●平成19(ワ)2076損害賠償請求事件 特許権「組合せ計量装置」(3)

 本日も、『平成19(ワ)2076 損害賠償請求事件 特許権 民事訴訟「組合せ計量装置」平成22年01月28日 大阪地方裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20100212102033.pdf)について取り上げます。


 本件では、争点6−1(日本国内で製造され日本国外向けに販売された被告物件が損害賠償の対象に含まれるか)についての判断も参考になるかと思います。


 つまり、大阪地裁(第21民事部 裁判長裁判官 田中俊次、裁判官 北岡裕章、裁判官 山下隼人)は、


『7 争点6−1(日本国内で製造され日本国外向けに販売された被告物件が損害賠償の対象に含まれるか)について


(1) 被告は,(i)原告が本件特許権により独占的な利益を得ることができるのは日本国内の市場だけであり,日本国外の市場を独占することはできないから,被告が外国に販売した被告物件については,損害賠償の対象からは除外されるべきである,(ii)本件和解により本件特許発明と実質的に同一の技術を対象とする米国125特許発明の実施を許諾されているところ,これは米国に輸出する目的で米国125特許発明の実施品である被告物件を日本国内で製造することをも許諾するものであるから,米国向けの被告物件は損害賠償の対象には含まれない,(iii)原告と原告の関連会社が,EP268346号特許権に基づき,被告の取引先を被告として,被告が製造販売した本件訴訟と同一の被告物件を対象として,欧州において損害賠償請求訴訟を提起しており,欧州と日本とで二重に損害の賠償を受けることは著しく損害賠償制度の趣旨を逸脱するものであるから,欧州向け被告物件についても損害賠償の対象から除外すべきである,と主張する。


(2) 被告の主張(i)について

 本件特許権が日本国内でのみ効力を有するものであることはいうまでもないが,特許権者である原告としては,業として日本国内で本件特許発明の実施品を製造し日本国内でこれを販売することだけでなく,業として日本国内で本件特許発明の実施品を製造してこれを外国の顧客等に向けて販売(輸出)するという実施行為をする権利を専有し,これらの実施行為について本件特許権に基づく独占権を有している(特許法68条,2条3項1号。なお,本件特許権の存続期間中の行為に適用される平成18年法律第55号による改正前の特許法2条3項1号及び平成14年法律第24号による改正前の特許法2条3項1号では,輸出自体は発明の実施行為とはされていなかったが,日本国内から外国の顧客等に販売することは上記各規定で定められていた譲渡に該当する実施行為であるから,原告が実施権を専有する実施行為に該当することは明らかである。)。


 そして,弁論の全趣旨によれば,被告は,米国では,販売会社である「Yamato Corporation Dataweigh Division in USA」(以下「YDW」という。)を設立し,YDWを通じて被告物件の機種,仕様,付属装置の有無等の顧客の要望がまとめられた注文を受けて日本国内で被告物件を製造し,これをいったんYDWに販売した上で顧客に納品していたこと,米国以外の外国の顧客についても,米国と同様の方法で被告物件を販売していたことが認められる。


 かかる被告の行為が原告が有する上記独占権を侵害することは明らかであり,これにより原告が上記独占権に基づいて得ることができた利益を失ったことも明らかである。したがって,被告の主張(i)は,採用することができない。


(3) 被告の主張(ii)について

ア 証拠(乙83)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。

(ア) 原告は,昭和59年3月22日,被告を債務者として,原告の有する自動定量計量装置に関する特許権に基づき,被告の自動定量計量装置の製造販売の差止めを求める仮処分を申し立て(東京地方裁判所昭和59年(ヨ)第2527号),被告との間において,昭和63年4月15日,次の内容の本件和解を成立させた(以下の和解条項中の「原告」は原文の「債権者」を,「被告」は原文の「債務者」を,それぞれ読み替えたものである。)。


a 前文

「原告及び被告は,裁判官の勧告に従い,両者間の特許紛争を全世界的に解決するため,現在両者が有している特許権及び現在公開されている両者の特許出願中の権利を対象として,次のとおり和解することとする。」


b 和解条項

「一原告は,被告に対し,別紙工業所有権目録(一)記載の特許権実用新案権を含む。以下同じ。)について通常実施権(範囲に制限のない無償の非独占的実施権とする。以下同じ。)を許諾する。自動定量計量装置に係る特許権であって,本和解成立の日までに成立するものについても,同様とする。

二原告は,被告に対し,別紙工業所有権目録(二)記載の特許出願(実用新案登録出願を含む。以下同じ。)中の権利について,その実施を許諾し(範囲に制限のない無償の非独占的実施の許諾とする。以下同じ。),かつ特許権の成立を停止条件としてその通常実施権を許諾する。自動定量計量装置に係る特許出願中の権利であって,本和解成立の日までに出願公開されるものについても,同様とする。

