●平成21(行ケ)10158 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟

 本日は、『平成21(行ケ)10158 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「局所微量栄養素送達システムおよびその用途」平成22年03月30日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20100330155948.pdf)について取り上げます。


 本件は、拒絶審決の取消しを求めた審決取消訴訟で、その請求が棄却された事案です。


 本件では、特許法36条4項の要件についての判断が参考になるかと思います。


 つまり、知財高裁(第3部 裁判長裁判官 飯村敏明、裁判官 大須賀滋、裁判官 齊木教朗)は、


「当裁判所は,本願明細書の発明の詳細な説明には,請求項1,11に係る発明の「補助エステル」の特定に関し,当業者が,同発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分な記載はないので,本件審決には,少なくとも,原告の主張に係る取消事由2及び5の違法はないと判断する。その理由は,以下のとおりである。


(1) 本願明細書の発明の詳細な説明の記載

 ・・・省略・・・

(2) 判断

ア本願発明に係る「補助エステル」の特定

 本願明細書には,本願発明による課題解決をするに当たり,当業者において,本願発明で規定したLogP値の範囲内の化合物群の中から,どのような補助エステルを選定すべきかについて,明確かつ十分な記載がされていないと解される。その理由は,以下のとおりである。


 すなわち,エステル化合物については,原告が書証として提出する皮膚外用剤に関する文献について見ただけでも,例えば,甲4の10には,パラヒドロキシ安息香酸エステル類の例が挙げられ,アルコール残基の炭素数1ないし12のエステルとしてメチルパラベン等12種類のエステル化合物が示され,甲4の8には,皮膚軟化剤(25頁,26頁),浸透向上剤(26頁〜29頁),乳化剤(30頁〜34頁),他の化粧品用添加剤(43頁,44頁)として,多種のエステル化合物が示されているように,多種多様なものを含む。


 なお,本願発明の「補助エステル」について,親油性に関してLogP値がニコチン酸アルキルエステルのLogP値より小さく,その差がLogP値において0.5ないし1.5との条件を充足するエステルとの限定がされている。


 しかし,本願明細書の【0026】【表1】記載の,微量栄養素としてのニコチン酸アルキルエステルだけでも,LogP値1.0の幅の中に複数の炭素原子数のニコチン酸アルキルエステルが含まれることから明らかなように,本願明細書の補助エステルに関するLogP値(0.5〜1.5)を満たすエステル化合物は,膨大な種類のものを含む。


 ところで,発明の詳細な説明の【0020】では,「栄養素をヒトに送達する」という解決課題を達成するためには,補助エステルは,(i)プロ栄養素の角質層からのフラックス(透過性)が類似するという性質と,(ii)生物変換に関してプロ栄養素と効果的に競合するという性質の両者が必要であると記載されている。このうち,(ii)の生物変換に関して微量栄養素(プロ栄養素)と効果的に競合するという性質は,請求項1,11で規定されたLogP値の範囲の補助エステルのすべてが当然に備えているものではなく,当業者が,試行錯誤を繰り返して,生物変換に関して微量栄養素と効果的に競合する補助エステルを選別しない限り,本願発明の目的を達成することができず,本願明細書には,その選別を容易にするための記載はない。


 この点について,原告は,補助エステルが,LogP値の範囲内であれば,すべて,前記?の性質を有するように主張するが,同主張は根拠を欠くものであって,採用できない。

 ・・・省略・・・

(3) 小括

 以上のとおり,本願発明1,2を実施しようとする当業者は,本願発明のLogP値を満たし,かつ生物変換に関して微量栄養素(プロ栄養素)と効果的に競合する補助エステルを選択するためには,過度の試行錯誤を要することになる。本願明細書の発明の詳細な説明は,当業者が,発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえない。

 本願発明1及び2について,特許法36条4項の要件を満たさないとした審決の判断に誤りはなく,原告主張に係る取消事由は理由がない。原告は,同項の違反について,その他縷々主張するが,いずれも理由がない。


2 結論

 したがって,審決のその余の判断の当否について検討するまでもなく,本件審判請求が成り立たないとした審決の判断に取り消すべき違法はない。よって,原告の本訴請求は理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。