●平成18(ワ)18196 補償金請求事件 塩素含有樹脂の安定化法

  本日は、『平成18(ワ)18196 補償金請求事件 特許権 「塩素含有樹脂の安定化法」 東京地裁』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070118094906.pdf)について取り上げます。


 本件は、被告の従業員であった原告が,被告在職中に3件の職務発明を行い,これら職務発明に係る特許を受ける権利を被告に譲渡したとして,被告に対し,特許法35条3項に基づき,上記譲渡に対する相当の対価及び民法所定の遅延損害金の支払を求めた事案で、かかる請求権は消滅時効による消滅したと判断され、原告の請求は棄却された事案です。


 つまり、東京地裁は、

『1 消滅時効の成否について
(1) 消滅時効の起算点

ア 契約,勤務規則等によって職務発明について特許を受ける権利を使用者に承継させた場合,従業者は,対価の支払時期が契約,勤務規則等に定められていない限り,直ちに相当の対価の支払を請求することができるから,上記特許を受ける権利を承継させた時期が相当の対価についての消滅時効の起算点となる。


イ 前提事実(4)イ及びウのとおり,原告は,被告に対し,本件特許発明1及び3に係る特許を受ける権利を,それぞれ昭和62年4月1日及び平成4年2月18日に譲渡したものであり,仮に,原告が本件特許発明2の発明者であるとしても,原告は,遅くとも昭和63年3月2日までに本件特許発明2に係る特許を受ける権利が被告に譲渡された旨主張している。


ウ したがって,時効期間を5年と解した場合はもちろん,10年と解した場合であっても,相当の対価の支払時期を定めた契約,勤務規則等が存在しない限り,本件各特許発明についての相当対価の請求権は,時効消滅したものとなる。


(2) 原告の平成16年規程に基づく主位的主張について
ア原告は,主位的に,平成16年規程が原告に適用されることにより,被告
消滅時効を援用し得ない旨主張する。


イ(ア)  しかしながら,平成16年規程には,附則に「この規程は2004年4月1日より実施する」と規定されているが,その施行前に発明され被告に承継された発明の取扱いを明示的に定めた規定は設けられていない。
(甲11)


(イ) 平成16年規程の制定過程で,被告が同規程を施行前に被告に承継された発明についても遡及適用する意思を有していたことを窺わせる事実は認められない。
かえって,証拠(乙10)及び弁論の全趣旨によれば,被告の経営検討会議は,平成16年規程の制定につき検討した平成14年12月10日開催の会議において,平成16年規程の適用対象につき,その施行日以降に出願した発明から対象とする方向で検討していたことが認められる。


(ウ) さらに,平成16年規程を遡及的に適用すれば,被告の従業員によって過去に行われた発明すべてがその適用対象となりかねず,その場合,被告に非常に重い経済的・事務的な負担を生じるおそれがあるといわざるを得ない。


(エ)  これらの事情を総合的に考慮すると,平成16年規程においてその実施前に行われた発明の取扱いに関する規定等が設けられていないことをもって,同規程が施行前の発明にも適用される趣旨であるとは解することは到底できず,同規程は,同規程施行後の発明に適用されるべきものと認めるべきである。


 したがって,被告は,平成16年規程の制定により時効利益を放棄したものではないし,被告による消滅時効の援用が権利濫用に当たることもないから,原告の主位的主張は理由がない。


(3) 原告の本件就業規則58条に基づく予備的主張について

ア 原告は,予備的に,本件就業規則58条をもって職務発明についての規定と見るべきところ,特許として登録されるか否かが判明しない限り「業務上有益なる発明」に当たるか否かの判断ができないから,消滅時効は完成していない旨主張する。


イ 前提事実(5)イのとおり,本件就業規則58条において,「業務上有益なる発明」は,「永年誠実に勤続した者」又は「業務上有益なる…改良又は工夫,考案をなしたる者」などと同列のものとして位置付けられ,表彰対象として挙げられている。


 また,表彰の方式は,賞金の授与のほか,賞状又は賞品の授与とされている(同規則59条)。しかも,発明に係る特許を受ける権利等の譲渡は,表彰の要件とはされていない。


 また,上記「業務上有益なる発明」であるか否かは,その発明が特許を受けられることと必ずしも同義ではない。


 さらに,前提事実(5)イのとおり,本件就業規則第11章は,平成16年規程の施行後も,変更されることなく存続している。


 これらの事情によれば,本件就業規則58条は,恩典的な表彰について定めたものであるにとどまり,同条をもって,職務発明の取扱いに関する規定と解することはできないというべきである。


