●平成17年(行ケ)第10345号 審決取消請求事件 水溶性ポリ

 今日は、『平成17年(行ケ)第10345号 審決取消請求事件 水溶性ポリペプタイドのマイクロカプセル化 知財高裁』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/8408D6BEBD05A5514925709800071DD5.pdf)について取り上げます。


 本事件を取り上げたのは、1/18に出された
『平成17(行ケ)10726 審決取消請求事件 特許権 「酸不安定化合物の内服用製剤」 平成19年01月18日 知財高裁』
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070119155244.pdf)、
『平成17(行ケ)10725 審決取消請求事件 特許権 「胃酸分泌抑制剤含有固形製剤」 平成19年01月18日 知財高裁』
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070119155006.pdf)、
『平成17(行ケ)10724 審決取消請求事件 特許権 「ピリジン誘導体及びそれを含有する潰瘍治療剤」 平成19年01月18日 知財高裁』
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070119154530.pdf

の3件の判決文の中で、


『(1) 本件の争点
  特許法67条2項の「その特許発明の実施について…処分…を受けることが必要である」との文言は「物(有効成分)と用途(効能・効果)という観点から処分を受けることが必要であったことと解すべきであり本願に係る処分における「用途」と先の処分に係る「用途」が同一である場合には,特許発明の延長登録は認められない(当庁平成17年10月11日判決・平成17年(行ケ)第10345号(最高裁HP登載)参照。)本件では,この解釈について当事者間に争いはなく,主たる争点は,先の処分に係る「用途」と本件処分に係る「用途」が同一であるかどうかである。』

と参照され、気になったからです。


 本件は、特許権存続期間の延長登録出願の拒絶審決の取消しを求めた審決取消訴訟で、原告の請求は棄却された事案です。


 知財高裁は、

『1 特許権の存続期間の延長制度に関する規定の解釈について

 ・・・

 2 審決の判断の当否について
 以上の解釈に基づいて検討する。

 (1) 証拠(甲2,3)及び弁論の全趣旨によれば,下記の審決の事実認定は,是認し得るものである(原告も認定自体を争う趣旨ではない。)。


 すなわち,本件特許発明は,詳細は前記のとおりであるが,酢酸ブセレリンを有効成分とするマイクロカプセルとして調整された医薬組成物に関するものである。


 そこで,平成10年12月25日に本件処分(第2処分)がされたが,その対象となった物は,「販売名 スプレキュア MP1.8(酢酸ブセレリン徐放性製剤)」であるところ,活性成分である酢酸ブセレリンを製剤化した品目であって,処分における「有効成分」は,酢酸ブセレリンであって,処分の対象となった「物」は酢酸ブセレリンであり,また,その「用途」は,子宮内膜症と,子宮筋腫の縮小及び子宮筋腫に基づく過多月経,下腹痛,腰痛,貧血の諸症状の改善であった。一方,酢酸ブセレリン製剤のスプレキュアにつき,点鼻液の剤型で昭和63年6月28日に子宮内膜症に対するものとして承認され,平成4年3月27日に子宮筋腫につき適応症追加承認となった。


 (2) 以上の事実関係によれば,確かに,酢酸ブセレリンを有効成分とするマイクロカプセルとして調整された医薬組成物という本件出願に係る特許発明の実施をすることができなかったとはいい得る。しかしながら,昭和63年6月28日には,酢酸ブセレリンを物(有効成分)とし,子宮内膜症及び子宮筋腫(後者については平成4年3月27日に追加承認)に対する用途(効能・効果)によって薬事法上の承認がされていたのであるから,本件特許発明の実施のために「物(有効成分)と用途(効能・効果)という観点から(第2の)本件処分を受けることが必要であった」ということができない。薬事法上の(第2の)処分が改めて必要であった理由は,物(有効成分)と用途(効能・効果)というレベルではなく,剤型を異にするからであるにすぎない。


 よって,本件出願が法67条の3第1項1号に該当するので,拒絶すべきものであるとした審決の判断は,是認し得るものである。』

と判示されました。



 「1 特許権の存続期間の延長制度に関する規定の解釈について」は省略しましたが、知財高裁の考え方が説明されていますので、興味のある方は本判決文を参照して下さい。



 次に、知財高裁は、「3 原告及び原告補助参加人の主張について」、

『(1) 審決の結論は,前判示のとおり,正当である。

 ただ,審決は,その法令解釈を論じるにつき,平成7年事件判決及び平成10年事件判決に多くを依拠していることは否定できない。しかし,両事件の事案は,原告及び原告補助参加人が指摘するとおり,第1の処分により,現に延長の出願に係る特許発明の実施をすることができていた事案であることなどの点において,本件とは事案を異にする点があるのであって,両判決の用いた論理のみによって本件に関する論理を展開するのは適当ではなく,特許法薬事法との関係法文の対比,法文の用いている用語,法文の相互の関係,立法の経緯その他を広く参酌して,法令の解釈論を展開すべきものであり,審決には,本件を解決するための結論を導く上で,上記両判決の事案とその論理にやや依拠しすぎたことにより,その論脈や説示の一部に不適切なところのあることは否定し得ないものの,その基本的な推論と結論に誤りがあるわけではないから,審決を取り消すべきことにはならない。


