに十分な内容であることが不可欠といえる。


 上記の観点から,本件審決を検討する。


(1) 本願発明と引用発明1の各特徴


 ・・・省略・・・


(2) 審決に記載された理由の概要

 審決が法29条2項に該当すると判断した理由は,前記第2の3の(1)のとおりである。すなわち,

(i) 本願発明と引用例発明1とは,前記(1)のアの(iii)において一致する。
(ii) 他方,本願発明と引用例発明1とは,前記(1)のアの(i),(ii)において相違する,
(iii) 相違点の中の,前記(1)のアの(ii)の「案内体が1本であること」に関しては,周知例1ないし4に開示されている,
(iv) 相違点の中の,前記(1)のアの(ii)の「片持ち梁であること」及び前記(1)のアの(i)の「直交」については,引用例発明2に開示されている,
(v) 引用例発明1と引用例発明2とは,発明の対象が共通しているから,組み合わせることが容易である,


 したがって,本願発明は,特許法29条2項に該当するというものである。


(3) 判断

 本願発明は,前記(1)のアの(i),(ii),(iii)の各構成のすべてを備えた,一つのまとまった技術的思想からなる発明である。


 これに対し,引用例発明1は,その中の一つの構成である(iii)のみを共通にする発明にすぎず,(i)及び(ii)(「直交」,「案内体の本数」,「片持ち梁」)の3点については,構成を有しない。


 審決は,本願発明中の各相違点に係る構成は,周知例や引用例発明2に示されている技術であると説示している。


 しかし,審決では,本願発明と一つの技術的構成においてのみ一致し,複数の技術的構成において,実質的相違が存在し,その課題解決も異なる引用例発明1を基礎として,本願発明に到達することが容易であるとする判断を客観的に裏付けるだけの説示は,審決書に記載されているとはいえない。


 ・・・省略・・・


 以上のとおり,本件における審決書に記載された具体的な理由は,特許法157条2項が審決書に理由記載を求めた趣旨,すなわち,審決における判断の合理性等を担保して恣意を抑制すること,客観的な証拠(技術資料)に基づかない認定や論理性を欠いた判断をする危険性を排除するとの趣旨に照らして,十分な説示がされているとはいえない。


 したがって,審決の取消事由に関する原告の主張(とりわけ,取消事由2に係る主張)は,理由がある。』


 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照して下さい。