●平成21(行ウ)696 特許出願却下処分取消請求事件

Nbenrishi2009-06-01

 本日は、『平成21(ウ)696 特許出願却下処分取消請求事件特許権 行政訴訟 平成21年04月28日 東京地方裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20090601164155.pdf)について取り上げます。


 本件は、原出願の拒絶査定後にされた特許の分割出願について,原出願の拒絶査定不服審判請求が法定期間を徒過してされたものであるため分割出願の要件を充たさないことを理由に,これを却下した処分が違法であるとして,その取消しを求め、その請求が棄却された事案です。


 つまり、東京地裁(民事第47部 裁判長裁判官 阿部正幸、裁判官 平田直人、裁判官 瀬田浩久)は,

『1 前記第2の1争いのない事実及び弁論の全趣旨によれば,本件原出願(平成9年4月25日出願)につき拒絶査定がされ,同査定の謄本が平成17年11月24日に原告の出願代理人に送達されたこと,特許庁長官は,同拒絶査定に対する不服審判の請求期限を特許法4条に基づき延長して拒絶査定の謄本の送達の日から90日としたこと,原告は,上記の不服審判の請求期限から約1か月を経過した平成18年3月23日に,上記拒絶査定につき不服審判を請求し(本件審判請求),同年4月24日に,本件原出願の分割出願として本件出願をしたこと,特許庁長官は,平成19年4月17日,本件審判請求が法定期間経過後の不適法な請求であり,明細書等を補正することができる期間が発生しないとして,本件出願を却下すべきものと認める旨の却下理由通知書を同月10日付けで発送し,同年7月19日,特許法18条の2第1項に基づき本件出願を却下する本件処分をしたこと,が認められる。


 本件出願に適用される平成18年改正前の特許法においては,特許出願の分割は,明細書等の補正をすることができる期間内に限り可能とされており(平成18年改正前の特許法44条1項),拒絶査定との関係では,拒絶査定謄本送達の日から30日以内(本件では特許法4条により90日に延長)に不服審判を請求することができ(平成20年改正前の特許法121条1項),審判請求の日から30日以内に補正をすることができるとされている(特許法17条の2第1項4号)。



 本件においては,上記のとおり,本件審判請求は,法定期間である90日を経過した後にされたもので不適法であり,その結果として拒絶査定は確定し,本件原出願は係属しなくなったものであるから,明細書等の補正をすることが可能な期間がそもそも発生しないというほかはない。


 そうすると,本件審判請求の後に行われた本件出願は,本件原出願の明細書,特許請求の範囲等について「補正をすることができる期間内」に行われたものではなく,分割出願を行うことができる期間内に行われたものということはできず,分割要件を充足しないものであって,不適法な分割出願であり,その補正をすることもできないから,特許法18条の2第1項に基づき却下されるべきものと解するのが相当である。


2 違法事由1について

(1)原告は,(i)本件審判請求の期間として定められた90日という期間は法定期間ではなく,特許庁の内部規定として定めている期間にすぎないこと,(ii)特許法135条の「却下することができる」との文言からみて,不適法な審判請求であっても却下するかしないかは裁量行為であること,(iii)平成20年改正により拒絶査定不服審判の請求期間が延長されたことにより,本件のような出願も適法とされることになったことから,少なくとも在外者に関しては拒絶査定不服審判の請求期間について厳格な運用は予定されておらず,期間の経過をもって直ちに不適法な審判請求としてその請求が却下されなければならないものではない旨主張する。


  しかしながら,前記のとおり,本件において,本件審判請求の期間として定められた90日間という期間は,特許法4条に基づいて特許庁長官が平成20年改正前の特許法121条1項に規定する期間を延長した法定期間であることが明らかである。特許庁がその内部規定である方式審査便覧において特許法4条に基づき職権により在外者に延長する期間を一律に60日と定めていることは,同期間を法定期間と解することを何ら妨げるものではないから,同期間が法定期間ではないとの原告の上記主張は失当である。


 また,本件処分の根拠規定である特許法18条の2第1項は,特許庁長官は,不適法な手続であってその補正をすることができないものについては,その手続を「却下するものとする。」と規定しており,その文言からみて却下するかしないかにつき裁量権が認められていると解することはできない。


 原告の引用する特許法135条の「却下することができる。」との文言は,不適法な審判請求につきこれを却下するかしないかの裁量権を認めたものではなく,審判事件に係る不適法な手続であってその補正をすることができないものを審判長が決定で却下することができることを定めている特許法133条の2等との対比において,不適法な審判請求については,審判合議体が審決で相手方に答弁書を提出する機会を与えないまま却下する権限を有する旨を規定したにすぎないと解するのが相当である。この点についての原告の上記主張も失当である。


 原告は,その主張の根拠として,平成20年改正により拒絶査定不服審判の請求期間が延長されたことを指摘する。しかしながら,同改正の附則において,平成20年改正の特許法の施行日である平成21年4月1日より前に謄本の送達があった拒絶査定に対する拒絶査定不服審判の請求については,なお従前の例によるものと定められており,本件のように平成17年11月24日に謄本の送達があった拒絶査定に対する拒絶査定不服審判の請求期間について平成20年改正法の適用がないことは明らかである。平成20年改正法により本件審判請求や本件出願が適法になると解すべき根拠はなく,原告の上記主張は失当である。