 (2) この点に関連し,原告補助参加人は,前記第4,4のとおり,審決取消訴訟の審理範囲を逸脱すると主張する。


 しかし,本件での中心争点は,一貫して,存続期間延長をめぐる特許法の解釈であるから,仮に,審決における法令解釈の理由の説示過程に採用し得ない部分があるとしても,結論において正当である限り,裁判所の解釈,判断を示した上,審決を維持し得るものというべきである(特許庁が技術面の専門的知識を有する官庁であることを考慮しても,法令解釈の理由の説示過程に誤りがあることを理由に,特許庁に審理をやり直させるべき理由は存在しない。)。


 (3) 原告及び原告補助参加人らは,マイクロカプセル製剤が画期的な発明であることを主張する。


 確かに,剤型に関する構成においても,発明として価値の高いものがあることは予想されないではない。しかし,前判示のとおり,特許法の規定は,少なくとも,薬事法14条1項の承認の対象となる医薬品に関しては,物(有効成分)と用途(効能・効果)という観点から処分の要否をとらえるものとして立法しているのであり,仮に,剤型の点を重視して存続期間の延長を認める必要があるとしても,それは立法論の域を出ないものというほかない(なお,立法過程における議事録(乙7の1・2)や条文の起草担当者らの解説(乙4)に照らして,立法の趣旨を推察しても,「新薬開発の保護」が眼目とされ,具体的な剤型の発明の保護が念頭にあったとは考え難い。)。


 (4) 原告及び原告補助参加人の前記法令解釈のうち,既に判示した解釈に反するものは,採用することができない。


 確かに,平成7年事件や平成10年事件などは,第1の処分により,特許発明の実施は可能であったが,本件においては特許発明は,第1の処分によっては,実施できていない。


 しかし,特許発明が実施できないことから直ちに存続期間の延長を認める規定となっているものではないことは,既に判示したとおりである。そして,平成7年事件や平成10年事件において特許発明の一部の実施が可能であったのは,製法に関する特許又は化合物に関する特許という,いわば広いクレームの特許発明であったために,剤型の違いに左右されず,第1の処分により特許発明の実施が一部可能であった。一方,本件では,そのような特許発明ではなく,剤型レベルまで細かく規定された,いわば狭いクレームであったために,第1の処分における物(有効成分)と用途(効能・効果)というレベルでは共通しても,剤型を異にするがために実施できなかったものと解される。


 したがって,原告及び原告補助参加人の主張の真意であるかはともかく,その主張によれば,イオニア的な新薬の製法ないし化合物に関する特許発明ほど,各剤型を開発するごとに存続期間を延長することは認められにくく,逆に,剤型レベルの特許としておくことで,有効成分や効能・効果が既に薬事法で承認されたものであっても,個々の剤型ごとに延長を受けられるという結果になるという,被告の指摘には,的を射たものがあるといわざるを得ない。


 また,外国の立法例は,直ちに我が国の特許法の解釈の結論を導くものではないが,米国及び欧州における法令に照らしてみた場合,本件特許発明の存続期間の延長と同じ結果を得ることは,米国及び欧州においては認められないことが明らかである(乙5の1・2,6の1・2。)。なお,原告もそのこと自体は争う趣旨ではなく,あくまでも我が国の特許法の規定についての解釈として前記のように主張するものである。


 なお,当裁判所は,前判示のとおりに特許法等の解釈をすべきものと判断するが,本訴における原告や原告補助参加人が主張するような解釈が生じるのは,前記の特許法の規定が曖昧さを含んでいることに起因するところが大きいものと推察される。明確な定義規定や疑義を解消し得る詳細な規定を有する欧米の立法例に比べて問題があることは否めない。


 特に,立法当初は,薬事法農薬取締法以外にも政令で適用分野を拡大する余地があるものと考えられていたものと推測され,そのために法律自体は,これに対応し得るように,一般的な規定となっていることは既に指摘したとおりである。しかし,そのために規定が曖昧になっていることは否定できない。