 したがって,原告の予備的主張は理由がない。


(4) まとめ
  以上のとおり,仮に本件特許発明2の発明者に原告が含まれるとしても,本件各特許発明に係る特許を受ける権利の譲渡による原告の相当対価請求権は,いずれも時効消滅したものである。


2 結論

 よって,原告の請求は,その余の点について判断するまでもなくいずれも理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。』

と判示されました。


 特許法第35条3項の対価(補償金)の消滅時効は、対価の支払時期が契約,勤務規則等に定められていない限り,特許を受ける権利を承継させた時期が相当の対価についての消滅時効の起算点となる、とのことです。



追伸1:<新たに出された判決>
●『平成18(ワ)10717 損害賠償請求事件 実用新案権 ハンドスクリーン捺染台用生地張り機 大阪地裁』
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070122113854.pdf



追伸2;<気になったニュース>

●『特許・技術取り込む買収に減税措置・産業再生法改正へ』
http://bizplus.nikkei.co.jp/genre/soumu/index.cfm?i=2007012106549b3
●『娯楽事業専門の弁護士育成を提言 知財戦略本部調査会』
http://www.sankei.co.jp/keizai/sangyo/070122/sng070122002.htm
●『なぜ実現しないネット放送--「品質論」唱える既得権益者の本音』
http://japan.cnet.com/column/pers/story/0,2000055923,20340814,00.htm
●『昔の番組ネット配信、承諾なくてもOK 著作権法改正へ』
http://www.asahi.com/digital/internet/TKY200701200318.html
●『米国の前例に見る著作権法延長の是非』http://plusd.itmedia.co.jp/lifestyle/articles/0701/22/news007.html
●『知的財産保護の到達点―保護強化の明と暗―』
http://www.ipnext.jp/event/houkoku/houkoku_detail0122_03.html
●『月例研究会(関東)』
http://www.lesj.org/contents/japanese/02_1getsu.html
●『知財マネジメントのあり方 ―若手知財人材の主張― vol.3 知的財産、育成中』
http://www.ipnext.jp/management/mot_r/vol3.html
●『バイドール法の沿革及び今後の課題』
http://www.ipnext.jp/event/houkoku/houkoku_detail0122_01.html


●『放医研、独バイエルにアルツハイマー病等のイメージング技術を供与(放射線医学総合研究所)』
http://www.ipnext.jp/news/index.php?id=701
●『日本農薬、画像診断薬関連特許を供与 』
http://www.chemicaldaily.co.jp/news/200701/22/02801_2121.html
●『22日日農薬が大幅高、アルツ診断薬特許を供与』
http://market.radionikkei.jp/meigara/20070122_06.cfm
●『<特許権侵害>瓦製造・販売の鶴弥、丸栄陶業を提訴 愛知』
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20070123-00000004-mai-soci



●『ベルギーの新聞団体、ヤフーを著作権違反で警告』
http://japan.cnet.com/news/biz/story/0,2000056020,20341165,00.htm
●『サン、インテル半導体の購入で間もなく合意=関係筋【WSJ】』
http://it.nikkei.co.jp/business/news/index.aspx?n=MMITaa000022012007
●『デジタルコンテンツは脅威ではない』--グーグルが出版社と対話』
http://japan.cnet.com/news/media/story/0,2000056023,20341118,00.htm
●『今注目の中国企業は誠実なトップがいる華為』
http://www.nikkeibp.co.jp/style/biz/china/mo/070122_top/
●中国知的財産法制度シンポジウム『中国商標法、反不正競争防止法の概要・改正状況について』
http://www.ipnext.jp/event/houkoku/houkoku_detail0122_02.html
●『【中国IT事情】中国検索市場は百度の一人勝ち』
http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/NEWS/20070122/259201/
●『低付加価値産業の下層に甘んじていた中国、「AVS」で局面打開を目指す』
http://journal.mycom.co.jp/news/2007/01/22/387.html
●『情報産業部:DRA音声圧縮技術を国家標準に認定』
http://news.searchina.ne.jp/disp.cgi?y=2007&d=0122&f=it_0122_002.shtml