(2)原告は,平成18年改正前の特許法においては,拒絶査定を受けた後に分割出願を行うためには拒絶査定不服の審判請求を行う必要があったため,実務上,不要な審判請求を行い,分割出願をした後に,その審判請求を取り下げることが行われており,審判請求を取り下げても分割出願はそのまま適法に特許庁により受理されていたことから,審判請求手続と既に出願された分割出願を別個の手続として扱うべきであり,審判請求が不適法であっても,審判請求から30日以内にされ既に受理された分割出願までも不適法なものとして却下するのは適切でない,と主張する。


 しかしながら,特許出願の分割は,明細書,特許請求の範囲等の補正をすることができる期間内に限り行うことができるのであり(平成18年改正前の特許法44条1項),補正ができるのは,事件が特許庁に係属している場合に限られるから(特許法17条1項本文),分割の際に,もとの特許出願が特許庁に係属していることが必要である。


 本件においては,本件審判請求が法定期間を徒過した不適法なものであることにより本件原出願の拒絶査定が確定したため,本件出願当時において,本件原出願は特許庁に係属しておらず,本件原出願の「補正をすることができる期間」は発生しないから,本件出願は,たとえ本件審判請求から30日以内に行われたものであっても,分割の時期的要件を充たさず不適法というほかない。


 分割がいったん適法に行われた場合には,その後に原出願が拒絶査定不服審判請求の取下げ等により特許庁に係属しなくなったとしても,分割出願が不適法となることはなく,その意味で原出願の審判請求手続と分割出願手続とは別個の手続であるということはできるものの,本件においては,上記のとおり,分割が適法に行われたということはできず,審判請求手続と分割出願手続とが別個の手続であるからといって,本件出願を適法なものとみる余地はないというべきであるから,原告の上記主張は失当である。


(3) 原告は,本件出願後,本件処分まで約1年3か月もの期間が経過したため,原告において本件出願が適法に受理されたと信頼していたものであり,本件処分は,原告の信頼を著しく損なうものである旨主張する。


 しかしながら,本件出願から本件処分まで長期間を要したことにより本件出願が適法に受理されたとの信頼が原告に生じたとしても,そのことによって,不適法な本件出願が適法なものとなると解する余地はないというべきであるから,原告の上記主張は失当である。


(4) 原告は,原告の会社設立国である米国においては,本件のように出願人が応答期間を徒過した場合でも,それが故意でない場合には出願が救済される旨の規定があり出願が適法なものとして扱われることを考慮すべきである旨主張する。しかしながら,属地主義の原則により,米国における規定が本件処分の効力を左右するものでないことは明らかであるから,原告の上記主張は失当である。

(5) 以上のとおりであるから,違法事由1は理由がない。


3 違法事由2について

 原告は,本件審判請求が不適法なものであることは直ちに明らかな事項であるから,特許庁としては,本件審判請求を速やかに却下した上で本件出願につき却下理由を通知するか,本件審判請求を却下するまでもなく,直ちに本件出願につき却下理由を通知することができたにもかかわらず,本件出願から却下理由の通知まで約1年を要し,本件処分まで約1年3か月を要したため,原告は,本件出願が適法に受理されたと信頼し,本件出願に係る特許につきライセンス契約を締結してしまったものであるから,本件処分は,原告の信頼を著しく害し,かつ著しい不利益を被らせるものであり,信義則上,行政裁量を逸脱,濫用したものとして違法と判断されるべきであると主張する。


 しかしながら,そもそも,本件審判請求のように審判請求期間経過後に請求された拒絶査定不服審判は不適法であって,拒絶査定が確定する結果,分割出願の形式的要件(時期的要件)である「補正をすることができる期間」がそもそも生じず,本件出願が同要件を充たさず不適法であることは,平成18年改正前の特許法44条1項その他の規定から明らかである。


 仮に,原告において,期間の経過により本件出願が却下されないと信頼したとしても,それは特許法の規定の不知ないし誤解に基づくものにすぎず,そのような信頼は,法的保護の対象とはならないというべきである。仮に,本件処分が原告の上記信頼を損なったとしても,そのことは,何ら本件処分を違法とする根拠とはならない。
違法事由2も理由がない。


4 違法事由3について

 原告は,本件出願が分割要件を欠く不適法なものであっても,その出願日を原出願の出願日まで遡及させず,本件出願日に出願された通常の特許出願と扱えば足りるから,本件出願そのものを却下するのは違法である旨主張する。


 しかしながら,特許法上,不適法な分割出願を,原出願の日に出願日が遡及しない通常の特許出願とみなす旨の規定はなく,そのように解釈すべき根拠も見当たらないから,原告の上記主張は法的根拠を欠くものであり,採用することができない。違法事由3も理由がない。

5 よって,原告の本訴請求は,理由がないから,これを棄却することとし,訴訟費用の負担につき民事訴訟法61条を,控訴のための付加期間につき同法96条2項を適用して,主文のとおり判決する』


 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照して下さい。