 当裁判所の解釈が,延長の要件や拒絶事由に関する規定そのものから直ちに説き起こすのではなく,延長された結果の特許権の効力に関する法68条の2の規定から説き起こさざるを得なかったのも,薬事法14条1項の承認の対象となる医薬品に関する重要な事項が,明文としては法68条の2にのみ見いだされたからであり,この点が医薬品に関する特許の存続期間延長規定全体の解釈を貫く重要な規律であるにもかかわらず,専ら,特許法施行令,特許法施行規則さらには特許庁のQ&Aという実務の運用レベルでの指導に委ねられ,法律の規定としては,曖昧な部分を含んだままになっていることに問題の根源があることは否定できない。


 しかし,そうだからといって,原告及び原告補助参加人の主張を正当として採用し得るわけではない。


 4 結論
 以上のとおり,原告主張の審決取消事由は理由がないので,原告の請求は棄却されるべきである。』

と判示されました。


 本件からすると、知財高裁は、特許法第67条2項(特許権の存続期間の延長制度)の規定の不合理および不備な点を明らかに認めていますので、もしかすると、将来、特許法第67条2項(特許権の存続期間の延長制度)が改正されるかもしれませんね。


 詳細は、上位判決文を参照して下さい。



 なお、本日の<気になったニュース>でも取り上げているように、米ファイザー社が1万人削減し 日本国内の研究所閉鎖を検討しているのも、医薬特許の存続期間の満了による後発医薬品の発売が関係しているとのことです。



追伸1;<新たに出された判決>
●『平成18(行ケ)10252 審決取消請求事件 特許権 有機エレクトロルミネッセンス表示装置およびその製造方法 平成19年01月23日 知財高裁』http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070122113854.pdf



追伸2;<気になったニュース>
●『ファイザー、1万人削減へ 愛知の研究所閉鎖を検討』
http://www.tokyo-np.co.jp/flash/2007012301000070.html
●『米ファイザー、人員1万人削減、日本の研究施設も閉鎖へ』
http://jp.ibtimes.com/article/company/070123/3775.html
●『ファイザー、1万人削減へ 愛知・武豊の研究所は閉鎖』
http://www.chunichi.co.jp/00/kei/20070123/eve_____kei_____002.shtml


●『平成18年度地域団体商標制度及び小売等役務商標制度説明会開催について』
http://www.jpo.go.jp/cgi/link.cgi?url=/torikumi/ibento/ibento2/h18_chiikidantai.htm
●『出願料など半額減免、大学生にも・経産省が改正案提出へ』
http://www.nikkei.co.jp/news/keizai/20070123AT3S2200M22012007.html
●『番組配信や検索サービスなど、新ビジネスを支える法整備や振興策を提言〜知的財産戦略本部・コンテンツ専門調査会』
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20070122-00000023-imp-sci
●『コンテンツ専門調査会企画ワーキンググループ(第4回)』
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/tyousakai/contents/kikaku4/4gijisidai.html


●『著作権侵害動画を即座に発見できるサービス、仏ベンチャー企業が開始 』
http://internet.watch.impress.co.jp/cda/news/2007/01/23/14537.html
●『音楽業界、デジタル事業の今後をめぐり二分』
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0701/23/news038.html
●『06年、中国税関が摘発した知産権侵害貨物額が2億元に』
http://www.xinhua.jp/newsdetails.aspx?newsid=P100006123&cate_id=310
●『海賊版は誰に損害を与えているのか』
http://www.people.ne.jp/2007/01/22/jp20070122_67135.html
●『ビートルズ生演奏で著作権軽視、バー経営者に有罪』
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20070123-00000401-yom-soci
●『無断生演奏は著作権侵害 飲食店経営者に有罪判決』
http://www.sankei.co.jp/shakai/jiken/070122/jkn070122012.htm
●『マイクロソフト、ソフト違法コピー撲滅キャンペーンに漫画を活用』
http://japan.cnet.com/news/tech/story/0,2000056025,20341228,00.htm


●『情報産業部:「IPTVの海外標準採用にはリスク」』
http://news.searchina.ne.jp/disp.cgi?y=2007&d=0115&f=it_0115_002.shtml
●『AVS:モバイルテレビでの採用狙い提携加速』
http://news.searchina.ne.jp/disp.cgi?y=2007&d=0112&f=it_0112_003.shtml


●『IBM独禁法違反で提訴される』
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20070123-00000034-zdn_n-sci
●『弁理士の仕事に理解を 彦根・平田小に3人が出前授業』
http://www.chunichi.co.jp/00/sga/20070124/lcl_____sga_____002.shtml