三被告は,原告に対し,別紙工業所有権目録(三)記載の特許権について,通常実施権を許諾する。第一項後段の規定は,この場合に準用する。

四被告は,原告に対し,別紙工業所有権目録(四)記載の特許出願中の権利について,その実施を許諾し,かつ特許権の成立を停止条件としてその通常実施権を許諾する。第二項後段の規定は,この場合に準用する。」


(イ) 本件和解の別紙工業所有権目録(一)ないし(四)(以下「本件目録」という。)には,日本特許,米国特許,オーストラリア特許,英国特許など合計約900件にのぼる特許権及び実用新案権並びに特許出願中の権利及び実用新案登録出願中の権利が国ごとに分類されて記載されている。


(ウ) 本件特許は,本件和解当時特許出願中であったところ,同出願中の権利は本件目録に記載されておらず,また,本件特許の出願公開がされたのは本件和解成立後の昭和63年5月31日である。したがって,本件和解の第二項にいう「特許出願中の権利であって,本和解成立の日までに出願公開されるもの」には該当しない。


(エ) 米国125特許権は,本件目録のうち工業所有権目録(一)に記載されている。したがって,米国125特許権は,本件和解により被告に通常実施権が許諾されたことになる。


イそこで,検討するに,原告が有する米国125特許権については,本件和解により被告に通常実施権が許諾されたものであり,これが本件特許権と実質的に同一の技術を対象とすることについては原告も争っているものではない。被告が主張するように,米国に輸出する目的で米国125特許発明の実施品である被告物件を日本国内で製造することが本件和解により許容されるとすれば,その限度で本件特許権についても被告に実施権が許諾されたことになる。


 しかし,本件和解は,実施許諾の対象となる特許権等の権利について,本件目録に記載されたもの,「自動定量計量装置に係る特許権であって,本和解成立の日までに成立するもの」及び「自動定量計量装置に係る特許出願中の権利であって,本和解成立の日までに出願公開されるもの」として許諾の対象範囲を明確に特定しており,本件特許の出願公開がされたのは本件和解成立後であるから,本件和解条項の文言からは,本件特許権が本件和解による実施許諾の対象から除外されることは明らかである。


 そして,特許権は各国ごとに成立する別個の権利であり,実質的に同一の技術を対象とするものであっても,各国の特許権について,それぞれの国の市場状況等に応じて,ある国では実施を許諾し,他の国では許諾しないということは当然にあり得ることであって,このことは何ら不自然なことではない上,本件和解による実施許諾の対象が記載されている本件目録においても,各国ごとに実施許諾の対象となる特許権等は分類して記載されているのであるから,原告と被告が,本件和解において,各国の特許権ごとに実施許諾をするか否かを個別に決定することを当然に前提としていたことが明らかである。


 この点,被告は,原告と被告のいずれも外国に生産設備を有しておらず,そのことをお互いに認識した上で,世界的な紛争を解決するために本件和解をしたと主張するが,そうであったとしても,原告と被告は,そのことを前提として,外国の特許権と日本の特許権とを明確に区別して各別にその実施許諾の対象にするという本件和解をしているのであるから,許諾された外国の特許発明の実施(販売)のために日本国内で製品を製造することまでを許諾する意思を有していたと認めることは困難である。


 以上によれば,本件和解において,被告に米国125特許権の実施が許諾されたとしても,それは米国内で米国125特許発明を実施することを許諾するものにすぎず,原告が米国向けの製品を製造し販売するという限度であっても,本件特許権について被告に実施を許諾した,すなわち日本国内で被告物件を製造販売することを許諾したとまで解することはできない。


 したがって,被告が日本国内で被告物件を製造して米国の顧客等に向けて販売した行為は本件特許権を侵害する行為というべきであるから,米国向け被告物件を損害賠償の対象から除外することはできない。被告の主張(ii)も採用することはできない。


ウ被告の主張(iii)について

 被告が主張するように,原告と原告の関連会社が,EP268346号特許権に基づき,被告の取引先を被告として,被告が製造販売した本件訴訟と同一の被告物件を対象として,欧州において損害賠償請求訴訟を提起しているとしても,EP268346号特許権と本件特許権とは別個の権利である上,原告は,本件訴訟において,特許法102条2項に基づいて被告が被告物件を製造販売したことにより得た利益を損害としてその賠償を求めているものであり,被告の取引先が得た利益を原告の受けた損害としてその賠償を求めるものではない。


 したがって,原告が日本と欧州とで同一の被告物件について二重の賠償を得ようとしているとは認められず,欧州向けの被告物件を対象とする本件における原告の請求を制限することは相当でない。被告の主張(iii)も採用することはできない。


エ 以上に検討したとおり,被告が日本国内で製造し外国向けに販売した被告物件はいずれも本件請求に係る損害賠償の対象に含まれるというべきである。』


 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照してください。